『残り香 3』
身体の中を熱が駆け回っている。
お互いに自分の身体か相手の身体なのかも解らなくるほど強く求め合い、イった。
結合部からサンジの放出したものがたらたらと溢れてきて、床に潮溜まりを作った。
「馬鹿か、お前は。中に出すなと言っただろう」
不服そうに、しかし後ろの穴で満足そうにサンジのものを締め付けながら、ゾロは言った。
「それでも、お前は悦んでいただろう? 今だって……」
そう言いながら結合部へとサンジは手を伸ばす。サンジのものが吸い込まれた部分に指を這わせると、ゾロの穴はきゅっ、と収縮して締め付けを強めた。
「ほら、まだ欲しがっている」
指までも飲み込みそうな勢いで、ゾロの穴はひくついている。
名残惜しそうにサンジはその部分を指でひと撫でしてから、自身を引き抜いた。
ゾロの中からどろり、と白濁したものが出てきて、太股を伝い落ちていく。
「いい眺めだな」
サンジが言うと、ゾロは黙ってギロリと睨み付けてきた。
ゾロから少し距離を取って床に座り込んだサンジは、足下に脱ぎ捨ててあったジャケットの胸ポケットから煙草を出した。
吸うつもりはないらしい。
そのまま火も点けずに口にくわえると、ちらりとゾロを見遣る。
先ほどの行為で疲れたのか、裸のままで壁にもたれて目をとろんとさせたゾロはいかにも眠たそうな様子をしている。
「……お前、おかしいんじゃねぇのか」
不満そうに眉間に皺を寄せながら、ゾロが呟いた。
「そうか?」
返しながらもサンジの目は、どこか嬉しそうに細められている。
「──それよりも、いつまでそんな格好しているつもりなんだ? それとも、もう一戦手合わせしてくれんのか?」
サンジの言葉を耳にした途端、ゾロは慌てて飛び起きた。
この状態でさらにもう一戦はお断りだと冷たく言い放つと、素早く衣服を身につけて船倉を飛び出していった。
ゾロのいなくなった船倉で、サンジは柔らかな笑みを浮かべていた。
男同士ながらも、ここまで相手のことを好きになるとは思っていなかった。
最初は、ほんの一時の気の迷い、単なる暇つぶしぐらいにしか考えていなかったというのに。
それなのに、抱くようになってみて解った。
自分にはゾロが必要なのだ、と。
おもむろにサンジはマッチを靴底で擦ると、煙草に火を点けた。
ゆっくりと息を吸い込むと、煙草の深い香りが肺を満たしていく。微かに甘くて、苦みのある味だ。
身体を繋ぐようになった今でも、信じられないほどゾロに惹かれている。
セックスの時の少し困ったような掠れた声も、しなやかな筋肉も、そして時折、自分の我が儘を受け入れてくれる優しさにも、惹かれている。何もかもすべてを愛しいと思いながら、同時に憧れをも抱いている。
自分にはない何かを胸の内に秘めた彼の強さを、羨んでもいる。
「……そうだな」
呟き、ふーっ、と息を吐き出すと、伏流煙が一瞬、サンジの視界に白く淡い紗をかけた。
「俺は、おかしいのかもしれない」
憧れているから、触れたい。愛しいから、抱きたい。大切にして、守りたい──そういった、数多の女性に感じるものとはまた別の、違った感情がゾロに対してはあるのだ。
少なくとも、ゾロが女性でないことだけははっきりしている。
もう一服、と紫煙を深く吸い込むと、興奮していた身体の疼きが急速的に冷めていくのが感じられた。
煙草の香りに目を閉じうっとりしていると、船倉の入り口がカタン、と開いた。
「なんだ、どうした?」
シャワーを浴びてきたのか、すっきりとした顔のゾロが入り口からこちらを覗き込んでいる。
「皆が捜してたぜ」
と、ゾロ。
サンジは立ち上がると手にしたジャケットを軽く羽織った。
「そろそろ上がりますかね、甲板へ」
船倉の細くて急な梯子を上がりきると、ゾロが手を差し伸べてきた。
サンジは節くれ立ったゾロの手を掴んだ。
ゾロの腕にわずかばかり力が入り、引きずられるようにしてサンジは踊り場に上がった。
「相変わらずの馬鹿力だな」
茶化すようにサンジは言う。
「毎日トレーニングしているからな」
と、真面目な顔をしてゾロは返す。
それから、さっ、と唇に触れるだけのキスをして、ゾロは甲板へと上がっていった。
呆然とした表情のサンジをその場に残して。
サンジはしばらくじっと、その場に佇んでいた。
仄かにかおる煙草の香りを、ぼんやりと肌で感じながら──
── END ──
(H15.9.15)
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