『微熱』



  熱に浮かされるようにして、その夜、サンジはゾロを犯した。
  同意はあった。
  しかし、それが本心から出た言葉だったのかどうかは、今となっては確かめようもない。
  願ってもないチャンスだと、ゾロの弱みにつけ込んだのは、サンジだ。
  つけ込まれる方が悪いのだ──いつものゾロなら、きっとそう言うだろう。
  だから、迷うことなくサンジはつけ込んだ。
  そうしてゾロは、そんなサンジの言葉にすんなりと乗ってきたのだ。
  とにかくそんな風にして、水の都の争乱の後、仲間たちの目から逃れた二人はほんの短い時間を彼らだけで共有したのだった。



  体が熱い。
  空気を求めてゾロが口を開けた途端、待っていたかのようにサンジの性器が突っ込まれた。舌の上にえぐみのある精液が滴り、口の中に青臭いにおいが広がっていく。
「んっ……ぐぅ……」
  口の端から洩れた声はしかし言葉にもならず、反り返った竿の部分に舌を絡めると、必死になって口を動かす。
「淫乱だな」
  低く掠れたサンジの声が、頭の上で聞こえる。
「ぅん……んっ、ん……」
  なおも舌を動かしていると、髪を鷲掴みにされた。
「顔にかけてやるよ」
  そう言われ、ぐい、と髪を掴み上げられて上を向いた途端、口元からぬるんと飛び出したサンジのペニスが大きく震える。張り詰めた竿がヒクヒクと蠢いて、先端から白濁した液が飛び出した。
「……どうした、舐めろよ?」
  顔にかかった生暖かい精液が、青臭いにおいを放っている。
  ゾロは顔をしかめると、サンジの竿を口に含んだ。窪みの部分に残った精液を丁寧に舌で掬い取り、喉の奥に流し込んだ。ちらりと上目がちにサンジの様子を窺うと、サンジは気持ちよさそうに目を細めてじっとゾロを見下ろしていた。
「男に掘られるのが好きなのか?」
  興味本位のサンジの問いかけに、ゾロは首を横に振る。別に、男が好きなわけではない。たまたま気になる奴がいて……それが、サンジだったというだけだ。
「まあ、いいさ」
  小さく呟いたサンジは、膝立ちになったゾロの体を自らの膝の上に引きずり上げた。
「見ててやるから、自分で挿れろ」
  華奢に見えてその実筋肉質なサンジの腕が、ゾロの体を素早く抱きしめ、すぐに離れていく。
「前を向いて……そう、ケツの穴が見えるように、足を広げるんだ」
  低い声がゾロの耳元で囁きかける。煙草の香りがゾロの鼻先を掠めると、軽い眩暈を感じた。
「ならすぐらいはしてやるから、安心しろ」



  言われるがままにゾロは足を広げた。
  サンジのすらりと長い指が尻の窄まりをゆっくりとなぞっていく。襞の隙間に指を差し込み、ゆるゆると皺を伸ばすように指が蠢いている。
「……ぁ……」
  乾いた指が中に潜り込んでくる不快感と、微かな痛み。ゾロは小さく首を横に振ると、唇を噛んだ。
「濡らした方がいいか?」
  耳朶に息を吹きかけられると、それだけでゾロの体に震えが走った。
「いい…からっ……そのまま……」
  しっとりと汗ばんだゾロの背中に口づけを落とすと、サンジはそのまま指を奥へと突き入れた。内壁の締め付けと熱がダイレクトに指に伝わってきて、サンジは舌なめずりをした。
「──…って……」
  熱に浮かされたようなゾロの声は掠れており、聞き取りにくい。ゾロの筋肉質な背中に口づけを繰り返しながら、突き入れた指で内壁を引っ掻くようにして指を折り曲げると、きゅぅ、と締め付けられた。
「気持ちいいか?」
  尋ねなくても答えはわかっていた。
  サンジの指を感じた瞬間からゾロの前は勃起して、先端から先走りの液を滴らせていた。指の動きにあわせては腰をくねらせ、自ら気持ちよくなろうと躍起になっている。
  潜り込ませた指を大きくスライドさせ、内壁を押し広げてやると、ゾロの喉からすすり泣きのような喘ぎ声が洩れた。
「……っ……い、ぁ……」
  言葉にならない言葉を発するゾロが、酷く頼りなげで幼く見える。
  日頃、顔を付き合わせれば喧嘩をしている相手がこんなにも艶めかしく見えたのは初めてだ。
「もう、いいだろ? 自分で乗れよ」
  ずるりと指を抜き出すと、ほんのり濡れたような感触がする。そのままサンジは手を前に回すと、ゾロの濃い緑色の陰毛を掻き分け、勃起した性器に指を絡めた。



  ゆっくりとゾロの腰が落とされる。
  包み込む内壁は間違いなく男のものだった。狭くて、熱くて、気を抜くと意識を持って行かれそうな感じがした。
  自分の膝の上で惜しげもなく足を大きく開いているのが、仲間でもあり、喧嘩友達でもあるゾロなのだと思うと、サンジはゾクゾクした。
「あつい……」
  はあ、と溜息と共に口にしたゾロの言葉に、サンジの腹の奥が反応する。熱い迸りが出口を求めて、その瞬間を待ち構えている。
「そうだな、あついな」
  耳元に囁きかけ、サンジはふと空を見上げた。
  雲ひとつない暗い暗い空の上では、月だけが煌々と輝いている。人気のない裏通りの奥に、なんとか二人だけになることのできる空間を見つけだしたものの、大声を出せば誰かに気付かれてしまうかもしれない。
「こんなところを誰かに見られたくはないもんだな」
  ぽつりと呟き、サンジはゾロの腰をがしっと掴んだ。
「さて。さっさと終わらせちまおうぜ」
  そう言うと、掴んだ腰を大きく揺さぶり、サンジは何度も何度も容赦なく自らのものでゾロを突き上げた。
  ゾロが体をひくつかせるたび、サンジが体を揺さぶるたび、腰掛けた古びた箱がキシキシと音を立ててぐらついた。
「あっ、ぁ……」
  どこからか威勢よく金物を打ちつける音が響いてきている。
  海に出た時とは違うあたりの猥雑さと、一本向こうにある夜の通りをひっそりと行き交う人たちの気配が感じられるほど、肌がピリピリとしている。
「ぅっ……く、あ……!」
  大きくゾロの体がしなった。
  掴んだ腰をぐい、と引き寄せて、ゾロの腸壁に届けとばかりにサンジは射精していた。



  息が整うのを待って、二人は身繕いをした。
  あたりはしんと静まりかえっている。
「気付かれないうちにさっさと戻ろうぜ」
  ゾロが言った。
「──ああ、そうだな」
  返しながらもサンジは、あの滑らかな肌にもう一度触れるにはどうすればいいのかを、頭の隅で考え始めている。
  戦いの後の昂揚した体の火照りを冷ますには、セックスが一番手っ取り早い。
  何事もなかったかのようにスタスタと歩き出したゾロの後ろをゆっくりとついて歩きながら、サンジはポケットから煙草を取り出し、口にくわえる。
  ふきつけてくる風がひんやりとして、心地好い。
「頼むからさ」
  ゾロには聞こえないように、サンジはぽつりと呟いた。
「俺がつけ込みたくなるような表情、してくれんなよ」






To be continued
(H19.5.8)



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