『and then 1』
(作:篠宮 めえ)
「おい、チビナス。おめぇ、ちいっと舐めてみろ」
有無を言わさない強い調子で命令され、咄嗟にサンジはその場に跪いていた。
下衣の中から引きずり出されたジジイのペニスは既に勃起していた。赤黒くて醜い、年寄りの性器だ。昔の記憶そのままの大きなどす黒い亀頭を舌先でちろちろと舐めてから、様子を窺うようにサンジはゼフの顔をちらりと見上げた。
ぎろりと、ねめつけるような眼差しがじっとサンジを凝視している。
「銜えろ」
そう言われると、否が応でも喉にあたりそうになるところまで性器を飲み込むしかなかった。
ちゅば、とわざと大きな音を立てて竿を舐めると、満足そうにゼフが喉を鳴らす。
背後のパティとカルネがはあはあと息を荒げている。サンジが尺八をしているのに見入っているようで、ごくりと音を立てて唾を飲み込むのが今にも聞こえてきそうだ。
「裏筋もよくしゃぶれよ」
そう言われた瞬間、カッとサンジの頭に血が上る。このままペニスを噛みちぎってやろうかと考えながらも、言われたとおり裏筋にも舌を這わせ、玉を揉みしだいた。白髪交じりの陰毛はくぐもったにおいがしており、それがネギの腐ったようなにおいを思い出させた。
子供の頃には、あんなにも触れてもらうことが嬉しかったのに。
今は、どうだろう。
ベッドに腰掛けたゼフはズボンの前だけをくつろげている。パティとカルネは昔っからの仕事仲間だったが、彼らもまた、ズボンの前を膨らませてじっとサンジを見つめている。
サンジはというと、一人素っ裸でゼフの前に跪いていた。
両手でゼフの性器を抱えると、必死に舌と指とを使って愛撫を繰り返している。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
ぼんやりと考えながらペニスをしゃぶっていると、いきなり髪を鷲掴みにされた。
「おい、もっと真剣にやれ。口が留守になっているぞ」
吐き捨てるかのようにゼフが言った。
慌ててサンジは、口での奉仕を再開する。鷲掴みにされた髪が痛かった。精液のにおいに、鼻の奥がつんとなる。
「おめぇら、もちっとこっちに寄れや」
部屋の隅に控えていたパティとカルネに向かって、ゼフが声をかけるのがサンジの耳にも聞こえた。
「せっかくだから、おめぇら、可愛がってやれ」
ゼフの声が終わるか終わらないかのうちに、パティとカルネがサンジの尻にすがりついてきた。どっちがどっちなのかサンジにはわからなかったが、いきなり尻の穴に舌を突っ込まれた。ぬるりとした感覚に、腰がかくん、と床へ沈みそうになる。それを下から支えたのはどっちだろうか。下から支えられたと思った途端、パティかカルネのどちらかがサンジの股の下に潜り込んできて、勃起しかけたペニスをぱくりと銜えた。
「ああ……っ?」
生暖かい口のなかで、サンジのペニスが固さを増した。
痛いぐらいにペニスをきつく吸い上げられると、膝がカクカクとなった。後孔では別の舌と指とが蠢いており、ゼフの性器をしゃぶりながらもサンジは鼻にかかった甘い声をあげた。
「んっ……ふ……あぁ……」
サンジは下半身に与えられる快楽を忘れようとした。ゼフの膝にもたれかかるような格好をして、必死にゼフの性器をしゃぶり続けた。
どうしてこんなことになってしまったのだろうかと、サンジは考えていた。
ゾロの誕生日に、サンジはセックスをした。誕生日のプレゼントがわりに、ゾロにセックスのやり方を教えてやろうとしたのだ。ちょっとした軽いお遊びのつもりだったのだ。
もともと、ゾロのことは嫌いではなかった。ゴーイング・メリー号の仲間であり、悪友でもある二人はことあるごとに喧嘩をしていたが、それは決して仲が悪いからというわけではなかった。
ただ……あの、筋肉おたくの緑マリモに、触れてみたかっただけなのだ。
なんでもない風を装ってあの髪や頬に触れることができれば、それだけで充分に満足だった。
それが、どこをどう間違ったのか、気付いた時にはセックスを教えてやるなどと豪語していたのだ、サンジは。
軽くアルコールが入っていて、とても気持ちがよかったことを覚えている。ゾロの手は、サンジのペニスを性急に追い上げた。指はごつごつと節くれ立っていて、後孔に潜り込むとその形がはっきりとわかるほどだった。内壁を擦り上げるときのツボを見つけるのも、あの男は巧かった。
危うく意識を飛ばしかけたサンジだったが、それは口が裂けたとしても言えないことだ。
それだけではない。何をトチ狂ったのか、ゾロはサンジの尻の穴に自分の性器を突っ込もうとした。間違っているのは、あいつのほうだとサンジは唇を噛み締めた。
あの男は……あの天然毬藻の筋肉馬鹿は、必死の思いだったサンジに向かって、「本当のセックスだとは思わない」と言ったのだ。軽蔑したような冷めた眼差しを思い出すと、それだけで腹の中が煮えくり返りそうになる。
あんなにもすんなりと肌を合わせることに同意してくれたゾロに、まさかそんなことを言われようとはさすがのサンジも思ってもいなかったのだ。
それからしばらくして、十二月がやってきた。
十二月はチョッパーの誕生日だ。
とっておきのイチゴとチョコのケーキを作って、トナカイの砂糖菓子を飾ってやろうとちょうどサンジがあれこれ考えているところに、寄港地が見えてきた。
島の名前は聞きそびれたがなかなかの大きな街だった。
物資の補給とログ溜めで、一日半滞在することが決まった。
サンジは早速、買い出しに出かけた。日常の食糧の買い出しならどこででも買い付けることはできるが、ケーキの材料となると今しかない。次の寄港地がここと同じように大きな街であるかどうかなど、わからない。買える時に買っておかなければ、いざケーキを作る時になって困ることになるかもしれない。
せっかくのチョッパーの誕生日なのだから、奮発してケーキと、プレゼントを用意してやろうと、サンジは思ったのだった。
ふと通りかかった食料品店で、どこかで見かけたシルエットが目に飛び込んできた。
気のせいかと思い、何度もその人影を見つめ返した。
カツン、カツン、と音がするのは、あれは片足が義足だからだ。
間違いない。
あれは……──そう思った瞬間、サンジは走り出していた。
追いかけるのは、そう難しいことではない。
走って、走って、走り続けて。自分が買い出しの途中だったことも忘れて、全速力で追いかけて、何とかあの懐かしいシルエットに追いついた。
「おい……待てよ、クソジジイ」
年取った肘のあたりを掴もうとした途端、サンジの頭に拳骨が飛んできた。
「馬鹿者! お前の来るところはここじゃあねぇだろう」
ぎろりと、あの、懐かしい眼差しがサンジを睨みつけていた。
「ジジイ……」
何故、と思うよりも先に、懐かしさで涙がじんわりと滲んだ。
実の父と子ではなかったが、幼い頃より育てられたゼフとの再会は、サンジにある種の感慨を呼び起こした。
「なんでこんなところにいるんだよ、ああ?」
まさか、こんなところで出会えるだろうとは思ってもいなかった。
きっと夢を果たすまでは会うこともないだろうと思っていたその人が、今、サンジの目の前にいる。
「店は……バラティエは、どうしたんだよ、ええ? 命よりも大事な店じゃなかったのかよ、おい」
ややきつめの口調でサンジが尋ねかけたところに、パティとカルネの二人がどこからともなく姿を現した。
to be continued
(H16.12.27)
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