『TANGIBLE 4』



  時折、まるでサンジが二人いるような気になることがある。
  あれ以来ゾロは、サンジに対して何かしら奇妙な違和感を感じていた。
  一人ではなく、二人。それとも、表と、裏なのか。どちらにしても、ゾロのよく知っているサンジと、ゾロの知らないサンジ、二人のサンジが存在しているような感じがしているのだ、ここしばらくは。
「ま、害はなさそうだからな。放っておいても大丈夫だろう」
  トレーニングの合間にぽつりと呟くと、ゾロはまた、何事もなかったかのような様子でダンベルを上げ下げする。
  今までのところ、サンジが二人いたとしても、そう大きな問題は起きていない。だいいち、同じ時、同じ場所に二人のサンジが現れることはほとんどといってなかった。ゾロですら、あのバスルームでの一件以来、もうひとりのサンジを見かけてはいないのだ。
「でもよ」
  と、鍛錬に励むゾロの傍らで何やら工具類をずらりと甲板に広げたウソップが、手元のネジ回しをじっと見据えてぽつりと言う。
「何だか知らないけれど、ひどく調子の悪そうな時があるだろう? あれってやっぱ、もうひとりのサンジが関係している、てことなんじゃないのか?」
  ウソップ自身は、もうひとりのサンジと対面したことはないが、これまで病気ひとつしたことのないサンジが具合の悪そうな様子をしているときや、普段のサンジからは考えも及ばないような空気を感じ取ることがあった。もうひとりのサンジというか、どちらかというと、サンジにそっくりな別人がいるとしか思えないのだ、ウソップには。
「そうなのか?」
  一方のゾロは、そのことについては気にもかけていない様子だ。
「そうなのか? って……お前、仲間だろ、俺たち。冷たいな」
  はぁ、とわざとらしく大きな溜息を吐くと、ウソップは工具箱の中にある何やらがらくたのようなものをいじり始めた。



  鏡の中を、のぞいてみる。
  冷たく平らな双子の世界の中には、サンジ以外は誰も、いない。
「ふん、アホくせぇ」
  呟き、鏡の中の自分を睨み付けてみた。
  そんなことをしたところで、どうにもならないことはわかっていた。鏡の中にいるもうひとりの自分は、こちら側の世界に出たがっている。こちら側の世界でサンジとして、生きたいと思っている──そういったことが、サンジには何となくだが感じることが出来た。
  今は、まだいい。
  今は鏡の向こう側のサンジのほうが力が弱いためか、そう滅多にこちら側に出てくることはない。出てきたとしても、そうそう力をふるうことはできないようだった。だが、こちら側の……サンジ自身の力が弱まった時にどうなるのか、そのことを考えると、何とかしなければという思いがサンジの胸の内に翳りを落とした。
  どうすればいいのかはわからない。
  しかし、何とかしなければならないことだけははっきりとわかっていた。



「ぁ……あっ、あ……」
  格納庫でのセックスは久しぶりのものだった。
  あれ以来ゾロは、サンジとの接触を避けていた。といっても狭い船でのこと、朝から晩まで互いに顔を合わせるのが日常となっていたから、ゾロは、出来る限りサンジとは言葉を交わさずにすむようにしていた。
「……ひっ……ぅ……」
  四つん這いになって腰を高くつきだした格好のサンジの腕が、かくかくと震えている。
  焦らすように竿をゆっくりと引きずり出すと、精液でぬめる先端で後孔の縁をなぞっていく。焦れたようにサンジの腰が揺らぎ、低い呻き声が洩れた。
「…はっ……はっ…あ……」
  肘が崩れ落ち、サンジの肉の薄い胸が床板にぺたりとつく。
  高く掲げた尻の狭間に、サンジの穴が見えた。ゾロの精液で女の穴のようになった襞が忙しなく収縮を繰り返している。
  何度か焦らしておいてから、ゾロはゆっくりと腰を進めようとした。熟れた後孔ははしたなくひくつき、ゾロの肉棒に犯される瞬間を今か、今かと心待ちにしている。
  ずぶずぶとゾロの先端が、サンジの中へと入り込んでいく。
  背後からその光景を眺めながらゾロは、もう一人のサンジが自分のほうをじっと見つめていることにふと、気付いてしまった。



  自分が犯しているサンジとは別に、もう一人、サンジが存在していた。
  奴だ。この間、バスルームで見かけたもう一人のサンジだ。
  ゾロがじっともう一人のサンジを見つめていると、彼はにやりと口の端だけで笑ってみせた。それから気怠そうに二人のほうへと近づいてくると、ゾロの唇をそっと舌で割った。ビロードのように滑らかなサンジの舌はゾロの口内にするりと侵入し、我が物顔で蹂躙しはじめた。
「ぅう……」
  ゾロの下で、身体を貫かれたサンジが喘いでいる。
  それを嘲笑うかのようにもう一人のサンジは、床に這いつくばった自分をちらりと見下ろした。
「こいつより、俺のほうが何十倍もいいぜ?」
  ちろちろと舌をつきだしてサンジは、ゾロの唇を舐め、耳の下を舐め、胸の大傷を指でなぞる。時折、ゾロを上目遣いに見上げるのは、何かを──もう一人の自分を?──気にしているからだろうか。
  ゾロはやんわりと腰を揺さぶりながら、もう一人のサンジの腕を掴んだ。
「なら、それを証明してみせろ」
  そう言うが早いか、ゾロは、サンジの唇を吸い上げた。
  自分の身体の下には、サンジがいる。それから、目の前にも。頭がおかしくなりそうだと思いながらも、何とかしなければならないということをゾロは、索漠と感じていた。






to be continued
(H16.6.22)



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