獄寺がシャワーを浴びている間に、綱吉は食事を終えていたようだ。
気がつくと、素っ裸の男が獄寺の背後に立っていた。
「石鹸のにおいがしているね」
ピタリと獄寺の背中に体を密着させて、綱吉が言う。
シャワーの音よりも綱吉の少し掠れた声よりも、獄寺の胸の鼓動がいちばんうるさく感じられた。
「じっ……十代目?」
身じろぎしようとすると、素早く腕を掴まれた。やんわりと、しかし確実に獄寺の手を捕らえ、放さない。
「お疲れなのでは……」
獄寺が口早に言おうとするのを、綱吉は肩口に唇を押しつけることで遮った。
「疲れたよ。会食で知らない人たちと食事をするのは、もう嫌だ。しばらくは家でのんびりしたいよ」 家というのは、綱吉の育った生家のことだ。今は母の奈々が一人で住んでいるが、毎日のように誰かが入れ替わり立ち替わり顔を出しているから寂しくはないらしい。しかし時折、綱吉はあの家に帰りたいと思うことがあるようだった。
綱吉の言葉に獄寺は、息を飲んだ。
自分と同じ歳なのだ。中学に上がるまで何も知らずに育った綱吉がマフィアのボスになるには並大抵ではない苦労があったはずだし、獄寺もその一部を目の当たりにしてきている。口に出して言わなかった綱吉の葛藤は、いつ、誰がどのようにして解消してやったのだろうか。それが自分であればいいと思うものの、誰か他に……たとえば山本やディーノなどにも相談していたのだろうか。そんなことを考えると、いるのかどうかわからない相談相手に対して獄寺は、嫉妬心を感じてしまう。
「十代目……」
腕を掴む綱吉の手に、獄寺は黙って手を重ねた。
シャワーに打たれながら、綱吉に抱かれた。
背後から抱きしめられると、ちょうど獄寺の尻のあたりに綱吉の高ぶりが押しつけられるような格好になる。逃げようと身じろぎをすると、さらに強い力で抱きしめられた。
焦らすような穏やかな動きで、綱吉の手がゆっくりと獄寺の体を這い回る。下へと向かって、じりじりと進んでいく。
「ぁ……」
タイル張りの壁に手をついて、獄寺は焦れったさで揺らぐ体を支えようとした。
肩口に押しつけられる綱吉の唇と舌の熱さに、獄寺の体温も少しずつ上昇していく。
「震えているの?」
小さく笑いながら、綱吉が尋ねる。
熱い吐息が獄寺の耳にかかり、ゾクリと背中が震えた。
「いえ、そんなこと……」
返しながらも獄寺は、綱吉を感じている。肩に触れる唇、舌先、下肢の繁みを掻き分ける指遣い、耳元にかかる吐息、尻にあたる高ぶり。シャワーの音がうるさいのが幸いだ。
「それより、お体を流しましょうか、十代目」
掠れた声で、獄寺は問う。
体が反応しそうになるのを理性を総動員させてぐっと押し止めると、獄寺はくるりと綱吉のほうに向き直った。
「お疲れでしょうから、俺が……」
そう言うと素早くボディソープを手に取り、綱吉の体に塗りたくる。
「洗ってくれるの?」
すっと目を細めた綱吉は、剣呑な笑みを口元に浮かべている。
目を伏せて、獄寺は頷いた。
スポンジを泡立てて、丁寧に綱吉の体を洗っていく。
見られているのがどことなく恥ずかしく、獄寺は始終伏し目がちで、手元ばかりを見つめていた。
膝の裏やかかとまでも丁寧に洗い終えると、獄寺はうかがうようにちらりと綱吉の顔を見る。
「流します」
どことなくぶっきらぼうに告げると、シャワーのノズルを手にした。湯加減を確かめてから体についた泡を素早く洗い流してしまうと獄寺は、綱吉の足の間にひざまづいた。淡い緑色の瞳は、既に潤んでいる。
「……いい、ですか?」
微かな獄寺の囁きに、綱吉はピクリと眉を動かした。
「なにが?」
感情を抑え気味にした綱吉は、そっと獄寺の肩に手を乗せた。体についた泡を洗い流したことで、綱吉の股間の状態はさっきよりもはっきりと獄寺に見えているはずだ。
「十代目……」
なにか言いたそうに獄寺は口を開きかけたが、綱吉は肩に置いた手に力を入れただけだった。
「まだ、洗い残しがあるよね」
するりと獄寺の肩を撫でながら、綱吉は言った。
見つめ合った獄寺の瞳が、すっと細められる。
「……よろしいのですか?」
獄寺は、綱吉の体を心配している。このところ忙しすぎた綱吉に負荷をかけないかと気にしているのだ。もちろんそれは、右腕である獄寺にしても同じことだし、もしかしたらセックスの時に受ける側になる獄寺にかかる負荷のほうがもっと大きいものかもしれなかったが。
「君は、少し心配しすぎだよ、獄寺君」
苦笑して綱吉は、獄寺の細い銀の髪に指を差し込んだ。わしゃわしゃと撫でると、獄寺は心地よさそうに目を細めた。その仕草が猫のようで、綱吉はまた、小さく笑った。
「んっ……」
甘い声があがるのを、獄寺は隠そうともしない。
綱吉の性器を両手で大切そうに包み込むと、先端に唇を押し当てた。
唇と舌とで滑らかな亀頭の部分を何度もなぞり、割れ目を吸い上げる。綱吉はタイル張りの壁に背を預けると、獄寺の頭に手を添えた。
シャワーを止めたバスルームに、湿った音が響いている。時折そこに、獄寺の鼻にかかった甘い声や、綱吉の切羽詰まったような呻き声が入り交じった。
「じゅ…だい、め……」
はあ、と息をつきながら獄寺は、綱吉の性器を口に含む。喉の奥にあたるほど深くくわえこむと、口角をきゅっと締めて唇全体で竿を扱いた。すらりと伸びた白い指が、気紛れに玉袋を揉みしだいている。
口を放すと、プルンと綱吉の性器が揺れた。先走りと獄寺の唾液とで、てらてらと光っている。張り詰めて、硬くなったものを片手で掴むと、獄寺は裏のほうへと舌を這わせる。チュ、チュ、と音を立てながら竿の裏を愛撫し、最後に袋を口に含んだ。舌でころんとした部分を軽く押しやり、吸い上げる。
「獄寺君……もう、いいよ……」
ゴクリと唾を飲み込んで、綱吉が獄寺の髪を引く。顔をあげた獄寺は、物足りなさそうな表情をしながらもゆっくりと綱吉から離れた。
「上に、乗ってくれる?」
そう言うと綱吉は、床に座り込んだ。
同じ目線になった二人は軽いキスを何度か交わした。
相手の唇を軽く噛み、舌で前歯をなぞっていく。ゲームのようなやりとりを繰り返しながら、互いの体の距離を近づける。
「失礼します、十代目」
礼儀正しく獄寺は声をかけると、綱吉に跨った。
後ろ手に綱吉の性器を探り当てると、自分の尻に押し当て、ゆっくりと先走りと唾液にまみれた先端を塗り込めていく。
「俺にも、触らせてくれる?」
悪戯っぽく綱吉が言い、するりと獄寺の尻を撫でた。白い尻の狭間の窄まりを指で揉みほぐしながら、時折、中に指を忍び込ませる。
「あっ……ぁ……」
肩口にしがみついた獄寺の腰が浮き上がるのを見計らって、綱吉は指をぐい、と窄まりに押し込む。
「ぃ…っ……」
内壁をぐるりと指の先で引っ掻くと、綱吉はもう一方の手で獄寺の顎を捕らえた。
「俺を見て、獄寺君」
鼻先にキスをすると、獄寺の潤んだ瞳が綱吉を見つめ返す。翡翠色の淡い瞳は、濡れて色っぽい光を放っている。
「あなたが、早くほしい……」
掠れた声で獄寺はねだった。
体の中に潜り込んでいた指が、内壁を押し広げながらゆっくりと出ていく。
排泄感を覚えた獄寺は、綱吉の肩にしっかとしがみついた。このまま窄まりを大きく広げられたなら、とんでもないことになりそうな気がする。
「十代目……」
今にも泣き出しそうな声で呼ぶと、やさしいキスが髪に、頬におりてくる。
「焦らさないでください」
そう告げる獄寺の声は、上擦っている。
綱吉は窄まりの入り口で指をくい、と折り曲げて、内壁を大きく広げた。
「あ……」
すぐに熱い塊が、引き抜かれた指のかわりに獄寺の中に入り込んでくる。
「ぅ、あ……」
微かに肩を震わせる獄寺を、綱吉は抱きしめた。
「痛くしてゴメンね」
仕方のないことだとわかってはいても、つい、綱吉の口をついて出てしまう。
獄寺は首を横に振り、いっそう強い力で綱吉にしがみついていく。綱吉の指が与えた以上の異物感に、体がついていこうとしない。そのくせ待ち焦がれていたこの熱さに、獄寺の心は満足しているのだ。
「大丈夫です」
啜り泣きながら、獄寺は言った。
「このまま続けてください、十代目」
熱い塊を体の奥まで飲み込んでしまうと、獄寺は息が整うまでじっと綱吉にしがみついていた。その間、男の手は獄寺の喉に触れ、そこから胸の尖りに辿り着いた。きゅっと乳首を摘み上げると、軽く捻ってみせる。手のひらが乳首を覆い、コロコロところがされると獄寺の体の芯が熱を持ち、歓喜に震えた。
「気持ちいい?」
綱吉に尋ねられ、獄寺は頷いた。
何も考えられないような快感が、獄寺を支配していた。
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