恥ずかしいのは、足の間でクチュクチュと湿った音がしているからだ。
しつこいぐらいにぬめった音を立てながら、獄寺の手が綱吉の竿を扱いている。
やめてくれと懇願しても、聞き入れてもらうことはできなかった。
「そういうのはね、十代目。余計に男を煽るんスよ」
辛そうに顔を歪めて、獄寺が告げる。静かな声は冷たくて、綱吉の知る獄寺ではないような感じがして、どこか怖ろしかった。
「でも……嫌なものは、嫌なんだ」
スン、と鼻を啜ると、綱吉もこれ以上は譲らないという風に獄寺をじっと見つめ返す。
「じゃあ……どうしてこんなにドロドロになってるんスか、十代目。十代目のココは、先走りでヌルヌルになってますよね」
やんわりと先端をなぞられて、綱吉の腰がジリジリと揺らぐ。
「ぁ……っっ」
膝の間に潜り込んだ獄寺の身体を挟み込むようにして、綱吉は足をすりあわせようとする。
「ダメッ……!」
綱吉の先端に盛り上がった先走りが、トロリと竿を伝って零れ落ちていく。
「エロいっスよ、十代目」
そう言うと獄寺は、竿を濡らした先走りに舌を這わせた。ピチャリと音を立てて舐め取られ、綱吉の腰がビクンと跳ねる。
「あっ、あ……」
先端の割れ目に辿り着いた舌先が、抉るようにして尿道口をこじ開けようとする。
「ダメッ……ごっ、獄寺君っ!」
ぞわぞわと綱吉の背筋を快感が駆け上がっていく。
「や…あっ……!」
袋の部分を獄寺の口がバクリとくわえこみ、口の中でコロコロと転がされた。込み上げてくる射精感を堪えながら綱吉は、獄寺の頭を引きはがそうと髪の中に指を差し込んだ。
「イヤだ……獄寺君、やめて……」
それでも獄寺を突き放すようなことができないのは、心の底では彼のことが好きだからだ。そう、何だかんだと言ってはいるものの、自分は獄寺のことが好きなのだ。
「獄寺君……」
掠れた声が綱吉の口から洩れた。いやらしい声だと自分でも思う。欲情して、女の子のように甲高い声で獄寺の名前を呼ぶ自分の声が、たまらなく嫌だ。
「あ、あ……ぁ……」
ヌルリと獄寺の舌が袋の裏側を這い、そのままさらに後ろの窄まったところへと辿り着く。
ピチャリ、と音を立てて窄まりの周囲を舐められた。襞の縁がきゅう、と収縮して、獄寺の舌を拒むかのように硬く閉ざされる。
「……誘ってんですか、十代目?」
尋ねながら獄寺の指が、硬く閉ざされた綱吉の窄まりをグニグニと押し開こうとする。そのうちにチュク、と窄まりに生暖かいものが押し当てられた。獄寺の舌だ。
「ヒッ……あ、あ……」
ねっとりと舌で舐められ、熔かされて、綱吉の硬く閉ざされていた部分が次第に綻び始める。
綱吉の太股がブルブルと震える。
「ああ……ダメ……」
片腕で顔を隠すと、綱吉は掠れた声で小さく叫んだ。
「もっ、イクっ……!」
泣きながら綱吉は、獄寺の口の中に白濁したものを放った。
堰き止められていた熱が自分の中から迸り出る瞬間、綱吉は背徳の香りを感じていた。
男同士でする行為に、どんな意味があるというのだろうか。
自分たちはやはり、悪いことをしているのではないだろうか? 一度そんなふうに考えだすと、思考が分散して悪いほうへ、悪いほうへと考えが向かってしまう。
ノロノロと身じろぐと綱吉は、獄寺の柔らかな銀髪に指を絡めた。
「……獄寺君」
これだけで獄寺が許してくれるなどと思いはしなかったが、それでも、言わずにはいられない。自分のこの気持ちは間違ってはいない、悪いことをしているわけではないのだと自分に言い聞かせるように、綱吉は囁く。
「獄寺君、好きだよ」
嬉しそうに口元に笑みを浮かべた獄寺が、綱吉の体を抱きしめてくる。
駄々っ子のように綱吉を求めることがあるかと思うと、忠犬よろしく自らの欲望を抑え込むこともある。そんな気紛れな獄寺のことが、綱吉は好きで好きでたまらない。
セックスに対する抵抗はあるが、ただ触れ合うだけの行為なら嫌ではない。キスだって、抱きしめ合うことだって、本当はもっとしたいと思っている。
苦手に思っているのは、挿入の時の痛みと、圧迫感だ。後は気持ちの問題だ。照れ臭いのと恥ずかしいのと、それから気持ちいいのと。そういった諸々が合わさって、獄寺との行為に抵抗を示すようになっているだけなのだ。
「十代目……」
こめかみに落とされるキスが心地よくて、綱吉は目を閉じる。
嫌だ嫌だと言ってはいるものの、綱吉だって本当のところは、獄寺とこうして抱き合うことが好きなのだ。後ろめたい気がすることもあったが、それ以上に獄寺との触れ合いが嬉しくてならない。 チュ、チュ、と獄寺の唇が綱吉の頬や唇に触れてきて、それからゆっくりと、足を開かされた。
ここまでくると、もう嫌がってみせる余裕も綱吉からは抜け落ちてしまっている。
おとなしく獄寺に身を任せると綱吉は、白い首筋にしがみついていく。
「獄寺君、好き……」
耳元に囁きかけると、その瞬間にぐっ、と綱吉の中に獄寺の性器が押し入ってくる。
「ぁ……ああっ!」
内壁を擦り上げる獄寺の形が、綱吉にはリアルに感じられた。背筋がゾクゾクとした。
互いが一番近付く瞬間だ。
一つに熔け合って、抱きしめ合う。まぶたにかかる吐息さえも愛しくて、綱吉は全身で獄寺にしがみついていく。
「十代目……」
少し掠れた獄寺の声に、腹の底がじわりと熱を帯びるのを感じた。
「キス……もっと、して」
強請るように唇を突き出すと、キスがおりてくる。綱吉のほうから深く唇を合わせていくと、舌を絡め合った。
嫌い、嫌いと口にしてはいるものの、本当のところはその裏返しの気持ちなのだということを理解してくれる獄寺が、綱吉は大好きでならない。
「好き……」
甘い囁きを唇に乗せると、獄寺がいっそう深く綱吉の中を突き上げてくる。
「あっ、あ…あぁ……」
綱吉は恋人の腰に足を絡めると、獄寺のにおいを鼻の奥いっぱいに吸い込んだ。
「も、と……キス……」
啜り泣きながら綱吉が口走る。
追い上げるように獄寺が腰を打ちつけてくるその激しさに、綱吉の腹の底が熱でいっぱいになる。
「ご…く、で……」
ズブズブと引きずり出されていく楔の熱に、綱吉は喉をヒュッと鳴らした。抜け落ちる寸前で止まったそれが、再び綱吉の中へと埋め込まれる。狭い内壁を押し分け、綱吉の体の奥を突き上げてくる。
「ん、はっ……」
腹の間にあった綱吉の性器が、いつの間にかまた高ぶっていた。先走りを溢れさせ、獄寺の腹に擦られるたびにピクピクと震えている。
「十代目……嫌じゃ、ない…スよね?」
耳たぶに熱い吐息をかけながら尋ねられ、綱吉は何度も頷いた。
「んっ、ん……好き……嫌じゃ、な……」
息も絶え絶えに言いかけたところを、ひときわ大きく突き上げられ、綱吉は呆気なく果ててしまった。
ゆっくりと、意識が遠のいていく。目の前にある獄寺の顔が次第にフェードアウトしていく。
何度も激しく突き上げられ、体の中に獄寺の迸りを感じた瞬間、綱吉は意識を手放していた。
「……す、き」
掠れた声でそう告げたつもりだったが、うまく声になったかどうかは定かではない。
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