『Bittersweet』



  息が上がるまでキスをした。
  差し込んだ舌をサンジが引き抜くと、それを追ってゾロの舌がサンジの口の中へと入り込んでいく。ざらりとした感触がサンジの舌を吸い上げ、追い上げた。
「──本当は……ナミさんやロビンちゃんに、先に食べてもらいたかったんだけどな」
  途切れ途切れの息の下、サンジが呟いた。
「残念だったな、俺が先に食っちまって」
  と、少しサンジから身体を離してゾロは返した。低く掠れたゾロの声はしかし、淡々としている。
「気にもかけてないくせに」
  クスクスと笑いながら、サンジ。
  ゾロはぷい、と横を向くと、硬く口を閉ざしてしまった。目元がうっすらと赤らんでいるのは、どこかしら照れがあるからだろうか。
  それにしても、日頃、あんなにもナミやロビンを優先にして、何を置いてもまずは女性、といったポジジョンを崩さないサンジだというのに。何故、今日に限ってあの二人よりも先に、自分にチョコをくれたのだろうかと考えずにはいられない。ゾロは、無意識のうちに人差し指と中指の爪を噛んでいた。サンジがすかさずその手を握り締めてきた。
「俺は、お前に真っ先に食べてもらいたかったんだ。ナミさんでも、ロビンちゃんでも、他の誰でもない、お前に。バレンタインって、そういうものだろう、なあ?」
  ごつごつとしたゾロの手に軽く唇を押しつけ、サンジは言った。



「よくわからねぇが……──」
  と、しばらく考えてゾロは言った。
「お前がそう言うのなら、きっと、そういうモンなんだろ」
  あっさりと返されたサンジは、フン、と鼻で笑っただけだった。
  そのままゆっくりとゾロをテーブルの上に押し倒すと、サンジは唇を合わせていく。噛みつくかのような勢いでキスをすると、ゾロも同じように応えてきた。互いの唾液を啜り合い、舌を絡め合った。
  サンジは、ゾロの下衣を腹巻きごと下着もひっくるめて引きずり下ろした。すぐさまゾロが片方だけでもと、膝のあたりでたるんでいた衣服をもう片方の足の先でひっかけ、床へと落とした。
「わからなくてもいいから覚えとけ」
  耳元でサンジが囁く。
「バレンタインってのは、恋人同士がお互いにチョコを渡し合って、よろしくヤる日のことなんだよ。わかったか?」
  言いながら指の腹でゾロの下腹部をなぞると、鼻にかかった声がやけに大きくラウンジに響いた。
「……んっ……」
  ビクン、とゾロの身体がテーブルの上で跳ねる。上衣だけ身につけただけの格好が、やけにエロティックだ。
  陸に上げたばかりの魚のようだなと思いながらサンジは、ゾロの胸の大傷をペロリと舐める。淡い色をした肉の盛り上がりは柔らかくてあたたかい。ゾロの胸の傷が癒えてもう随分となるが、今でも時折、痛むことがあるらしい。ベッドを共にした日など、たまに傷跡を手で押さえ込んでは背中を丸めていることがあった。
「あ……っ」
  サンジの指が、ゾロの胸の色づきに触れた。乳首には触れないように、乳輪に沿って円を描くような動きをすると、ゾロは焦れったそうに身体を捩った。
「俺は、お前にチョコをやった」
  そう言うとサンジは、舌先で乳頭を軽くつついた。
「はっ……ぁ……」
  上目遣いにゾロの様子を見ながら、サンジの舌は乳頭をぎゅっと押しつぶす。そのまま尖らせた舌の先端で乳頭を転がしてやると、ゾロは慌ててサンジの肩を押し返しにかかった。
「あ……あ……」
  いつの間にか勃ち上がり、先走りの液を滴らせていたゾロのものが、サンジの腹にあたっている。
「お前は……俺に、何をくれる、ゾロ?」



  テーブルの上に寝そべった状態で、ゾロは足を大きく開かされた。不安定な体勢を何とかこらえようとテーブルの端をしっかりと握り締めた。もう片方の手は、サンジの手によって自身の中心へと導かれた。
「……もう、こんなになってるな」
  ゾロの手のひらに、ヌルリ、と先端がなすりつけられる。
  サンジの目の前で自分のペニスを握るのは奇妙な感じがした。ゾロ自身の意志でマスターベーションをする時とは違い、恥ずかしさの伴う行為だということに、ゾロは気付いた。
「ぁ……」
  見られているからだ。
  正面からまじまじと凝視されれば誰だって、多かれ少なかれ恥ずかしさを感じるはずだ。サンジは尚もじっとゾロの股間を見つめている。まだ直接、サンジの手で触れられてもいないのに、ゾロの先端からは先走りの液が溢れ出していた。トロトロと溢れて竿を伝い落ちる滴は、ゆっくりと尻のほうへと流れていく。
「俺、まだ、なんにもしてねぇぜ?」
  にやりと口の端を歪めて、サンジは言った。



  自分で自分のものを扱くと、尻の孔がひくつくのが感じられた。きっとサンジからは、そんなところも見えているのだろう。 ゾロは、見ているサンジを焦らすかのように、手を動かした。ぐちゅり、と湿った音がする。
「あっ、は……ぁ……」
  腰を突き出し、ゾロが自慰行為を続けていると、カチャカチャという音が聞こえてきた。サンジがバックルを外しているのだ。下着の中から勃起したペニスを取り出すと、ゾロの後孔へとあてがう。
  先走りの液でヌルヌルとしたサンジのペニスが尻の狭間を行き交うたびに、ぐちゅ、ぐちゅ、と淫らな音がする。
「やれねぇ……」
  息も絶え絶えに、ゾロは呟いた。
「俺…は……」
  言いかけたところで、サンジが腰をぐい、と押し付けた。
  ピリピリとした痛みが後孔に走った。ゾロは顔をしかめ、しかしそのまま唇を噛み締め、痛みに耐えた。
  何かをくれとサンジに言われても、渡すものが何一つとしてないということをゾロは知っていた。嫌というほど。ナミにいくらかの金子を借りて、サンジが気に入りそうなものを買ってくるという手もあるが、おそらくサンジはそんなつもりで言っているのではないだろう。
  それではサンジは何を欲しているのかというと、おそらくはゾロの躰か……或いは、心。ゾロのすべてを欲している。
  欲張りで狭量なコックは、ゾロのすべてを手に入れて、独り占めしてしまいたいとさえ思っているのだ。






To be continued
(H16.1.31)



SZ ROOM