Un bacio della felicita 3

  綱吉の体にしがみついた獄寺は、自分からすすんで腰を動かした。
  下から突き上げられられると、結合部がきゅっと窄まり、綱吉を締め付ける。そうすると中に潜り込んだ性器の形がはっきりと感じられた。括れの部分が焦らすように獄寺のいいところをなぞりあげると、それだけで体が震える。バスルームに響くのは、湿った音と、綱吉の熱い吐息と、獄寺自身の甘ったるい声ばかりだ。
  恥ずかしかった。
  反響する自分の声にさらに煽られ、体が熱くなっていく。
  いつもそうだ。綱吉に抱かれることに対して抵抗など一度も感じたことがないというのに、恥ずかしさと体の熱とに浮かされて、抱かれることが嬉しいのか嫌なのかがわからなくなることがあった。
  触れてくる指や舌に翻弄される自分が、自分でなくなってしまいそうな気がするのだ。
「十代目……」
  掠れた声で獄寺が呟くと、綱吉は優しい笑みを向けてくる。
「隼人。もっと声、出して」
  耳元で囁かれ、獄寺の全身の筋肉がきゅっと収縮するような感じがした。
「ぁ……」
「ほら、そんなに締め付けたら辛いだろ?」
  そう言うと綱吉は、獄寺の下腹部へと手をやった。触れられもしないのに先走りでぐっしょりと濡れた性器をきゅっと掴まれると、獄寺の体の熱がその一点に集中したような感じになった。
「だ…め、です、十代目」
  綱吉の肩口にしがみついて、獄寺は訴えた。
「なにがダメなの?」
  からかうように綱吉が尋ねる。
「も、イキそうで……」
  啜り泣くような獄寺の声に、綱吉は満足そうに喉を鳴らした。
「いいよ。見ててあげるから、自分でして?」



  獄寺の手がゆっくりと、綱吉の手に重ねられる。
  手を上下させると、綱吉の手も合わせて上下する。獄寺の動きに連動しているのだ。
「ぁ……」
  口をだらしなく半開きにして、獄寺はペロリと自分の唇を舐めた。
「すごくいやらしい表情だよ、今」
  そう言って綱吉は、無邪気に微笑む。
  掴んだ性器の根本をきゅっと締め付けながら綱吉が小刻みに手を上下させると、獄寺は慌ててその手を引き剥がそうとした。
「やっ……ダメです、十代目」
  立て膝にして跨った綱吉の太股の上で、獄寺は必死になって快感の波をやり過ごそうとした。
「俺ばっかり……」
  口早に呟いて、獄寺は俯いた。
  頭の中が真っ白になって、バスルームに響く音がどこか遠くから聞こえてきているような感じがした。
  綱吉の首筋にしっかとしがみついた獄寺は、拳を口元にあてがって息を殺した。
「んっ、ん…ぁ……」
  下腹部の腹筋がヒクヒクとなっているのを目にした綱吉が、小さく笑う。
「素直にイけばいいのに」
  そう言うと綱吉は、獄寺の髪に何度もキスを降らせた。
  綱吉にしがみついたままの獄寺は、嫌がるように首を横に振りながら掠れた悲鳴をあげた。
  不意に綱吉の手に、溢れ出した精液がたらたらと伝い落ちてきた。
  生暖かいその感触に、獄寺は深い呼吸を繰り返している。
「……狡いです、十代目」
  俯いたまま、獄寺はくぐもった声で言った。
「なにが?」
  綱吉が尋ねる。
  獄寺は、自分の性器をまだ握りしめていた綱吉の手を取り、自分の口にその指を含んだ。
「俺のどこが狡いの、隼人?」
  穏やかな声に、獄寺は苛立ちを感じた。口に含んだ綱吉の指を吸い上げ、軽く前歯で甘噛みした。
「痛っ」
  慌てて綱吉が手を引こうとするのを、獄寺は追いすがるようにして唇で挟んだ。舌を絡めて指を吸い上げると、青臭い精液の味が口の中に広がる。
  目を上げると、綱吉がどこか困ったような表情をして獄寺を見つめていた。



  バスルームで抱き合った後、二人は部屋に戻った。
  獄寺はさっさと服を着込むと、自室へ戻ろうとする。本当は、綱吉のそばにいたかった。しかしケジメというものがある。守護者の自分が綱吉の部屋で一晩を過ごしでもしたら、それこそ噂の種になってしまうかもしれない。この時間から自分の部屋に戻るのは億劫だったが、仕方がない。ネクタイを締め直し、何事もなかったかのように綱吉の前に立った。綱吉はベッドに腰かけていた。
「今日はもう遅いですから、自分の部屋で休みます」
  そう告げた獄寺に、綱吉は怪訝そうな顔を向けた。
「なんで?」
  ルームウェアの下を身につけただけの綱吉は、なにか言いたそうに獄寺の指先をぎゅっと握り締める。
「今夜は、ここで休んでほしいな」
  甘えるように綱吉が言うのに、獄寺は眉をひそめた。
「しかし……」
  疲れているはずの綱吉にはゆっくりと休息をとってほしい。そう思うのは、悪いことなのだろうか。
「いいから、いいから。今日はもう遅いんだから、ここでゆっくりと休むといいよ、獄寺君」
  あっさりと自分の言葉を綱吉に返され、獄寺は肩を落とした。張り詰めていた気持ちが、少しだけ緩んだような気がする。
「では、お言葉に甘えて……」
  そう言った獄寺の腕をぐい、と綱吉は引き寄せた。
  バランスを崩した獄寺が、ベッドの上の綱吉に覆い被さるような格好になる。
「今日はもうなにもしないから、一緒に眠ろう」
  抱きしめられ、やさしく綱吉に諭された。
  獄寺の気持ちを宥めるようにゆっくりと、綱吉の手が銀の髪を撫でつける。髪を梳く指の感触に、獄寺はうっとりと目を閉じる。
「……はい」
  返した言葉は、単純なものだった。



  ベッドに二人して潜り込むと、互いの体に腕を回した。
  着ていたものを脱いでしまった獄寺は、裸だ。それで構わないと綱吉が言ったのだ。
  なにもしないなんてことはないのだと、こっそりと獄寺は思う。結局のところ綱吉は、自分を抱くのだ。場所がどこだろうと構わない。綱吉の思うがままに、その時々で場所をかえて獄寺は抱かれてきた。
  嫌ではない。
  綱吉の指も、声も、汗のにおいも獄寺は好きだ。
  しかしただ単に好きだというだけではすまされないなにかが、最近の獄寺の葛藤となって表面に現れてきている。
  互いの体に触れることで温もりを共有する。抱きしめる腕の力は強いが、苦しくはない。相手を離さないようにしっかりと腕を絡めた。
  耳に響く鼓動は穏やかで、とても静かだ。
  部屋の暗がりを、獄寺はありがたく思った。
  今の自分はきっと、不安そうな顔をしているはずだ。
  綱吉のことをいちばんに信頼しなければならない自分が、信じられなくなってきている。もちろん仕事上での信頼にはなにひとつ問題はなかったが、それではプライベートな面での信頼はどうなのだろう。
  獄寺自身は、綱吉との関係がうまくいっているとは思えないでいた。
  苦しくて、苦しくて、たまらない。
  自分のこの不安定な気持ちを綱吉が知ることはないだろうし、わざわざ知らせようとも思わない。自分ごときのことで綱吉を煩わせるわけにはいかないと思ってのことだ。
  縋りつくようにして綱吉の体に回した腕にぎゅっと力を込める。
  眠ったと思っていた綱吉が、それに応えるようにして獄寺の体を抱きしめる。
  獄寺の体の熱が、明らかに上昇した。



  綱吉の手はやさしかった。
  獄寺の下腹部をやわやわと撫でると、そのままさらに下へと伝い降り、繁みの中でくたりと萎れたままの性器を握りしめた。
「あっ……」
  ヒクッと獄寺の喉が蠢く。
「もう一回しても大丈夫かな」
  確認するように、綱吉の声が獄寺の耳元でした。
  その間にも悪戯な指が、獄寺の性器を軽く引っ掻いて刺激している。
「ね、隼人はどうしたい?」
  焦らすような綱吉の指遣いに、獄寺の腰がもぞもぞと動いた。
「──…もう一回、してください」
  掠れた声は小さくて、綱吉の耳がはっきりとその言葉を聞き取ることは不可能だった。
  しかしそれでも綱吉は、ちゃんと獄寺の言いたいことを理解していた。
「うん、わかった」
  ひどく真面目な声でそう返すと、綱吉は獄寺の頬に手をやった。
  キスされるのだと思うとそれだけで獄寺は妙に構えてしまう。緊張で体を硬くしたまま、綱吉のキスを受けた。
「なに、どうかした?」
  綱吉に尋ねられても、なんでもないと返すのが精一杯だ。
  獄寺の胸の内に渦巻いている想いに気付かないふりをしたまま、綱吉はもういちどキスをした。
  チュ、と音がして、舌が獄寺の口の中に潜り込んでくる。
「ん、ふ……」
  口の中を掻き混ぜる熱い舌に、獄寺は酔わされていく。
  暗がりでキスしているというのに、獄寺は目眩を感じた。綱吉の腕にしっかりと掴まり、深く唇を合わせる。唾液が絡まり合い、喉の奥へと落ちていく。甘い。どうしてこんなにも甘いのだろうかと思いながら獄寺は、誘われるままに綱吉の口の中へ自分の舌を差し込む。舌の裏を舐めると、綱吉が嬉しそうに喉を鳴らした。ゴクリと喉が鳴るのが感じられ、自分の唾液を綱吉が飲んだのだと思うと、急に気恥ずかしくなった。
「ぁ……」
  名残惜しそうに唇が離れていくと、綱吉が囁いた。
「この唇、誰にも触らせないで」
  その瞬間、獄寺の体の奥で燻っていた熱がすーっと冷めていく。
  そそくさと綱吉に背を向けると獄寺は、両手で唇を覆った。



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(2009.10.27)


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