『and then 4』
(作:篠宮 めえ)



  最後には啜り泣いて許しを乞うた。
  そうしなければイかしてもらえなかったのだ。
  ゼフはいつまでたってもサンジを離そうとはせず、その白い身体の中に大量の精液をぶちまけた。
  結合部からは養父が放った精液がたらたらと溢れ、サンジの太腿を濡らしていく。淫猥な水音が響き、その部分にパティとカルネの視線が張り付いて離れない。背後のゼフがサンジの膝の裏を掴み、大きく足を開かせた。
「あっ……ああぁ?」
  前屈みになろうとするサンジの肩を、パティが押さえつけた。カルネの節くれ立った手がサンジの太腿をぐい、と押し上げたと思うとほぼ同時に、結合部に指を差し込まれた。
「すげぇ……」
  感極まったようにカルネが呟いた。
  ゼフの怒張でいっぱいの狭い部分に潜り込んだカルネの指が、ぐにぐにと内壁を圧迫していく。
「飲み込まれちまいそうだ」
  掠れた声でカルネが言うと、パティがその部分に顔を寄せてきた。
「見る…な……」
  唇を噛み締めてサンジが言うと、背後のゼフがねっとりとサンジの項を舐め上げた。
「バラティエを出てから誰かに抱かれたのか?」
  焦らすように舌先でちろちろと耳の下を舐めると、ゼフは熱い息を吐きかける。ジジイのにおいだと、サンジはぼんやりとした頭で思う。
「……はっ……んんっ……」
  身体を大きく捩ろうとして胸を突き出すような格好をした途端、カルネがサンジの胸の突起に軽く歯を立てた。ピリリとした痛みにも似た快感がサンジの身体を駆け抜け、尻の筋肉に力が入ってしまう。ぎゅっ、と尻の穴が入り込んだペニスと指とを締め付ける。
「ひくついてらぁ」
  そう言ってパティは、サンジの露わになった緋色の襞に舌を這わせた。ペニスと指とを銜え込んだ部分は引き延ばされ、内側の皮膚がちらちらと見えている。その部分を舌で強くなぞるとサンジはさらに甘くくぐもった声をあげ、後ろの穴は艶めかしく蠢いた。
  ぐぷり、と音がして、サンジの後孔から精液が溢れだしてくる。ゼフがまた射精したのだろう。でっぷりと突き出た腹に、皺の刻まれた厳つい顔。下の毛にも白いものが混じっているこの老人は、いったいどれだけの精力を持っているのだろう。もうすでに先ほどから何度も射精をしているが、そのたびに濃い白濁したものを大量にサンジの中に叩き付けているようだ。サンジの結合部からはだらだらと、はしたないほどの精液が溢れ出てきている。まるで女のようにべったりと濡れそぼった部分をパティが舌先でちろちろと舐めると、サンジはいっそう身体を強張らせ、身体の中に入り込んだものを締め付ける。
「ぅ……ひぁっ……ああぁっ……!」
  意識の飛びかけた頭の中に、ゼフの声がやけに鮮明に響いた。
「言っておくがな、チビナス。本番はこんなもんじゃすまねぇぞ」
  サンジはその瞬間、意識を手放した──



  目を開けると暗がりの中、サンジはベッドに横たえられていた。
  全身が痛怠く、身体を動かす気にもなれない。
  誰もいない。
  養父と二人のコックたちはどうやらこの島を後にしたらしい。
  胸の内には大きな喪失感があった。何か、大切なものを失ってしまったような感じがする。
  ベッドに身を起こすとサンジはシャワールームに向かった。ペタペタと床を踏む裸足の足が、鉛のように重い。
  歩きながら、身体の奥から養父の残滓がトロリと出てくる感触にサンジは眉を寄せた。
  子供の頃は大好きだった。多分、自分のいちばんの理解者としてゼフのことを愛していた。パティもカルネも、他のコック仲間もそうだ。サンジなりに、愛していたのだ。
  しかし、何かがかわってしまった。
  バラティエを出てゴーイング・メリー号でルフィたちと旅をするようになってから、サンジの中の何かがかわったのだろう。
  思い当たる節は、ひとつだけ。
  ゾロ──あの、緑色の短髪の剣士。彼が、サンジの中の何かをかえたのだ。
  今なら確信できる。
  汚れた身体を冷たい水で洗い流し、サンジは身繕いをした。
  何もなかったかのような顔をして表に出ると、ちょうど明け方の灰色の空に陽光が差してきたところだった。



  早々に買い出しをすませると、サンジは船へと戻った。その頃には日は随分と高く昇っていて、ブランチかランチかといった時刻になっていた。
  出来るだけ物音を立てないように気を付けながら甲板に立つ。誰もいないのか、それとも誰か下の部屋にいるのか。一通り甲板をぐるりと見回したが誰もいないようだ。悪いことをしているわけでもないのに、やましい気分になってしまう。足音をひそめてキッチンへと向かった。大きな荷物は後から市場の使いの者が届けてくれることになっている。とりあえずは昼の用意が先だろう。
  包丁を握る前に、一服。ささやかな精神安定剤だ。
  肺の隅々にまで紫煙が行き渡るように深く吸い込み、ゆっくりと息を吐いた。
  不意に、痺れるような鈍痛が腰から背中にかけて続いているのを思い出し、サンジは顔をしかめた。
  子供の時には気にもならなかった行為が、今はこんなにもサンジの心を苛んでいる。
  そうだ。
  嫌だったのだ、あの時。ゾロの身体のにおいを知ってしまっていたから、ゾロ以外の誰かに触れられるのが嫌だったのに。それなのに自分は、触れさせてしまった。養父とコックたちに、身体の隅々まで指と舌とで検分された。それだけではない。養父に至っては、サンジの心の中までのぞき見られてしまっていた。本番じゃねぇんだからな、と、そう養父は口にした。あの時には何を言われているのかわからなかったが、今ならわかる。あの行為は、ただただ快楽を求めるだけのもの。肉体的欲求を満たすためだけに、サンジはゼフに抱かれ、パティとカルネに舌と指とで何度もイかされたのだ。
  気持ちいいかどうかと尋ねられれば確かに気持ちよかった。
  だが、違うのだ。
  サンジが求めているのは、快楽を追うだけのものではない。
  本当に、手に入れたいものは……。
  流しの底に煙草を押しつけると、ジュッ、と小気味よい音が響いた。



  ゾロの言った言葉が理解できそうなところまでサンジはきていた。
  本当のセックス。
  行為の最中、ゼフは「本番」と言っていた。おそらくそれに近しい意味合いのことなのだろう、ゾロの言う本当のセックスというものは。
  あと、少し。
  あと少しで、本当のセックスが何かわかりそうな気がする。
  だけど、どうすれば近付くことが出来るのかがわからない。
  ちりちりとなる胸の痛みに顔をしかめ、サンジは深い深い溜息を吐いた。






END
(H17.2.7)



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