ベッドの上で足を高く抱え上げられ、綱吉は激しい羞恥心を感じていた。
「や……ね、もうやめようよ、獄寺君」
泣きそうな声で訴えると、こめかみにキスをされる。
はぐらかすつもりなのだろうと思うと、途端にむかっ腹が立った。
顔を上げてキッと自分の上にのしかかってくる裸の男を睨みつける。
「嫌だ、って……やめてって言ってるよね、オレ」
唇を尖らせて綱吉がそう言い募ると、体重をかけて押さえつけてくる獄寺の力がふっと緩む。
「オレ、こーゆー…無理矢理っての? ガツガツしてる獄寺君って、好きじゃない」
だけど、嫌いじゃない。言葉にしては言わないけれど、胸の内でこっそりと綱吉は呟いた。
「嫌……ですか?」
しょんぼりと肩を落とし、うなだれた獄寺が尋ねてくる。
ちょっと怒りすぎたかな。獄寺の様子を見ているとそんなふうに綱吉も反省しそうになる。
おずおずと手を伸ばして獄寺の胸のあたりをぐい、と押し退けると綱吉は、自分よりも体躯のいい体から逃げ出そうとする。
力で押されると、恐い時がある。押し潰されてしまうんじゃないかと思うこともしょっちゅうだ。だからと言って、嫌いなわけではない。
本心では好きなのだ。
キスされると思考がぼんやりとして、何も考えられなくなる。浮き足だって獄寺のキスにのめり込んで、酔わされる。
それ以上の行為となると、頭の中は真っ白だ。
照れ臭いのと恥ずかしいのと、それから気持ちいいのと。
そういったものが混ぜ合わさって、ただ快楽を追いかけるだけになってしまうのが恐い。 そんなに夢中になってしまったら、いつか獄寺に捨てられた時に自分はどうしたらいいのだろうかと不安になる。
捨てられるのが恐いから、何もかも投げ出してしまうことができない。
はあ、と溜息をつくと綱吉は、ベッドから降りようとした。
カクン、と膝が崩れた。
──あれ?
そう思うと同時に、体が回転していた。
クルンと目の前がひっくり返って、景色が反転する。
ゴン、と鈍い音を立てて回転が止まると、後頭部に軽い衝撃があった。
「あ……」
床の上にひっくり返った綱吉の上に、獄寺がのしかかろうとしている。綱吉の足首をわし掴み、じっとこちらを見下ろす男の顔はやたらと複雑な様相をしている。
「逃がしませんよ、十代目」
腹に響く低い声で、獄寺が告げた。
つり上がったまなじりが怖ろしく感じられ、綱吉はブルッと身震いをした。
無性に恐かった。掴まれた手を振り解こうと足をバタバタとさせたが、獄寺は難なくその足の動きを押さえ込んでしまった。
「は…放せよ……放せって……!」
のしかかってくる獄寺の身体は綱吉より少しばかり痩せているが、そこかしこに筋肉がついていた。痩せていると言っても、上背があるせいか、大きく見える。こう、ぐい、と顔を近づけてのしかかってこられると、綱吉はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
「嫌だって言ってるだろ!」
声を張り上げ、必死になって獄寺の肩を突き飛ばそうとするが、力が足りない。押し返そうとした手を取られたかと思うと両手を一纏めにして掴まれてしまった。
「放さないって言ってるんです、俺は」
ひどく苦しそうな表情で獄寺が言うものだから、綱吉は一瞬、抵抗の力を弱めてしまった。
まるで自分が何か悪いことでもしてしまったのかと思うような、そんな辛そうな獄寺の表情を見ていると、抵抗するのが申し訳なくなってくる。
綱吉が腕の力を抜くと、すかさず獄寺はその手を頭の上に上げさせ、シーツに縫い止めてしまう。
「あっ……!」
声をあげた瞬間、獄寺が笑った。
唇の片方を歪めて、凄まじく恐い顔で笑っている。
「やっと……捕まえた」
そう言って獄寺は、綱吉のほうへと顔を寄せてきた。
「俺のこと好きでしょう、十代目」
声をひそめて獄寺が言った。
耳たぶにかかる吐息が熱くて、恐い。舌先がぴちゃりと音を立て、綱吉の耳の中に潜り込んでくる。
「……んっっ」
首を竦めてやり過ごそうとすると、耳の端っこ、敏感なところにカリ、と歯を立てられた。
「あ、ああぁ……」
体がピクン、と跳ねて、甘い吐息が零れてしまう。
「手……放して……」
つい顔を背けてしまうのは、恥ずかしいからだ。
耳から頬のあたりにかけてがやたらと熱いから、きっと赤くなっているのだろう。綱吉は唇を噛み締めて、シーツに寄った皺をじっと見つめた。
「放したら逃げるでしょう、十代目」
責めるように獄寺が言う。拗ねたような彼の声に、綱吉はぎゅっと目を閉じた。
「だって……」
恐いよ、と、綱吉は呟いた。
恐くて恐くて、たまらない。
その瞬間、睫毛がフルッと震えて、綱吉の目尻にじわりと涙が滲んだ。
|