『Dare 2』
(作:篠宮 めえ)
ビビッているのは恐いからだ。
何事もなかったようなふりを通すゾロに、己の胸の内を知られてしまうことが恐かった。
ゾロはあの夜のことを忘れてしまったのだろうか。
あれ以来、サンジは必要以上にゾロには近寄らないようにしていた。もちろん、皆の前ではこれまで通りの態度をとり続けている。ゾロの方はわかっているのかいないのか、何事もなかったような顔をして傍観者を決め込んでいる。
自分ひとりだけが振り回されているようで、いい気はしなかった。
馬鹿みたいだと思えば思うほど、気持ちが重苦しくなっていく。
こんなにも……好き、なのに。
そう。
自分は、ゾロのことが好きなのだ。あの、緑色の髪の腹巻きマリモのことが、気付いたらこんなにも好きになっていた。
男同士だというのにサンジは、あの男のことを考えただけでも下っ腹の奥のほうが疼いてくる。
立ち寄った港で偶然にも再会した養父としたようなことを、あの男ともしたいと考えている自分はなんて淫乱なのだろうかと思わずにはいられない。
だけど、それがサンジの嘘偽りのない気持ちなのだ。
ゾロと、セックスをしたい。
口を開いて、また閉じて。
ゾロの目を見るのが恐いから、口元をじっと見つめて。
サンジは掠れた声で、呟いた。
「教えてくれよ、お前のセックスを…──」
夜まで待ちきれない思いを抱えたまま、二人はいつもと変わりない日常を過ごした。
仲間たちが寝静まるとすぐに二人して格納庫に下りる。
ゾロに抱かれることが少し恐くもあったが、これはサンジ自身が望んだことだった。
ゾロが、サンジのことをどう思っているのかはわからない。結局サンジは、この場に来てまでゾロの本心を知ることを怖がっていた。もし、拒絶されたらどうしよう。抱いてはやるが、好きではないと言われたならどうしようと、そんなことを考えている。
それでも。
たったひとつ、言えることがある。
サンジ自身の気持ちは、とうの昔にゾロへと向かい始めていたということだ。
そんなサンジだったから、ゾロの一挙一動が気になった。少しでもゾロが自分のことを気にしてはいないだろうか、好意を寄せてはいないだろうかと、密かにサンジは窺っている。
我ながらみっともないなと思わずにはいられない。
自分と同じ、男のゾロのことを考えては眠れない夜を過ごしてもいる。
自分の気持ちを茶化して告げるぐらいならできるかもしれないが、その後のことを考えると、何もかもが恐ろしくて実際に行動に移すことが出来ないでいる。
養父に貫かれ、コック仲間に触れられた箇所を余すところなくすべて、今からゾロに触れてもらう──そう考えると、体の奥が知らず知らずのうちに疼いてくる。
格納庫の床に着ていたものを脱ぎ捨て、裸になると、ゾロの筋肉質な腕がサンジの身体を抱きしめてきた。
「ん……」
ちゅ、と湿っぽい音がして、サンジの口の中にゾロの舌が入り込んできた。
胸の内をゾロに知られることで嫌われたらどうしよう、軽蔑されたらどうしようという思いとは裏腹に、身体はその行為にのめり込んでいく。
ざらざらとしたゾロの舌がサンジの歯列をなぞる。それだけでサンジの体温は跳ね上がり、どうしようもなく甘い声が洩れてしまう。
胸を、触られた。レディのようにふくよかではない、平らな男の胸を、ゾロはきゅっ、と摘み上げた。親指と人差し指で挟んで、くりくりと弄られ、サンジの乳首はあっというまにぷっくりと勃起した。コック仲間の乱暴でねちっこい愛撫とは比べものにならないぐらいに丁寧で優しい愛撫だったが、それ故にいっそうサンジの身体は驚くほど正直な反応を見せた。
不意に唇が離れた。
「……こわいのか?」
サンジの顔を覗き込むようにして、ゾロが尋ねかけてくる。
違うと言いかけてサンジは、そこで初めて自分の身体がガタガタと震えていることに気付いた。
小さく口の端を歪めて笑うと、サンジは頼りない声で呟いた。
「興奮してんだよ、バーカ」
そう告げると自分から、ゾロの首にしがみついていく。ぎゅっ、と抱き返されると、身体が落ち着いてくるのが感じられた。震えがおさまるまでゾロはそうやって、サンジの身体を抱きしめてくれた。時折、髪や頬に唇で触れてこられるのがサンジは妙に気恥ずかしい。自分からもゾロにキスを返すと、二人して床の上に横になった。
よれた毛布の上にサンジが横たわると、すぐにゾロが覆い被さってくる。
首筋に埋もれるように、ゾロが鼻先を突っ込んだ。
「メシのにおいがする……」
耳元で囁かれ、サンジは少し困ったようにゾロの顔を見た。カンテラ越しのゾロの顔は、ほの暗いオレンジ色を帯びている。
「すぐに気持ちよくしてやる」
にやりと笑ったゾロの顔はどこか優しい感じがして、下がり気味の目尻にサンジは甘酸っぱい胸の痛みを覚えた。
腹の辺りでゾロの頭が蠢いている。
短い緑色の髪が肌に触れてくすぐったいような感触がするのにサンジは手を伸ばし、ぎゅっ、と抱きしめる。ゾロの舌がペロリとサンジの臍の脇を舐め上げ、反射的にサンジの身体がピクン、と跳ねた。
「気持ちいいか?」
尋ねられ、サンジは目を閉じて頬笑む。
「気持ちいい……」
夢見心地でぼんやりと返すと、陰毛の中で硬くなり始めたペニスをぱくりと頬張られた。
「ぅ……んっ……」
恥ずかしいと感じるよりも先に、気持ちいいと感じていた。
誰に触れられるよりもいちばん、気持ちがいい。目を閉じてゾロの舌を感じる。ざらりとした感触の舌が、サンジのペニスを舐め上げる。ざり、と竿の裏からカリの部分に沿ってゆっくりと舐められた。先端の括れも、滑らかなビロードのような亀頭も舌で愛撫された。割れ目に滲んだ精液を舐め取られると、サンジの腰はカクカクとなった。
「あっ……ぅ……あ、あ……」
揺らぐ腰を床に押さえつけるようにして、膝を立てた。先端からじんわりと染み出したものがサンジ自身の陰毛を汚し、腹にポタリ、ポタリと滴り落ちていく。生暖かい精液に鳥肌が立ちそうだ。
「ん……んんっ……」
無意識に腰を浮かした途端、ゾロの指がサンジの後孔をするりと撫でた。
触られたことは、ある。中に指を挿入されたこともある。つい先だって、産まれて初めて養父のものを飲み込んだその部分を、ゾロの指が撫でている。
「ゾロ……」
うわごとのようにサンジが呟いた。
「ゾロ、ゾロ……」
ゾロのものを挿れて欲しかった。身体の中に突き入れて、奥までいっぱいに満たして欲しい。激しく揺さぶられたならきっと、本当のセックスがわかるはずだから──そんな風にサンジは、思っていた。
To be continued
(H17.3.11)
|