「やさしい背中 2」

  獄寺の背をボンネットに押しつけて、キスをした。
  舌を絡め、くすぐるようにそっと吸い上げてやると、獄寺の口の端から甘い吐息が洩れ出してくる。
  肩に置かれた獄寺の手が、ぎゅっと綱吉の上着を握りしめてくる。
「ん、ん……」
  唇を深く合わせると、握りしめた手がさらに強い力で綱吉の肩を掴んだ。
  舌の裏を刺激し、ねっとりと歯列の裏を舐めあげていく。どちらのものともわからない唾液がたらりと獄寺の口の端から零れ落ち、顎を伝い落ちていく。
  唇を話すと、綱吉は邪気のない笑みを浮かべた。
「シーチキン味のキスだったね」
  そう言って、こんどは獄寺の首筋に唇を這わす。
「十代目……」
  掠れた声で、獄寺が呼ぶ。
「大丈夫……だと、思うよ。車の通りもないし、人なんかぜんぜん歩いてないし」
  しれっとして答えると綱吉は、獄寺の体をボンネットの上に押し倒した。
  獄寺の足の間にぐい、と自分の体を割り込ませ、鎖骨のくぼみをベロリと舐めあげる。
「ぁ……」
  弱々しく獄寺の手が抵抗しようとしたが、白い肌になんども口付けていくうちに、力が抜けていくのが感じられた。
  太股の内側に綱吉は膝を押しつけた。膝が動くたびに獄寺の体が何かを堪えるように強張る。
「最後までしないから安心してよ?」
  安心させるように言って、綱吉はまた獄寺の唇を吸った。
  シーチキンの味がするキスはお気に召さないのか、獄寺はまだ顔をしかめていた。



  シャツの上から胸のあたりをなぞってやると、獄寺の体が微かに震えた。
  衣服の上から胸を指の腹で何度かこすっていると、乳首が立ち上がってくるのがわかった。布地の舌の尖りを刺激すると、獄寺はそのたびに綱吉の肩に回した手に力を入れる。素直な反応に、綱吉は小さく笑った。
「十代目、もう……」
  獄寺の口からはっきりとした制止の言葉は出てこなかった。だから綱吉は、獄寺の言葉を無視した。
  布地越しに爪を立てて胸の尖りを押しつぶすと、甘い悲鳴が獄寺の唇から洩れた。肩口にしがみついた獄寺の手にいっそう力がこもる。
  恨めしそうに見つめてくる獄寺の瞳があまりにも綺麗な翡翠色をしていたから、綱吉は吸い込まれてしまいそうな気がした。
  そっと手のひらで獄寺の太股をなぞりあげ、股間の際どいところを指で辿る、カチャカチャと音を立ててバックルを外してやると、下着ごとズボンを膝のあたりまでずり下げた。
「十代目?」
  こうされても、駄目だとはっきり口にしない獄寺に、綱吉は少しだけ苛つきを感じる。嫌なら嫌と、はっきり言えばいいのに。そう思いながら獄寺の足の間にひざまづいた。
  綱吉がしようとしていることに気づいた獄寺は、咄嗟に綱吉から身を離そうとする。が、背後の車に阻まれて、後ずさることもできない。
「困ります、十代目。車が通りかかったり、誰か人が来たら……」
  必死になって言い訳を探す獄寺が可愛らしい。
  繁みの中に埋もれてくたりと頭を垂れる性器に。綱吉は唇を寄せた。パクリと口にくわえると、途端に獄寺の手が綱吉の頭を引きはがそうとしてくる。
「十代目……十代目、駄目です。そんなふうにしたら……」
  慌てる獄寺の声がどことなく震えているような気がする。綱吉は顔を上げると、ペロリと先端をひと舐めした。
「大丈夫だよ、獄寺君。しばらくは車も人も通らない……と、思うよ?」
  たぶんと言い足して、綱吉は笑った。
  それから綱吉は、片手で獄寺の玉袋を揉みしだした。指先で袋を軽く引っ掻いてやると、獄寺は掠れた甘い声をあげる。
「ぁ……駄目です、十代目……」
  駄目だの困るだのと言いながら、それでも獄寺は本気で抵抗をしない。
「駄目なの?」
  尋ねながら、ちらりと上目遣いに獄寺を見遣る。勃起しはじめた性器に唇を寄せ、ゆっくりと口の中に招き入れた。口角をきゅっと締めて舌先でカリのあたりを吸い上げると、獄寺の膝がカクカクと震えた。
「あ、あ……」
  ボンネットに背を預けた獄寺は、後ろ手に体を支えている。目を閉じて、口をだらしなく半開きにした表情は、どこか無防備にも見える。
  先端のほうに先走りが滲んでくると、綱吉は口を離して指の腹で割れ目を何度もなぞってやった。にちゃにちゃと湿った粘着質な音がして、獄寺の押し殺した悲鳴が微かに聞こえた。



  どこかの時点で理性のたがが外れてしまっていたのかもしれないと、綱吉は思った。
  気付けば、獄寺の性器を口に含んでしゃぶりあげながら、後孔に指を這わせていた。
  悪戯に指で窪みに触れ、内壁をぐい、と押しやると、獄寺はそのたびに小さく声をあげた。啜り泣くような甲高い声が艶めいてくるまで、何度も執拗に繰り返した。
  そのうちに、それだけでは物足りなくなった。
  埋め込んだ指をくい、と折り曲げて、あたたかな内壁をやんわりと引っ掻いてみた。きゅっと穴が締まり、綱吉の指を飲み込もうと収縮を繰り返す。
「ぁ……」
  じわりと先端に溢れる先走りは、ドロリとした濃いものにかわっている。ねっとりとした味の先走りを、綱吉は音を立てて吸い上げた。
  獄寺の膝が微かに震えている。
  綱吉はあいているほうの手で、獄寺の太股をなぞりあげた。その途端にカクン、と獄寺の膝が力を失った。ボンネットに縋りつきながらもゆっくりと、獄寺の体が地面に座り込もうとする。
「座っちゃ駄目だよ、獄寺君」
  慌てて綱吉は、獄寺の体を支えた。



  ボンネットに上体を預けた獄寺は、綱吉のほうへと尻を突き出した。
  綱吉の見ている前で獄寺の後孔が、はしたなくひくついている。
「……やっぱり、最後までしていい?」
  いつもより煽られているような感じがして、綱吉は、獄寺のシャツをまくり上げ、背中を見た。痣の残る背中に指を這わせると、まだ痛みが残っているのか、獄寺の体が微かに竦められる。
「ここ、まだ痛いの?」
  少し前の小競り合いでできた痣は、汚い紫色になって残っている。白い肌に浮き上がっているだけに、余計に痛々しい。
「はい、少し……」
  掠れた声で、獄寺は律儀に返した。
  綱吉はその痣の中心に唇を寄せると、チュ、と音を立てた。この痣の上に跡を残すのはいまはまだやめておこう。そう思いながら、獄寺の前に手を回す。勃ち上がった性器を手のひらで包み込むと、きゅっ、きゅっ、と扱いた。声を押し殺した獄寺の背中が愛しくて、痣のない白い部分をきつく吸い上げた。
「あ、ぁ……」
  ボンネットに這わした獄寺の手が、焦れったそうになんども閉じたり開いたりしている。結局、握りしめた拳を獄寺は、口元へ持っていくことにしたらしい。
「ん、ぅ……」
  鼻にかかった声が、拳ごしに聞こえてくる。
「声、出したらいいのに」
  独り言のように綱吉は呟いた。



  挿入の瞬間、獄寺はか細いすすり泣きのような声をあげていた。
  ジェルもローションもないままに挿入するのは少しこわかったが、お互い、引き返すことのできないところまできて体が火照っていた。最後まではしないと言いながら挿入してしまったことが、綱吉には気がかりだったが。
  獄寺はおぼつかない足取りながらもその場に踏みとどまり、ボンネットからずり落ちないように上体ごとしがみついていた。
  綱吉が腰を揺さぶるリズムに合わせて、獄寺はか細い押し殺した声をあげる。
  中途半端にまくりあげたシャツがなんとなくいやらしい。シャツの下の白い肌も、その白い肌に浮かぶ紫色の汚い痣も、何もかもがいやらしい。
  屋外でこうして自分に抱かれている獄寺が、悪いのだ。
  半ば八つ当たりのように腰を激しく揺さぶると、そのうち獄寺が本格的にすすり泣きはじめる。
  いい歳の大人が、こんなふうにみっともなく泣くなんてと思いながらも、そうさせているのは自分なのだとふと、綱吉は気づく。
「ごめん、獄寺君」
  なにに対してのごめんなのか、自分でもわからずに綱吉は呟いた。
  獄寺は何も返さなかった。ただ、焦れったそうに自ら腰を揺らしただけだった。
  獄寺の背中にもういちど唇を落としてから綱吉は、今度はゆっくりと腰を動かし始める。
  繋がった部分から獄寺の背中へとまっすぐにのびる背骨のラインを指でなぞりながら、綱吉は射精した。
  ふと気づくと、目の前の愛しくて優しい背中は、ほんのりと緋色に色づいていた。



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(2009.9.13)


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