『Bittersweet』



  やや強引にゾロの中に突き立てられたものは、これ以上はないほどに張り詰めていた。
  心地よい痛みがゾロを捉えている。
  焦らすような動きでサンジは、ペニスを抜き差しした。
  内壁を擦り上げながら身体の奥深くを突き上げると、苦しそうにゾロが喘いだ。
「キモチいいか?」
  腰を揺さぶりながら、サンジが尋ねる。
  ゾロの尻の奥の結合部を見ると、精液でてらてらと光る赤黒い竿が二人の距離を縮めたり広げたりしていた。ぎりぎりまで引きずり出す瞬間、きゅっ、と収縮を繰り替えし、きつくサンジを締め付けてくる様が何とも言えない。
「あっ、あ……」
  自身のペニスを握り締めたゾロの手の動きが、気付くと早くなっていた。くちゅくちゅという湿った音を立てながら、ゾロは今にものぼりつめようとしている。
  先端から溢れる白濁した液を指に絡め取り、サンジはことさらゆっくりと腰を動かした。すくい取った精液は、味見の要領でペロリと舐めた。
  奥のほうを突き上げ、それから素早く竿を引きずり出す。
  先端の括れを引き抜く瞬間、ぐちゅ、と音がした。
「んっ……ぁ……」
  ブルッ、とゾロが身体を震わせる。
「今日は後ろから突いてやるよ」
  ゾロの身体を抱き起こしながら、サンジが言った。



「は……っ……ああぁ……!」
  ラウンジに反響するほどの大きな声をあげて、ゾロは背を反らした。シャツの上からでも肩から背にかけての筋肉が隆起して波打っているのがはっきりとわかる。
  サンジのペニスがゾロの身体の中へと納められていった。
  甘美な痛みと、異物感。それから、入り込んでくるサンジのペニスの熱さと。それらすべてのものに翻弄されながら、ゾロは声をあげた。啜り泣くような掠れた声が、サンジの嗜虐性を呼び起こさないといえば嘘になるかもしれない。
  しばらく挿入を繰り返してから、サンジは背後からゾロの股間へと手を回した。
  ゾロが溢れさせた先走りでヌルヌルになったそこは、サンジが焦らすように括れのあたりから先端の窪みへとむけて指の腹で擦り上げると、湿った音を立てた。
「なあ……」
  切羽詰まったような声で、サンジが言った。
「お前は俺に何をくれるんだよ、ゾロ」



  好きなだけゾロの身体を揺さぶって、サンジはイった。
  最後にはゾロの身体がどうにかなってしまうのではないかと思うぐらい強く突き上げ、奥深いところへ射精した。
  どこか意固地になっている自分をサンジは認めていた。どんな答えが返ってきても構わなかった。何でもいいからゾロに答えてほしいと思い、その一心だけで激しく追い上げてしまった。
  下半身をさらけ出したまま床に大の字になってひっくり返っているゾロは、いつまでも荒い呼吸を繰り返している。
  サンジはそんなゾロを横目に、自分だけさっさと身繕いをした。
「なあ、何をくれるんだ?」
  しつこく尋ねると、ギロリと睨まれた。
  慌ててサンジは肩を竦めると、ジャケットの胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
  気まずくなるとサンジは、いつも煙草を吸った。煙草のおかげで手持ち無沙汰な時間を誤魔化すことが出来る。それは、これまでサンジが、煙草がなければゾロとの間に走る気まずい沈黙を持て余していたのだということに他ならない。
  女性が相手の時ならば、おそらくこんなにも気まずい思いを感じることはなかっただろう。
  ゾロを相手にすると、途端に自分を見失ってしまうのはいったい何故だろう──そんなことをぼんやりと考えながらサンジが煙草を燻らせていると、ゾロの動く気配がした。
  起きあがり、床に散らばった衣服を無造作に集めて鷲掴みにするその姿は、怒っているわけでもなければサンジの言いなりになるような様子でもない。
  どうするのかと思ってサンジがじっとゾロを見つめていると、彼は無言のままくるりとこちらに背を向けてラウンジを出ていってしまった。
「あ……──」
  何か言おうとしたが、遅かった。



  テーブルに腰掛けたまま、サンジは煙草に火をつけた。
  もう、これで何本目になるだろうか。
  ゾロは男部屋にでもこもってしまったのだろうかと思いながらも、サンジは様子を見に行くことが出来ない。拒否されたらどうしよう。絶対にないとは言い切れない。先程の無言の意味が、酷く気にかかる。
  ほとんど吸ってもいない煙草を灰皿の底にねじ込み、火をにじり消す。苛々と煙草のケースを指で弄びながら、新たな煙草を取り出した。口にくわえ、火をつける。
  深く……肺にゆったりと浸透させるかのように、深く吸い込む。
  濁った息を吐き出そうとしたところで、小さな軋みをあげながらドアが開いた。
「ゾロ……」
  危うく煙草を落としてしまいそうになりながら、サンジはぽそりと言った。
  シャワーを浴びてきたのだろう、こざっぱりとした様子のゾロが戸口に立っている。緑色の短髪からは、拭いきれなかった水分がポタポタと滴っている。
「──……」
  ゾロは小さく口を開いたが、そのまままた口を閉じてしまった。
  それから、ゆっくりとサンジの傍へとやってきた。
「すまないな。俺は……お前にやるモンを、何も持ってない」
  いきなりのゾロの言葉に、驚きつつもサンジは頷いた。
「だから……」
  掠れたゾロの声が、途切れる。
「ええと……だから、その……」
  必死になって言葉を探すゾロは目をきょろきょろとよそへと彷徨わせており、いっこうにサンジの顔を見ようとしない。
「言えよ、はっきりと」
  くすくすと笑いながらサンジが言った。
  大きく皺の寄ったゾロの眉間を軽く指先で小突くと、鼻先にキスをする。すぐにゾロもキスを返してきた。
「悪りぃな、これで我慢してくれ」
  キスの合間にゾロが囁いた。
  嬉しそうにサンジはゾロの耳たぶを甘噛みすると、ゆっくりと彼の筋肉質な身体を抱き寄せたのだった。






END
(H16.2.4)



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