朱3

  うねりを加えた小刻みな突き上げに、一期一振は甘えるような声を上げた。
  男の腰に回した足に力を込めてしがみつくと、自らも腰を動かす。つたない動きだが、どうせ相手も初心者だ。気付かれることはないだろう。
  ガシガシと揺さぶられ、まるで大海の波に揉まれているような感じがした。
  汗の粒が零れると、一期一振の肌の上で互いの汗が混ざり合い、体から滑り落ちていく。
「大倶利伽羅殿……」
  男の耳の中に吐息ごと吹き込んでやると、一期一振の中の竿が大きさを増すのが感じられた。
「ぁ……おっき…く……」
  舌足らずに呟くと、大倶利伽羅は低く呻き声を上げる。
  抽送が次第に激しくなっていく。時折、男は確かめるように竿をギリギリまで引き抜き、一期一振の後孔が収縮を繰り返すのをじっと見つめることがあった。襞の入り口に引っかかった先端を奥に飲み込もうとして、一期一振の中が蠢く様を楽しんでいるのだ。
「おぉ、くり、か……」
  焦れて掠れた声を一期一振が上げると、男は満足したように息を吐き、ゆっくりと奥へと竿を押し込んでくる。エラの張った部分がゴリゴリと一期一振のいいところを擦り上げると、そのたびごとに甘い声が上がる。
  恥ずかしい。だが、気持ちいい。もっと気持ちよくしてほしい。高みへと向けて一期一振の身体はいやらしく色づき、綻んだ部分はきゅうきゅうと男の竿を包み込み、締め付けた。
「中……もっと、擦って……」
  意識が飛びそうなぐらい、強い快楽を一期一振は求めた。
  イく、という状態がどんな感じかはわからなかったが、意識が飛びそうなぐらい気持ちいいと聞いている。もっと、とぎこちなく腰を揺らすと打ち付ける男の竿がぶわっ、と膨張するのが感じられた。さっき、質量を増した時よりも固くて大きい。
「あっ、あっ……」
  駄目、とやんわりと口走ったような気がするが、男はお構いなしに奥を突き上げてくる。
「やっ……きもち、ぃ……」
  ポロポロと目から涙が零れた。どうしたことかと戸惑っているうちに、一期一振の足は男の肩に担ぎ上げられてしまった。突き上げる角度がかわると、今度はビリビリとした痺れるような快感が一期一振の全身を駆け巡り始める。
「あっ、ああっ……っ、ん……」
  ヒクッと一期一振はしゃくりあげた。男はいっそう激しく一期一振の奥を突き上げてくる。最奥を突かれ、一期一振の中がきゅうぅっ、と締まる。
  触れてもいないのに、一期一振の前は固く張りつめ、先端からドロリとした濃い白濁を振り撒いていた。
「やっ……も、イく……!」
  ヒッと一期一振は喉を鳴らした。
  男が飢えた獣のような鋭い眼差しで一期一振を見下ろしている。
  捩じ込んだ竿で中をかき混ぜ、ゴリゴリと擦りあげると、大倶利伽羅は最奥深くを大きく穿った。
  媚びるような甘い声をあげながら一期一振は背を反らした。ビクン、と体が震えて一期一振の竿が白濁を互いの腹の間に放つ。後ろがきゅうきゅうと締まり、包み込んだ男の竿からも勢いよく白濁が放たれた。なまあたたかくドロリとしたものが一期一振の腹の中に広がり、染み込んでいく。
「んっ、んぁっ……」     大倶利伽羅の肩に担ぎ上げられた一期一振の足がピン、と伸び、小刻みに痙攣を繰り返す。爪先をぎゅっ、と丸めて快感を堪能していると、大倶利伽羅が身を起こした。
  ずりずりと一期一振の足が大倶利伽羅の肩から滑り落ちる。大倶利伽羅はその足を掴むと左右にぐい、と開脚させた。
「お……大倶利伽羅殿……?」
  怪訝そうに一期一振は男を見つめた。
  今しがた放った性の濃いにおいがあたりには漂っている。自分がどんなにみっともない姿を大倶利伽羅の視線の前に晒しているのかもわかっているが、身体は重怠くちょっとやそっとでは動く気になれない。
「いやらしい身体だ」
  言いながら大倶利伽羅は、一期一振の腹のあたりに手を押し当てた。
「中に出されて善がってた」
  するりと手が動き、腹をやんわりと押してくる。
  まだ中に居座ったままの大倶利伽羅の竿がことさら鮮明に感じられて、思わず一期一振の中がきゅっ、と締まる。
「っ、ぁ……」
  ゾクリ、と一期一振の全身が歓喜に震えた。
  まだ、この行為は続く。なんとはなしにそんな雰囲気を感じ取り、一期一振の腕に鳥肌が立った。
「大倶利伽羅、殿……」
  名前を呼び、舌をちらりと閃かせて唇を湿らせる。
  腹に触れていた男の手が、一期一振の腰骨をなぞり、開脚したままの太股を乱暴に掴んだ。
  ずるり、と引きずり出される竿は一度性を放ったというのにまだ固さを失っていなかった。
「もっと……いやらしい顔を見せてみろ」
  暴いてやる、と大倶利伽羅は告げた。
  一期一振はああ、と掠れた声で溜め息をついた。
「私で、あなたがもっと気持ちよくなるところを見てみたい……」
  余裕のない飢えた獣のような姿もいいが、艶かしい顔も見てみたい。もっと、もっと……。
  一期一振は男の肩に手をかけた。そっと力を込めて男を引き寄せると、深くくちづけを交わす。
  唇を離すと、唾液が透明な糸を引いていた。二人の間でぷつりと糸は切れ、一期一振の唇の端に雫石となって零れた。
「もっと……ぐちゃぐちゃになるまで、乱れさせてくだされ……」
  寧猛な獣の表情もゾクゾクするが、蕩けるほど甘やかされてイくのも気持ちよさそうだ。どっちの方法でも気持ちよくなれることに一期一振は既に気付いている。
「奥のほうまで、たっぷりと濡らして……」
  言いながら一期一振は、収縮を繰り返す自身の後孔からとぷっ、と男の放ったものが溢れ出すのを感じていた。
「……ほら、もうこんなに溢れてしまいました」
  ヒクヒクとなる襞の隙間からは、トロリトロリと白濁が零れてくる。
  大倶利伽羅は喉を鳴らして口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。男の喉仏が上下する様を、一期一振はうっとりと眺めていた。
「栓でもしておくか?」
  そう尋ねると大倶利伽羅は、再び一期一振の中に竿を捩じ込んできた。
  鬼頭がぐりゅっ、と一期一振の中を擦りあげ、粟立つようなぬかるんだ音を立てながら最奥を穿った。
「ヒッ、あぁ……!」
  背を反らして一期一振は痛みを堪えた。もちろん、そこには快感もあった。
  熱くて、固くて……気持ちいい、男の竿に一期一振は満足そうな呻き声をあげた。
「混ぜて。中、いっぱいに掻き混ぜて、ぐちゃぐちゃにして……」
  まるで熱に浮かされるように、一期一振は囁いた。
  腹の中に潜り込んだ大倶利伽羅の竿が、内壁をゴリゴリと圧迫しながら擦りあげてくる。
「ん、あ、ぁ……」
  太股を男の手に押さえ付けられ、ガツガツと激しく貪られる。身体の奥深くを何度も突き上げられ、快感に啜り泣きながら一期一振は達した。今度は、大倶利伽羅も同時だった。
  頭の中が真っ白になるほど強い快楽に支配されながらの絶頂に、一期一振は何度も身体を震わせた。
  男は一度達すると竿を素早く引き抜き、さらに一期一振の腹の上にも白濁を撒き散らした。中も外も男の精液で汚されて 、皮膚がピリピリとした快感を伝えてくる。気持ちよくて失神しそうになりながらも一期一振は、必死に男にしがみついていた。



  嵐のような情事が終わると、身体も気持ちも満たされ、何もかもが穏やかに見えた。
  大倶利伽羅の肌に密着したまま一期一振は、次の情事のことを既に考えている。男と寝るのは初めてのことだったが、もう既に次を切望する自分がいる。
「……わたしは、あなたのお眼鏡に叶いましたかな?」
  ぽそりと尋ねると、大倶利伽羅はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「次の逢瀬を期待するぐらいには、な」
  そう返すとおもむろに男は身を起こし、一期一振の白い胸に顔を埋めた。
  乳首のすぐそばに唇を押し付けたかと思うと、ジュッ、と音を立てて強く吸い上げる。
「あ……」
  痺れるような痛みを残して、男の唇が離れていく。
  一期一振はほぅ、と甘い溜め息を零した。
「この印が消える前に、抱かれに来い」
  そう告げると大倶利伽羅は起き上がり、何事もなかったかのように身支度を整える。
  筋肉の乗った肩が隆起し、褐色の肌が衣服に隠れる。一期一振は畳の上に身を起こし、男の後姿をじっと眺めていた。
  パン、と小気味よい音を立てて襖が閉まり、大倶利伽羅が部屋から出ていくと、一期一振は胸の上に残された印へと目をやった。乳首のすぐ左側に、男が皮膚を吸い上げた痕跡が残されている。
  自分が男のものになったのだという所有の印のような気がして、一期一振は口元に微かな笑みを浮かべる。
「それでは、三日後に……」
  小さな声で一期一振は呟くと、胸の朱色に愛しげに指先で触れてみた。



(2016.9.30)


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