『and more 4』
(作:篠宮 めえ)
必死になってゾロは腰を動かす。
身体とは反対に冷めていく気持ちを保とうと、ゾロは躍起になっていた。
サンジの太腿に挟まれたペニスから、先走りが溢れている。慣れていないわけではない。サンジはすすんでゾロのペニスに手をかけ、精液にまみれた亀頭を愛しそうに撫で回している。キスにしても、そうだ。どう見ても、女相手のキスではないことを理解した上での口づけだとゾロには思える。
サンジの言う男同士のセックスとやらは、どうやら触り合いの延長にあるようなものらしいと、ゾロはようやく気がついた。
別に、それでも構わない。
もともと、この話はサンジのほうから言い出したことだったのだから。
互いに、相手のことは仲間として、友人としては嫌いではないが、それ以上の関係となると考えられない。身辺に女っ気のかけらもないゾロと、女性至上主義のサンジ。接点などないように思えるが、もしかしたらどこかに、二人の接点があるのかもしれない。
サンジのペニスに手を回し、竿の裏側から先端の括れにかけての部分をゾロは手のひらで刺激してやった。強く握りしめると、サンジは肩を震わせてむせび泣くような声をあげた。
艶めかしい声だ。
男同士だというのにこんなにも興奮するのは、サンジのこの、声のせいかもしれない。
「ぅあ……っっ!」
ビクン、と大きくサンジの身体が傾いだ。
慌ててゾロはサンジの腰を支えると、そのまま胸のあたりに手を回し、自分のほうへとサンジの身体を引き寄せた。
快楽に流されてしまいそうだった。
サンジの太腿がきゅっ、と締まり、ゾロのペニスをいっそう強く締め付ける。
ゾロも負けじと、陰茎を扱く手に力をこめた。素早く手を上下させ、湿った音を響かせた。
「あっ……ふ……ぁ……」
青臭いにおいがあたりに立ちこめていた。
締め付けられたサンジの太腿の間に、ゾロは射精した。トロリとした精液が、サンジの肌を、足を、伝い流れていく。
余韻に浸りながらもゾロは手を動かし続けた。自分で自分のものを扱いているような気になってくるが、腕の中には間違いなくサンジがいた。荒い息を繰り返しながら、その合間に掠れた声を惜しみなく溢れさせているサンジは恍惚とした表情で天井を仰いでいた。
「……ぅんっ……」
不意に、サンジの手が腰を支えていたゾロのもう一方の手に重ねられた。
「もっと……んんっ、ん……」
指をそっと滑らせ、サンジはゾロの手首を掴んだ。
「そこじゃなくて、こっち……」
掠れた声がゾロの耳に響く。
捕まれたゾロの手は、サンジの尻をするりと撫でるように移動して、後孔へと導かれた。
「ここに……指、入れろ」
わずかにあいた身体と身体の隙間から指を差し込み、ゾロはサンジの後孔に指を入れた。襞が蠢いて、ゾロの指に吸い付いてくるような感じがする。
「ああ……熱ちぃ……」
深い息を吐き出して、ゾロは小さく呟いた。
くったりとしていた股間のものが、少し、固くなったような気がした。
結局、あれからサンジは前と後ろを同時に攻められ呆気なく達してしまった。
ゾロにしてみればどこか物足りない感が拭えない行為だったが、サンジは満足しているようだった。
床に散らばった服をきっちりと着込みながらサンジは、自信満々に尋ねた。
「なあ、どうだったよ? よかっただろう?」
問われてゾロは躊躇った。
一拍、二拍、間を空けてから、ゆっくりとした口調でゾロは返した。
「そうだな。確かに気持ちよかったぜ。だが、勘違いするなよ。生理的に気持ちがよかった、ってことだからな」
穏やかな声だったが、サンジには鋭い刃のようにその声は聞こえた。
「ああ? 気に入らなかった、って言うのかよ、ええ?」
まなじりを吊り上げて、凄まじい形相でサンジは詰問する。もたつきながらもゾロのシャツの胸元を掴み上げると、至近距離まで顔を寄せた。
「お前のは単なる自己満足だ。俺は……あれが、本当のセックスだとは思わない」
表情をかえることなくゾロは、告げた。まるで、大人が聞き分けのない子供に辛抱強く言い聞かせているかのようだ。
「じゃあ…──」
掴み上げた胸ぐらにしがみつくようにして、サンジは言った。
「じゃあ、どういうのが本当のセックス、ってんだよ」
ゾロはただ、黙っていた。
一言も返さず、ただ黙ってサンジを見つめていた。
いつもの、サンジ相手に起こす短気は、今日はすっかりなりを潜めているようだ。
「自分で見つけることだな」
そう言い捨てるとゾロは、サンジの手をシャツから外させ、振り返ることなく部屋を出ていった。
プレゼントは、もらった。
だけど……それだけでは納まりきらないものが、ゾロの胸の内には芽生え始めていた。
END
(H16.12.26)
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