『なりゆき☆まかせ 4』
くちゅり、と湿った音がした。
ゾロの咥内に飲み込まれたサンジのペニスが、ピクピクと震えている。
口の中は生暖かく、ざらざらとした舌が竿を舐めている。それまでにサンジが放った精液をすべて舐め取ってしまうかのように丁寧に、玉の裏から筋のあたりまでもゾロは舐めあげる。
気持ちよかった。
目を閉じてサンジは、浅い呼吸を繰り返していた。
緑色の短髪は掴みにくくてすぐに指の間から零れ落ちていったが、サンジは指先に力を入れてゾロの髪を掴んだ。
「……ぁ……」
不意にビクン、と背がしなったのは、先端から堪えていたものが溢れだしたからだ。
ちゅぷ、とゾロが音を立てて精液を飲み干す。その間にも節くれ立った太い指がサンジの後孔をつついている。身体の中の残滓がトロリと溢れだし、サンジは尻の筋肉に慌てて力を入れた。
「お、濡れてきたのか?」
からかうようにゾロが尋ねる。
「違っ……」
そう言いながらもサンジは、たらたらと溢れ出てくるものの感触に顔をしかめた。チッ、と舌打ちをすると、開いた足をさらに大きく開いた。足を180度に開脚してしまうと、ゾロが身を進めてくるのをじっと待つ。
このまま挿入してくれたら、恥ずかしさも飛んでしまうだろう。熱くて太くて、鋭い凶器のような肉棒で貫かれたい。
手を伸ばすとサンジは、腰骨のあたりを撫でていたゾロの指に自分の指を絡めた。
「──挿れろよ」
ゾロが、サンジの中へと分け入ってくる。
息をひそめたサンジは、もう一方の手でゾロの頭を引き寄せた。
清潔な石鹸のにおいがふんわりと香る。そういえば、自分がぼんやりとしている間にゾロはシャワーを浴びていたなと、そんなことをサンジは思った。
いい匂いだ。汗のにおいと、ほんのりと漂う雄のにおい。それから、清潔な石鹸のにおい。そのどれもがゾロのにおいだと思うと、サンジの腹の深いところがジンと疼いた。
「ぁ……っ……」
根本まで入りきるのを待ってから、サンジはゾロにキスをした。
筋肉質な首の後ろをサンジは白い腕でがっちりと抱き込み、深い口づけを交わした。
舌を差し込んで互いの唾液を交換しあうと、痺れるような感覚がサンジの肉体を満たしていく。
「んっ…ん、ふっ……」
がしがしとゾロが腰を揺さぶると、サンジの身体の奥からピリピリとした快感が沸き上がってきた。サンジは自分のペニスに手を伸ばし、湿った音を立てながら先走りの液を亀頭に塗り込めていく。先走りはサンジの手と、竿と、陰毛とを汚した。ゾロの腹も汚した。精液でぬるぬるになっても構わなかった。
「……ひっ……ぅ……あ、ああぁ……」
後孔の入り口あたりをゾロのもので強く擦り上げられると、サンジはヒクヒクと喉を反らす。前立腺のちょうど裏側をダイレクトに刺激され、小刻みに二、三度痙攣すると呆気なく果ててしまった。
気を失っていたのはほんのわずかな時間のことだった。
ぐったりとなったサンジの身体にのしかかったゾロは、必死に腰を揺さぶっていた。目を開けたサンジの口元にうっすらと笑みが浮かぶ。何故だか、この男がこういった色事に必死なのは似つかわしくないように思えたのだ。
「はっ……ぁ……」
溜息のような吐息がサンジの口から洩れる。胸の突起を軽く唇で挟まれて、反射的にゾロの頭を抱き込んだ。
「あっ、あ……」
足をゾロの腰に絡めると、身体の奥深くを突き上げられた。
キモチイイと思うと同時に、この男でなければ駄目だという思いが胸の中に沸き上がってくる。勢いよく唇を合わせ、貪るようにキスをした。
二度目の絶頂が近づいてくる。
互いの腹の間でピクピクとのたくっているサンジのペニスは、今にも爆ぜてしまいそうだ。
「…ふっ……んんっ」
くちゅり、と腹の間で音がした。いつの間にかゾロの手が腹の間に潜り込み、サンジのペニスを愛撫していた。サンジの精液
で濡れた亀頭を、ゾロの指が撫でさすっている。
「う……くっ……」
痺れたような感覚が、前からも後ろからもこみ上げてきてはサンジの意識を朦朧とさせていく。
「……あっ……」
ぎり、と割れ目の部分を爪で引っかかれ、サンジの身体がしなった。
「気持ちいいか?」
と、ゾロが尋ねるとサンジは睫毛を震わせ、深い溜息を吐いた。
「オマエ……汗で体が光って、やらしい」
掠れた声で、小さくサンジが呟く。それに応えるように、ゾロはにやりと笑った。その間にもゾロの手は、サンジのペニスを擦り上げ、高みへと向かって追いつめていく。
もう少し……もう少しで、何かがわかりそうな気がする。
するりとゾロの胸に手を這わせると、傷跡を指で辿ってみる。それからサンジは、ゾロの乳首に舌を絡めた。がっしりとした胸板を濡らす汗の味にひそむ牡の臭気を感じ取り、頭の芯がくらくらとなった。
行為に流されてしまったのは、不覚だった。
結局サンジは、自分がゾロのことをどのように思っているのか、わからずにいる。
気心の知れた仲間ではある。が、それ以上ではないはずだし、親友ともまた違うだろう。肉体の関係はあるが、恋人でもなく、かといって嫌っているのかというと、そういうわけでもない。
何故、こんなにも中途半端なのだろうか。
いや、そうではない──と、ふとサンジは気がついた。
違うのだ。他でもないサンジ自身が、ゾロとの関係を枠にはめられたものにしたくないと望んでいるからだ。だから、自分たちの関係には名前がない。
宙ぶらりんな状態のまま、関係が続いているのだ。
別に悪いことではないだろう。
サンジだって、こういった曖昧な関係を美しいレディと続けた過去のひとつやふたつ、ないわけではないのだから。
「──…まあ、いいか」
呟いて、サンジはもぞもぞと身体を動かした。はっきりとした関係にしてしまうと、長続きしないことだってあるということを、サンジはこれまでの経験から知っている。ひとつだけわかっているのは、この関係を崩したくはないということ。仲間であり、ライバルであり、恋人であり……そのどれでもある関係を、保っていくことが出来るのならば、それで充分だ。
隣では、大鼾のゾロが大の字になって眠っている。いくらダブルのベッドとはいえ、安宿のベッドでは男二人はさすがに狭かったようだ。行為の最中はサンジも気にならなかったのだが、油断をすると床の上に落ちてしまいそうなこぢんまりとしたベッドが、今は恨めしい。踵でゾロの足をベッドの向こう側へ追いやり、サンジは自分が眠るためのスペースを拡げた。
「なりゆき任せにしてりゃ、そのうちわかるだろうさ」
口の中でそう言うとサンジは、そっと目を閉じる。
心地よい疲労感があっという間にサンジを、深く静かな眠りに就かせてくれた。
END
(H16.8.12)
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