『and then 3』
(作:篠宮 めえ)



  必死になって、男根をしゃぶった。
  どす黒い怒張の先端からは青臭くて苦い精液がとめどなく溢れだしている。
  子供の頃の自分は、こんなものでも喜んで口に入れていたのだ。一生懸命に精液を舐め取ると、ご褒美として優しく髪を撫でてもらえるのが嬉しくて、それこそ必死になってサンジは男のものに奉仕したものだった。
  そうすることで、サンジは自分の居場所を確たるものにしていたのだ。
  そんなことを考えながら養父のペニスに舌を這わせていると、くしゃり、と髪をかき乱された。
  大きくてごつごつとした分厚い、しかし優しくもある手だ。
  目を閉じて、両手でそっと養父のペニスを包み込む。亀頭を飲み込むと、口の奥まで導き入れる。口角を窄めて口全体で竿の部分を扱くと、くちゅ、くちゅ、と湿った音がした。
「……ん……んぅ……っ……」
  頭を動かしながら口での奉仕に必死になっていると、頭の芯が痺れるような感覚がしてきた。
  気持ちいいだろう? とばかりに上目遣いにゼフを見上げると、年老いたコックは厳めしく眉の間に皺を寄せて、固く目を閉じていた。
  下半身にすがりついてくる男たちの指と舌の感触を振り切るように、サンジはゼフの男根を大きく飲み込み、口の端で先端までを一気に扱いた。青苦い精液を舌先で掬い取り、ちゅぱちゅぱと舐め取る。気持ちいいというその感覚だけが、サンジの脳内でどんどん大きくなっていく。尻の奥に届きそうなぐらい深く侵入したごつごつとした太い男の指が、くい、と内壁を抉らんばかりに引っ掻いた。
「はぁ……うぅっ……」
  膝立ちになった格好のまま無意識のうちに腰を突き出すと、指が入ったままの後孔に舌が差し込まれた。



「い……あっ、あ……」
  サンジの下半身から力が抜けていく。ざらりとした厳ついそり残しのヒゲの感触が太腿を這いずり、臍のあたりではまた別の舌が肌を伝う汗を舐め取っている。ペニスを扱く手はグローブのようにごつくて、柔らかい。何もかもが、ゾロではない別の男の感触だ。
  どうしてこんなことになってしまったのだろうかと快楽に飲み込まれそうになる頭を働かせてサンジは考える。
  子供の頃の思い出と、ついこの間のゾロとの記憶が交互に脳裏に蘇ってきては、消えていく。
  膝に力が入らなくなった頃になってようやく、ゼフがサンジの髪をぐい、と引っ張った。
「どうした、もう足腰が立たなくなっているのか?」
  上から顔を覗き込まれ、サンジは咄嗟に首を横に振ろうとした。
「ちがっ……」
「パティ、カルネ。お前ぇら、こいつを立たせてやれ」
  返そうとしたサンジの言葉を遮って、ゼフが言った。
  サンジの下半身にナメクジのようにへばりついていたパティとカルネが離れていく。二人はのそりと立ち上がると、服の上からでもはっきりとわかる怒張した股間のものを隠しもせずに、サンジの脇を抱えた。
  二人の大男に両側から腕を取られ、引きずりあげられ、サンジはよろよろと立ち上がった。
「気持ちいいか、チビナス?」
  謎かけのようにゼフが問いかける。
  まともに回らない頭でサンジは考えた。
  気持ちいい……いや、気持ちよかった、今までは。
  しかし、今は……。
  サンジが口を開くよりも先に、ゼフが決断を下した。
「お前ぇら、そいつをここに座らせろ」



  しわがれたゼフの声で、パティとカルネがサンジの身体を荷物のように抱え上げた。二人は両脇からサンジの身体を支え、それぞれが太腿を掴み上げた。サンジの股間で、張り詰めたものがポタリ、ポタリと先走りを滴らせている。こんな格好をさせられても、まだ快楽を求めてひくついている自分の身体がとてつもなく汚く、いやらしいものであるかのように思われた。
  パティとカルネがサンジの身体をゆっくりとゼフの膝の上におろした。
  張り詰めた養父のペニスは、先走りとサンジの唾液とでぬるぬるとしていた。そこに、サンジの尻があてがわれる。
「おろせ」
  解された場所に、養父の男根が押しあてられた。
「力むんじゃねぇぞ」
  耳元でゼフが低く告げる。
  何も言うことの出来ないまま、サンジの腰を皺だらけの養父の手が鷲掴みにし、ぐい、と下へと力を込めた。
「あ……あっ、あ、あ……はぁぁっ!」
  ピン、と背を逸らしてサンジは声を張り上げた。隣の部屋に聞こえただろうか。いや、空いた窓から表に聞こえたかもしれない。ちらりと視線を彷徨わせると、幸い窓は閉まっていた。少なくとも、今の声が表へ洩れた心配はないはずだ。
「どうだ、チビナス。気持ちいいか?」
  再びゼフに尋ねられた。
  しかしサンジにはよくわからなかった。
  気持ちいいかと問われれば、確かに気持ちはいいかもしれない。しかし、心がついてこないのだ。ゾロと肌を合わせた時の高揚感が、そしてもっと相手に触れて欲しいと思う気持ちが、今のサンジには足りなかった。まるで……そう、まるでマスターベーションをしているような感じがするのは、これは気のせいなのだろうか。
  サンジが黙っていると、ゼフはフン、と鼻をならした。
「まあ、いい。どうせこれは、本番じゃねぇんだからな」
  そんなことを呟くと、ゼフはサンジの腰を前後に大きく揺さぶり始めた。
  がしがしと全部に揺すられ、あまりの性急さにサンジは目眩を感じていた。ピリリとした痛みが後孔に走る。裂けたのだろうか。それすらもわからないまま、サンジは悲鳴のようなか細い声をあげ続けたのだった。



  そう言えばあの時も些細な好奇心にそそのかされたのだったと、サンジはぼんやりとした頭で考えていた。
「なー、なー、セックスってなんなんだ? 教えてくれよ、ジジイ」
  尋ねかけた途端、驚いたようにゼフはサンジの顔を覗き込んできた。
  いつ頃のことだろう。
  まだ、下の毛も生えそろわないほど幼い頃のことだっただろうか。
  その日の内にサンジは、養父の指遣いと舌とで快楽を覚えさせられた。翌週には初めての射精を経験し、気がついたら養父だけでなく、いつしか年上のコック仲間たちからも同じように扱われるようになっていた。
  ただし、後ろを使ったことは一度としてなかった。
  その頃のサンジは早く大人になりたいと思っていた。いつまでも養父からチビナスと呼ばれ、足手まといだと思い知らされるのが嫌で、大人がするありとあらゆることに手を出そうとしていた。
  セックスが何なのか教えて欲しいと言いだしたのはサンジだったが、それでもゼフは最後までサンジの後孔に舌と指以外のものを挿入することはなかった。それについては、他のコック仲間たちも徹底していた。
  結局、サンジがバラティエでの生活を送っている間には一度として使うことを許されなかった部分を、今、ゼフが犯している。
  どす黒く、醜いものがサンジの後孔を出入りしている。精液と唾液と、それからわずかばかりのサンジの血が混ざり合い、青臭いにおいを放っていた。
  パティはサンジの乳首にしゃぶりついていた。片手で胸の突起を摘み上げ、くりくりと転がしながら、もう片方の突起を歯でやわやわとしがんでいる。カルネはサンジの股間に顔を埋めていた。ちゅぱちゅぱと音を立てながらサンジのペニスをしゃぶりあげ、白い太腿を撫でさすっている。
  嫌だった。
  自分の身体を好きに扱っていいのは……そう思った瞬間、ふとゾロの顔が脳裏に浮かび上がった。
  咄嗟にサンジは目をきつく閉じると、頭を左右に振った。
  片手でカルネの頭をぐい、と股ぐらに引き寄せ、もう一方の手でサンジはパティの股間をまさぐった。ズボンの上から高ぶりに触れ、扱いてやるとくぐもった唸り声のようなものがパティの喉から洩れてきた。
  これがセックスなんだ。
  そう、サンジは思った──






to be continued
(H17.1.31)



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