業火 2



「おい、ツマミあるか?」
  不意に、キッチンのドアがバタン、と開いた。
  サンジの肩がビクッ、と飛び上がる。驚いた。日頃から粗忽なゾロだから、足音ぐらいはするだろうと思って油断していたのが悪かった。無言のままサンジはゾロを睨み付けた。
「お前も外に出てみろよ。いい風が吹いてるぞ」
  サンジの様子がいつもと違うことにも気付かないゾロは、軽く酔っているのか、上機嫌だ。
  愛想のよい笑みを浮かべると、サンジの腕を取って甲板へと引きずっていこうとする。
  今し方、自分が尋ねたツマミのことはすっかり頭の中から抜けてしまっているようだ。
「おい……おい、俺はまだ、片づけが……」
  言いかけたサンジの肩に、ゾロはあいているほうの手をかけた。ごつごつとした手は肉厚で、がっしりとしている。
「堅いこと言うなよ。たまには晩酌もいいだろう」
  と、ゾロ。
  何を考えているのかサンジにはさっぱりわからなかったが、本人はどうやら甲板での月見酒にサンジを付き合わせるつもりらしい。
「ツマミ、持って来いよ」
  そう言ってゾロは、サンジの目を覗き込んだ。



  サンジの理性がその瞬間、ぷっつりと音を立てて切れたような気がした。
  気がつくとサンジは、ゾロの身体をテーブルに押しつけていた。ゾロのほうはまだ、サンジがふざけているだけだと思っている節があるようだ。
  膝でゾロの下半身を固定してしまうと、サンジはゾロの首に手を伸ばした。
  太い首を掴むと、そっと力を込めていく。
  両手でゾロの首を絞めると、てのひらに、ゾロの血管が脈打っているのが感じ取れた。
「ぐっ……ぅ……」
  ゾロの喉が上下するのが感じられる。ゼイゼイという息づかいに、サンジの身体の中の血流が熱くなる。
  思ったよりも滑らかなゾロの肌に指を這わせ、じりじりと締め付けていく。鎖骨へと続く喉の窪みのところを両方の親指でくい、と圧してみた。
  ゾロは、じっとサンジを見つめている。息苦しさから目をすがめてはいるが、確かにサンジを見ている。
  怯えるでもなく、ただ感情のない眼差しでじっとサンジを見つめている。
  真っ直ぐに見据えられ、サンジは居心地の悪さを感じた。自分がしていることは、間違っていないと言い切れるだろうか。こうすることが果たして、自分にとってはもっともいい方法だったのだろうか。
  ほんのわずかな時間、サンジは躊躇した。
  力を込めた指先から、じわりじわりと力が抜けていくような感じがする。
  ゆっくりと、時間をかけて指をゾロの肌から離していく。
  勢いよく肺に流れ込んできた新鮮な空気に、ゾロはむせ返った。目尻に涙を滲ませながら、大きく咳き込んでいる。
  殺してしまわないでよかったと思うと同時に、何故、一息に殺してしまわなかったのだろうかと後悔を覚える自分が、そこに はいた。
  それから。
  まだ呼吸の整わないゾロの胸ぐらを掴みあげると、サンジは力任せにゾロの腹を蹴り上げた。



  腹を蹴られたゾロは床の上で身体を丸め、身悶えていた。
「──これで……満足か?」
  サンジの蹴りが止むのを見計らって、ゾロが、掠れた声で呻く。
  唇を切ったのか、口元には血が滲んでいる。
「いいや、まだだ」
  そう答えるとサンジは床に膝をつき、ゆっくりとゾロの肩を掴んだ。そのまま無造作にゾロの身体をごろりとひっくり返すと、乱暴に腹巻きとズボンを下着ごと引きずり下ろす。抵抗しようとゾロが身動きするよりも早く、太腿の裏側を膝で床に縫い止めた。
「嬉しい反応だねぇ」
  クツクツと喉の奥で低く笑うと、サンジはゾロの手を後ろ手に一つに纏めてひっつかんだ。
  のしかかるサンジを振り払おうと、ゾロは肩に力をこめる。確かに、ゾロの力ならサンジを振り払うことが出来るかもしれない。
  ゾロの肩の筋肉が隆起するのを見るとサンジは、片手で緑色の頭を床に押しつけた。ガツ、と音がする。額を打ったのか、それとも鼻を打ったのか……どちらにせよ、手加減はしなかったからかなり痛むはずだ。ゾロの動きが鈍ったところで、サンジは自分のズボンを下げ、下着の中で既に固く勃起しているものを引きずりだした。
「なあ、剣士さんよ」
  欲情して掠れた声が、ゾロに喋りかけた。
「俺はここんとこずっと、お前にこんなことをしたいと思ってたんだ」
  ゾロの身体が、さっと緊張する。しかし抵抗はしない。本気で抵抗を試みようとしていないのが癪に障るところだが、サンジのほうも切羽詰まっているからか、あまり深くは考えていないようだ。
「──軽蔑、するか?」
  自嘲気味のサンジの声色を、ゾロはどんな思いで聞いていたのだろうか。



  抵抗をしなくなったゾロの尻を割り開くと、サンジは自分のペニスをなすりつけていった。
  先走りの液がゾロの尻を汚し、ヌルヌルとした不快感を与える。
  孔の周囲を先走りである程度ぬめらせておいて、サンジは一息に奥まで突き入れた。
  焼け付くような痛みと、胃のあたりから迫り上がってくる吐き気がゾロの身体を支配する。逃げられなかった。いや、はなから逃げようとは思わなかった。それは、相手がサンジだったからかもしれないし、もしかしたら別に理由があったからかもしれない。
  とにかくゾロは、逃げなかった。ほとんど抵抗もせず、サンジの独りよがりな行為にも黙って従った。
  ゾロのその態度はいっそう、サンジの苛々を募らせた。
  どんなに犯しても、快感が得られないのだ。
  身体は、熱に浮かされたように熱いのに。夢か現かわからないほど、身体の中では熱くてどす黒い欲望が渦巻いているというのに、サンジの心はいっこうに満たされない。
  いくら汚しても、精液を放っても、ゾロの平然としたその態度に、満足感を得ることができないでいるのだ、サンジは。
「クソッ……クソッ、クソッ、クソッ!」
  大きく腰をグラインドさせ、ゾロの内部を犯しながらサンジは口の中で罵り続けた。



to be continued




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