LOVE IS 2

  狩猟小屋はカビ臭く、また獣くさくもあった。
  宮廷から出るのも初めてならば、旅をするのも初めてのサンジだ。平常のサンジならば、ここでゾロに抱かれるのだと知ったら嫌がるかもしれない。城下の連れ込み宿ですら、サンジは嫌がったのだ。それぐらいはゾロにも予測できた。
  しかし、今は違う。
  今のサンジには、はっきりと禁断症状が現れていた。
  ゾロの言葉に素直に従い、サンジはゾロに抱きついてきた。
  手も、唇も、小刻みに震えているサンジは今にも泣き出しそうな表情で、ゾロを見つめた。
「……っ…は……」
  サンジは、ゾロの吐息を首筋に感じて息を洩らした。小屋の中は暑いわけでもないのに、サンジの全身は火照っている。
  抱き締めたサンジの体をまさぐり、ゾロは服を脱がしていく。
  サンジの手はゾロの股間へと伸びていた。
「早く……」
  欲情した声で、サンジが呟く。
  白くほっそりとした指が、布越しにゾロの性器を撫でさすっている。継ぎの王子が臣下でもない男の性器を欲する姿は背徳めいており、また艶めかしくもあった。
「早く、欲し……」
  勢いよくサンジはゾロの口内に舌をねじ込んだ。
  サンジの滑らかな舌が、ゾロの舌をきつく吸い上げている。縋り付くことのできる何かを求めて、サンジは必死だった。
  ここ数日の間でゾロの存在に慣れてきたサンジは、体にまとわりついていた服を自分から脱ぎ捨てた。ゾロのズボンの中に手を潜り込ませると、サンジは直にペニスの形を指でなぞる。これまではゾロにされるがままのサンジだったが、自分からゾロの上に跨ると、筋肉質な胸板に唇を押し当て、拙いなりの愛撫を施そうとしている。
「無理するなよ」
  からかうようにゾロは言い、金髪の髪をそっと指で梳いてやると、サンジは餓えた眼差しでゾロを睨み付けた。



  夜が明けると、サンジの意識ははっきりとしてくる。火照るように熱かった体温も元に戻り、継ぎの王子としてのどこか気難しそうな横顔にきりりとした厳しさが加わる。
「昨日はあまり街道を進むことができなかったな……」
  旅の支度を整え、小屋を後にしたサンジがポツリと呟いた。
「そうだな」
  ゾロは、相づちをうつ程度にとどめておいた。
  実のところ、初めての野営の日々と薬の禁断症状とで、サンジの体力は少しずつ衰えてきていた。昨日はあまり無理のない速度で街道を進んだものの、狩猟小屋でほとんど食事もとらずに抱き合ってしまった。こんなことを何日も続けていたら、十日もしないうちにサンジは衰弱しきってしまうだろう。旅程はサンジに無理のないように進めなければならないだろうと、ゾロは頭の中で考える。
  言葉にして言ってしまったなら、きっとサンジは怒るだろう。自分はそんなにも弱っているわけではない、と。
「……合流地点まで、馬を駆ることはできないのか」
  考え考え、サンジが尋ねる。
  宮廷での話し合いの中で、何度も出てきた言葉だった。そしてそれに対する答えも、いつも同じだった。
「無理だな」
  ゾロはあっさりと返すと、馬を進ませる。
  追っ手は引きつけるだけ引きつけて、一人でも多く始末したいとゾロは思っていた。内部紛争が今なお残るフーシャに、新たな混乱を招き入れることは避けなければならなかった。
「……では、どこかで体を洗うことはできないのか」
  サンジの問いかけにも、ゾロは首を横に振った。
「このあたりには旅籠はおろか、民家ですらないと言ったのはお前だろう。フーシャに入るまでは無理だと思え」
  そう言われて、サンジは唇を噛み締めた。怒りで癇癪を起こすことは簡単だったが、そんなことをしたところでこのささやかな要望を満たしてもらえるとも思えず、サンジはぷい、と横を向いた。
  自分の馬を操ることだけが、今のサンジにとっての楽しみとなっていた。
  サンジは、ゾロが許容する範囲内でのみ、馬を駆けさせることが許されていた。
  宮廷にいた時以上の窮屈さを、サンジはひしひしと実感していた。



  その夜は、前戯もなしにゾロのペニスがサンジを貫いた。
  これ以上、サンジの体に負担を強いることはできないと頭では理解していたゾロだったが、サンジ本人に強請られてしまうと強く拒否することができなかった。
  泣きわめきながら、サンジは挿れてくれとゾロに迫っていったのだ。
  こんな状況でなければ、継ぎの王子を抱くこともないだろう。ゾロはサンジに強請られたとおりに挿入した。
  野営の焚き火がちろちろとサンジの肌を舐め、赤く染め上げた。
  昼の日の下では白く滑らかなサンジの肌は、汗ばんでしっとりと湿っていた。炎に照らされ、白い肌が薔薇色に色付いて見える。
  ゾロが腰を動かすと、サンジは啜り泣いた。
  王の補佐官は、サンジの白い肌に執心だったらしい。確かに、焚き火の近くで見るサンジの肌は炎の色に染まって艶めかしい。
  あの補佐官がどんな顔をしてサンジを抱いていたのか、ゾロには皆目見当もつかない。それでも、ひとつだけ言えることは、サンジがそれを決して喜んでいたわけではないということだ。
  補佐官の玩具として扱われている時ですらサンジは、ゾロの目を真っ直ぐに見つめ返してきた。
  宮廷に滞在している時にゾロがこのことを知らなかったなら、今、こうして二人でフーシャへ向かってはいなかったかもしれない。
  そう思うと、不思議だった。
  サンジにフーシャ行きを決断させた女官長のロビンなら、もっと早くに行動に移すことができたかもしれないのではないだろうか。ロビンは、いったい何を待っていたのだろうか。そんなことを考えながら、ゾロは、サンジの腹の中に射精した。
  一瞬、サンジの四肢が引きつったようにこわばり、それからゆっくりと脱力していく。
  その夜、サンジの体を背中から抱きしめたまま、ゾロは眠った。



  翌日はとうとう、サンジも自分の体力の衰えを認めるしかなかった。
  薬漬けになっていた間にこんなにも体力が落ちていたのだと思うと、ゾッとした。
  ゾロの前でこれ以上の醜態を曝すことはできないと、サンジはなんとか馬の背に体を引きずり揚げることができたが、少しも進まないうちに平衡感覚がおかしくなってきた。目が回って仕方がないのだ。
  ゾロは、そんなサンジの様子に気付いていた。
  はっきりと、具合がよくないことがわかったが、それでもサンジは自分の体の不調を口にすることなく街道を進んでいく。この強情なところは、ゼフ王に驚くほどよく似ていた。
  街道に沿って、つかず離れずの距離で川が流れている。仲間との合流地点は、この川が東西へ二股に別れる地点でもあった。ゾロはよく道を間違えては自分が気付かぬうちにどこへ向かっているのかわからなくなることが多々あったが、サンジは一度目にした地図は全て頭の中に入っているようだった。実際に自分がその街道を歩いたことがなくとも、地図から得た知識を活用して街道を進むだけのことができた。現に今もそうだ。ロビンに教えられたからと、慣れた様子で初めての街道を進んでいく。
「……腹が減った」
  昼前になって、ゾロが先を行くサンジに声をかけた。
  昨日までなら無理をしてでももう少し先へ進んでいるはずの時間だったが、今日はそんなことは関係ないという風にゾロは言った。
「少し早いが昼にしよう」
  そう言ってゾロは馬から下りた。
  街道のすぐ脇を走る川の中程で、魚の銀鱗がキラキラと光っているのが見えた。
「ここで待ってろ。魚を獲ってくる」
  すぐそばの大木に手綱をくくりつけると、ゾロは服が濡れるのも構わず川へ入っていく。
  サンジは、そんなゾロを横目に、ヨロヨロと馬の背から滑りおりた。地面に足がついた途端、体が大きく揺らいで慌てて馬の鞍にしがみついてしまった。
  火を熾そうと、サンジは思った。
  ゾロが川から上がってきた時に体を乾かすことができるように、焚き火をたいてやろう。そう思ったが、体はこれっぽっちも言うことを聞いてくれなかった。



To be continued
(2007.9.6)



                                                


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