『保健室日和。』



  保健室のドアを開けると、サンジはそっと部屋の中へと一歩、足を踏み出した。
  授業中の校内はしんと静まりかえっており、足音を立てることですら憚られた。
  サンジは室内をぐるりと見回すと、誰もいないことを確かめてから施錠した。中からかける鍵はあまりあてにならなかったが、それでも鍵をかけないよりはずっと安心感が増す。
  救護用のベッドに潜り込むと、サンジはごろりと仰向けになった。
  ところどころ染みの浮き出て黄ばんだ天井の模様は、日によって違う形にも見えたし、同じ形にも見えた。
  煙草と携帯用のアッシュトレーをポケットから取り出すと、火をつけた。
  本当はこんなところで喫煙をしていいわけがないことはわかっていたが、無性に煙草が吸いたかった。
  誰もいないのをいいことに、これ幸いとばかりに一本目を吸い終えた。
  二本目に火をつけようとしたところで、おもむろにドアが開いた。
「ん?」
  パーテーションで仕切られているものの、部屋に広がる煙草のにおいで、気付かれたかもしれない。
  サンジはまだ火をつけていなかった煙草を慌ててポケットにしまい込むと、何食わぬ顔で眠ったふりをした。
  誰であろうと、この学園でサンジを退学に追い込むことのできる者はいなかった。



  理事長の孫という特権を楯に好き放題をするサンジに、教師陣もほとほと困り果てている状態が続いている。
  祖父の監視の目が光る学園で三年間も過ごさなければならないことを嘆くサンジにとって、教師など屁でも何でもない。
  好きなように生きていればよかった。
  もっとも、祖父は厳しかったが、何故だか学園でのサンジの生活に口出しをすることはなかった。
  入学から半年以上が過ぎた。そろそろ祖父も何らかの対策をうち立ててくる頃かと思われたが、いまだ動きはないようだ。
  ならば好きにするまでだと、サンジはいつものように保健室での昼寝を楽しもうと思っていたのだ。
  じっと眠ったふりをしていると、ドアが閉まり、鍵のかけられる微かな音が聞こえた。
  サンジがバラティエ学園に入学して半年、保健室に人のいたことはなかった。いつとはなしに無人の保健室は、気が付けばサンジの居場所となっていた。その保健室に、サンジと同じように大きな態度で入り込んでくる者がいる。いったいどんな奴なのだろうかと、サンジは薄目をあけてパーテーションの向こうの気配を読みとろうとした。



  足音がパーテーションの向こう側で止まったかと思うと、不意に勢いよくカーテンが開け放たれた。
  突然のことにドキン、とサンジの心臓が大きく胸を打つ。
  薄目をあけたサンジの前に、白衣姿の男が立ち尽くしていた。
「おや……1−Aのサンジ君」
  軽く鼻を鳴らし、男が言った。
  慌てて目を閉じて、サンジは眠ったふりをする。
「眠っても駄目だぞ。ここで煙草を吸っていたな」
  怒るでもなく、また口うるさい教師のようでもない男の口振りに、サンジはうっすらと目を開ける。
「狸寝入りをしていることはバレているんだ。起きたらどうなんだ?」
  男の言葉に、サンジは目を開けて上体を起こした。
  白衣姿の男は、頬にソバカスのある筋肉質な男だった。白衣を着ているからおそらく彼が保健医で間違いないのだろうが、それにしてもまるで体育教師のような体格をしている。
「アンタ……誰だよ」
  上目遣いにサンジは男を睨み付けた。
「おや、礼儀知らずのお坊ちゃんだな」
  そう言うと男は、ベッドに腰を下ろしてサンジの体を背中から羽交い締めにした。がっしりとした太い腕が、サンジの腕ごと体をぎゅっ、と抱き締める。
「入学以来、毎日ここでサボっているらしいな」
  男は、低い声でサンジの耳元に囁きかけた。
「理事長から直々に頼まれたぞ。孫をどうにかしてくれ、ってな」
  薄ら笑いを浮かべて、男はそう言った。
  逃げようと……男の腕から逃れようとサンジは腕を振り回そうとしたが、力では男に敵わなかった。
「離せっ……離せよ、オッサン!」
  語気を荒げて叫んだ瞬間、首筋に歯を立てられた。
「あ……んっ……」
  男の生暖かい舌と、鼻息がサンジの白い首を犯している。噛まれた部分がほんのりと赤く色付き、それを目にした男はニヤリと笑った。



「離せ!」
  男の腕を振り払おうとサンジが身を捩ると、するりとネクタイをはずされた。片手だけで易々とサンジの体の自由を奪った男のあいているほうの手が、器用にシャツのボタンを外していく。
「離したら、暴れるだろう?」
  楽しそうに男が返した。
「……ったり前だ!」
  ぐい、とサンジが肩を動かした途端に、シャツが引っ張られた。片方の肩がはだけ、ひんやりとした空気を感じたサンジは微かに身震いをする。
「白いな……」
  ぽつりと独り言を呟くと、男の唇はサンジの染み一つない肩口に吸い付いていく。
  熱い吐息と舌で肌をなぞられ、サンジの体はゾクゾクした。
「ぁ……」
  小さな声がサンジの口から思わず洩れ、身じろぐことすら忘れてしまったかのようにじっとしていると、遠慮のない男の手が我が物顔で肌の上を這いずり回りだした。
「ん…ゃ……」
  不意に男の手が、きゅっ、とサンジの乳首をつねりあげた。
  一瞬の痛みと、ピリピリとするような痛みの向こうの快感に、サンジの体が大きく揺らいだ。
「気持ちいいだろう?」
  男の吐息が、サンジの耳の中に吹き込まれた。



  逃げたいと、サンジは思った。
  この男の腕の中から逃げ出すことがかなうのなら、今のサンジは何だってするだろう。
「気持ちよくなんか、ねえ……」
  掠れた声で反発するものの、サンジの声に力はない。
  弱々しく首を横に振りながらも、サンジは体から力が抜けていくのを感じていた。
「嘘つきだな」
  言いながら男は、サンジのスラックスの前を広げた。
  するりと、男の手が下着の中に入りこんでくる。
  陰毛の中でくたりとなっているサンジのペニスを握り締めると、やわやわと扱き始めた。
「ほぅら。すぐにおっきくなってくるぞ」
  男の言葉に、サンジは身を竦めた。
  きゅっ、と扱かれるごとに、サンジのペニスが硬く勃起し始めていた。体が熱くなっていくのを、止めることができない。
「やめっ……」
  一度は男の手を掴んだサンジだったが、その手をどうにかするよりも早く、男が耳元に囁きかけた。
「その手は、動かすな。一緒に握ってろ」
  そう言われてサンジは手をひっこめようとしたが、その上からさらに男のもう一方の手に覆われた。
「な? 大きくなってきただろ?」
  男の手が、サンジの手を握ったまま上下する。陰茎が張り詰めて、先端に透明なものがじわりと滲み出すのを目にして、サンジは唇を噛み締めた。





To be continued
(H19.12.8)



             

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