「また任務ですか。任務任務って、いっつもそうじゃないですか!」
小さな拳を振り上げるとハルは、獄寺の胸をドン、と叩いた。力を入れて叩いても、獄寺の体はビクともしない。太くもなく、筋肉質なわけでもないのにがっしりとして、逞しい。
「ツナさんに聞いてもちゃんと教えてくれないし、獄寺さんは獄寺さんで教えてくれないし……ハルだけがのけ者にされているみたいで、不安なんです。もう、こんなふうに心配するのは嫌なんです!」
そう言い捨てるともう一度、ドン、と獄寺の胸を叩く。
怒りで目尻に涙が浮かんできて、最後のほうは半ば泣きながらグズグズとハルは言葉を投げつける。
「あー……だから、悪かったって」
反省しているのかしていないのか、よくわからないような言い方をされると余計に怒りがこみ上げてくる。ハルはぷい、と明後日の方向をむくと獄寺の腕の中からするりと抜け出した。
「もう、いいです。怒ったらお腹がすいたから、ハル一人で今から食事するんですから邪魔しないでください」
コンロにかかった鍋の中で、琥珀色のコンソメスープがおいしそうに輝いて見える。スープ皿に一人分を取り分け、ハルはテーブルに戻った。
獄寺から少し離れた席に腰を下ろすと、黙ってじゃがいものコンソメスープを食べ始める。甘みのあるじゃがいもの味は、いつになくおいしく感じられる。黙々とじゃがいもを咀嚼していると、焦れたように獄寺が自分の皿を食器棚から出してきた。
「ちょうど俺も腹が減ってたんだ。なにせ雲雀のやつ、人使いが荒いからな」
そう言って断ると獄寺は、鍋の中を覗き込む。ハルは知らん顔をして自分の分を食べ続ける。じゃがいもを丸ごとコトコトと煮込んだだけのスープだ。特別に手の込んだことをしているわけではない。だが、獄寺はこのスープを殊の外好いていてくれた。亡くなった母を思い出すと、言ってくれたのだ。 「別に獄寺さんのために作ったわけじゃありませんよ」
ブスッとした顔でハルは告げる。
気に入らないのは、獄寺がなかなか連絡を入れてくれなかったからだ。ようやく連絡がついたという話を綱吉から聞かされたと思ったら、さっさと帰ってきてしまうし。こんなふうにいきなり帰ってこられると、ハルのほうの心の準備が追いついてこなくて、困る。
「でもこれ、俺の好きなスープだよな」
ニヤリと口の端を引き上げて、獄寺が笑ってみせる。
自分のためにハルがこのじゃがいもスープを用意したことなど、獄寺にはお見通しなのだ。
「違います、ハルが食べたかっただけです!」
咄嗟に言い返したものの、獄寺はハルの言葉など聞いていなかった。
皿に顔を突っ込むようにして、夢中になってじゃがいもを食べている。
「もうっ……」
呟いて、ハルは唇を尖らせた。
獄寺がじゃがいもスープを平らげる頃合いを見計らって、ハルはコーヒーを用意した。
「まだ許したわけじゃないですからね」
釘を差すようにハルは言う。自慢の料理をどんなに褒めてもらったとしても、今まで連絡のひとつも寄越さなかったのは許せることではない。
それなのに獄寺には通じなかったのか、いつになく機嫌がよさそうに見えるのはどうしてだろう。
コーヒーを飲み干した獄寺がお気に入りの煙草を口にくわえたところで、ハルはすかさず煙草を取り上げた。取り返そうとする獄寺の指を振り払い、手の中でぎゅっと握り潰してシンクに投げ捨てる。
「ハルがどれだけ心配したのかわかってるんですか」
あんなに心配したというのに、何事もなかったように獄寺がしれっと戻ってきたことが腹立たしくて、悔しくて、たまらない。
「だからさっきから言ってるだろ、雲雀のやつが……」
「それはもう知ってます。ツナさんから聞きましたから」
つん、と澄ました顔でハルが返すと、獄寺は途端にムッとした表情になる。
「十代目から聞いてんのなら、それで納得しとけよ」
眉間に皺まで寄せて獄寺は、すぐそばに立っていたハルの体をぐい、と引き寄せた。
「やっ……」
暴れようとするが、力の差がありすぎて獄寺の腕の中から逃げ出すことすらできない。結局、獄寺の膝の上に落ち着いた時にはハルは抵抗する気力すら失っていた。
「もうっ。ずるいです、獄寺さんは」
いつもいつも自分のやりたいようにやってしまう恋人に、無性に腹が立った。こんなふうに力で押さえ込まれてしまうのも、思うように文句を言わせてもらえないこともだ。
「ずるくなんかねぇよ。まったく、面倒くせぇ女だな」
口の中でそう呟くと獄寺は、ハルの体をぎゅっと抱きしめてくる。
立ったまま抱きしめられるのと、座った状態で抱きしめられるのとでは、密着度が違うような気がする。頬を膨らせたままのハルを抱きしめる獄寺の腕は力強かった。いつも彼の言いなりになってしまう自分に対して腹立たしく思う反面、獄寺のこの揺るぎない腕や胸板が頼もしい。なによりも、やっと自分の元へ戻ってきてくれたのだと思うと、嬉しくてホッとするのもまた事実だった。
「ずるいですよ。ツナさんの名前さえ出しておけばハルがおとなしくすると思ってるんでしょう、獄寺さんは」
唇を尖らせてハルはポソポソと呟いた。
獄寺が綱吉第一に動いていることが嫌なのではない。それとこれとは別に、自分に対しても誠意を見せてほしいと思っているだけだ。ただそれだけなのだ。
「……ったく、しつけーぞ」
低く穏やかな声で囁きながら獄寺は、ハルの首筋に顔を埋めてくる。
首筋から鎖骨のあたりへと獄寺は唇を押しつけてきた。ねっとりとした動きで肌の感触を味わわれた。獄寺の唇が触れたところからハルの体がほわん、と熱くなっていくような感じがする。
「ぁ……」
獄寺のシャツを握りしめ、首を竦めてわずかに抵抗しようとすると、スカートの裾から獄寺の手がするりと太股をなぞって中へ入り込んでくる。
「や、です……」
弱々しく首を横に振ったものの、獄寺は聞き入れてはくれなかった。
大きなてのひらが太股の内側を掠め、ショーツの上からハルの大事な部分に触れてくる。 「今日はもう予定はないよな?」
尋ねられ、ハルはフルフルと首を横に振った。予定はなくても、獄寺の言いなりにはなりたくない。
それにしても、獄寺の指がそろりそろりとショーツの上をいったりきたりして、もどかしい。もう少し強い力で引っ掻いてくれたら、もっと気持ちよくなれるのに。ハルは思わず腰を揺らしそうになった。
「ごまかさないでください、獄寺さん」
獄寺の膝の上で片膝を立てたハルは、恋人の胸にすがりついていく。
聞きたい言葉はまだ、耳にしていない。
ハルが聞きたいのは、言い訳の言葉などではなくてもっとシンプルなものだ。
「しつこいって」
言いながら獄寺は、ショーツの隙間に指を潜らせてきた。すらりとした長い指が、ハルの蜜壷にじかに触れてくる。
「っ……ぁ」
ヌプ、と湿った音がした。
「別にお前が俺のことをどう思っててもいいけどな、そんなに言うのなら今はごまかされとけよ」
耳たぶをパクリと甘噛みして、獄寺が低く囁く。ゾクリとハルの背筋を快感が走り抜けた。
「は、ひ……」
唇が震えて、呼吸が苦しい。なし崩しにごまかされてしまうのだと思うと悔しかったが、会えて嬉しい気持ちをこれ以上隠しておくことも難しい。
獄寺の胸板に頬をすり寄せ、背中へと手を回すと、喉元をチュ、と吸い上げられた。
「……んっ」
皮膚を前歯で軽く噛まれて、ハルは背を大きくしならせる。
「あ、ダメ……跡、つけないでくださ……」
喉元から顎の先を辿ってきた唇が、ハルの唇を深く塞ぐ。
口の中に侵入してきたヌルリとした舌が、ハルの舌をまさぐり、歯列を舐め取り、口腔内を蹂躙する。
「ん、ん……」
キスの合間にもハルの蜜壷に挿入された指は蠢いていた。ゆっくりとしたリズムで中を掻き混ぜる。時折、湿った音を立てながら指を抜き出すと、蜜壷のすぐ上にある小さな突起を撫でたり爪の先で引っ掻いたりする。好き勝手に弄り回され、ハルの体から少しずつ力が抜けていく。
「なあ、ここでしてもいいか?」
空いているほうの手を使って獄寺は、ハルのブラウスのボタンを外していく。ブラジャーの上から胸に唇を押し当て、匂いをかいでくる。
「や……ダメ……」
寝室の方へと視線を向けると、ズルリと指がハルの中から引きずり出された。
「じゃあ、掴まってろ」
そう言うが早いか獄寺は、ハルの体を横抱きに抱えて立ち上がる。
「はひっ……!」
体がぐらりと大きく揺れて、慌ててハルは獄寺の体にしがみついた。
ブラウスの前はだらしなく開いたままで、早速とホックを外したブラジャーが今にもずれそうになっている。みっともない格好のままで寝室へと移動すると、ベッドの上にそっと下ろされた。
「これでいいんだろ?」
尋ねられ、ハルは小さく頷いた。
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