クチュ、と湿った音がして、綱吉の口の中へと獄寺の舌が侵入してくる。
「ん、ぅ……」
チロチロと舌先でくすぐられ、思わず綱吉は獄寺の舌に自身の舌を絡めていた。
「く……っふ」
首筋にしがみつき、ぎゅう、と体を密着させると、腹の底から熱が込み上げてくるのが感じられた。もぞ、と腰を揺らすと綱吉は、獄寺の太股のあたりに腰を押し付けていく。
「……ご、く寺君──」
キスの合間に名前を呼んでさらに強くしがみついた。流れ込んでくる獄寺の唾液をおいしいと思った。ほんのりと煙草のかおりのする苦いキスだが、嫌ではない。このキスは、獄寺のキスだと綱吉の身体が覚え込んでいる。
「十代目」
耳元で囁かれ、綱吉の背筋がゾクゾクと震えた。気持ちいい。この低い声も、ざらついた舌も、体温も、彼のにおいも……何もかもが愛しくてならない。
「……獄寺君」
しがみついたまま、獄寺の首筋に唇を這わす。綱吉の愛撫はいつまで経っても拙いものだったが、それでも獄寺はいつも悦んでくれる。綱吉の返す子どもっぽいキスに目を細め、感じてくれる。
その一つひとつの反応が、綱吉には嬉しくてたまらない。
自分はこの人から愛されている。確かにそう感じることができることが、幸せでならない。
チュウ、と音を立てて獄寺の鎖骨のあたりを吸い上げると、うっすらと朱色に色付く。それを見て綱吉は、灯りを消してもらうよう頼みそびれていたのがかえってよかったと小さく笑った。
「どうかしましたか?」
顔を覗き込もうとする獄寺の鼻先にもチュ、と唇を寄せて、綱吉はしごく真面目な顔をする。
「バレンタインのお返しを……」
バレンタインは、お互いが用意したチョコを交換し合った。だから、綱吉一人がお返しをすることもないのだろうが、どうしてもお返しをしたかったのだ。
「いただけるんですか?」
尋ねる獄寺の眼差しは、期待に満ちている。
「……う、うん」
躊躇いがちに頷くと、綱吉の体は力いっぱいに抱きすくめられた。
灯りを落としたベッドの中で抱き合うのは、心地好い。
真っ暗な部屋の中で、抱きしめる。抱きしめられる。獄寺の腕の中にいると、互いの鼓動が静まり返った中に響いてくるような感じがする。トクン、トクン、と聞こえてくる音をBGMにして、綱吉は少しだけ大胆に獄寺に触れていく。
肩口から始めて、二の腕を通って指先へと辿り着く。それを口へと近付け、唇で触れてみた。指を甘噛みして、唇をまた押しつける。チュッ、と乾いた音を立てて指先から離れると、今度はおずおずと手探りで獄寺の顔をまさぐり、こめかみのあたりにキスをする。
獄寺はと言うと、綱吉のしたいようにさせてくれている。くすぐったいのか、喉を鳴らすような低い笑いを時折零しながら、綱吉の肩や脇腹や胸に触れてくる。なでるように優しく、確かめるようにはっきりと、獄寺の繊細な指先が綱吉の体を辿っていく。
「ん……んんっ」
てのひらが脇腹をくすぐったと思うと、獄寺の指は掠めるようにして綱吉の陰毛に触れてきた。
くすぐったいのと、いよいよその繁みの中で形を変えつつあるものに触ってもらえるのだという期待感、それにいつになってもなくならない羞恥心とが入り交じった複雑な感情を持て余したかのように、綱吉は体を竦める。
きゅっと体を縮こめて、獄寺の手をやり過ごそうとしている。
「十代目」
耳元に、獄寺の吐息がかかる。
「真っ暗で見えないんですから、せめて声だけでも聞かせてください」
切ない調子で囁かれ、綱吉の体がズクン、と疼く。
「……っっ」
獄寺の胸に顔を擦り付けるようにして、綱吉は首を横に振った。
恥ずかしくて、声なんて聞かせられるわけがない。そう言おうとして、唇を噛み締める。理性が飛んでしまっているならともかく、今は、まだ……。
「ダ……ああっ!」
ダメだと言いかけて、性器を掴まれた瞬間、綱吉は背中を大きく反らしていた。包み込んでくる獄寺の手の熱さに、素直に体が反応する。綱吉の性器は獄寺の手の中で、硬く張り詰めていく。竿の裏側を指の腹でなぞられ、尿道口を目の先でグリグリと押し潰されると、綱吉の腰はビクビクとなった。薄い腹筋も、それにあわせてピクピクと震えている。
「あ、ぁ……」
はふっ、と息を吐き出すと、吐息ごと獄寺の口の中へと奪い取られた。口付けられ、唾液ごと喘ぎ声までも一緒に吸い上げられる。
「ゃっ……」
目尻にうっすらと涙を滲ませた綱吉がフルッと体を震わせた途端、獄寺のもう一方の手が、するりと臀部に這わされた。そのまま尻の肉を掴むようにしてやわやわと揉みしだかれると、前の方へと振動が伝わってくる。前を刺激する手の動きに連動するようにして尻を揉まれ、綱吉の性器の先端に、ねっとりとした先走りが浮かび上がってくる。
「……ん、ぁ」
クチュッ、と湿った音が闇の中で響いた。見えないだけに淫猥に聞こえるその音に、綱吉の体にさあ、と鳥肌が立つ。
気持ちよくて、頭の中が真っ白になってしまいそうだ。
このままでは流されてしまいそうだと綱吉は思う。
シーツに擦りつけたままの踵にぐい、と力を入れる。足の下で、シーツが捩れるのが感じられた。
サイドボードの引き出しにしまってあるローションを獄寺はいったいいつの間に取り出したのだろうか、綱吉の尻にひやりと濡れた感触がした。
「冷、た……」
弱々しく呟くと、獄寺の手が尻の間をまさぐるのが感じられる。ヌルリとした指先が、綱吉の尻の奥、窄まった襞の隙間にそろそろと差し込まれてくる。
「あっ、あ……」
二本の指に窄まった部分をこじ開けられ、潜り込んだ指で内壁を優しく擦り上げられた。 焦れったいほどに優しく緩慢な動きに、綱吉の腰がもぞもぞと揺れる。
「んっ……獄寺っ、く……」
前の方へと回された手が、綱吉の竿をやわやわと撫でさする。それだけで綱吉の先端の部分からはタラリと先走りが溢れ出し、竿や、獄寺の手を濡らしていく。
「入れて……」
しがみついた獄寺の首筋に齧り付くと綱吉は、掠れる声で懇願した。
「中……獄寺君ので、掻き混ぜて……っ!」
言い終わるか終わらないかのうちに獄寺の指が綱吉の後ろから引き抜かれ、かわりに硬く張り詰めたものが押し当てられる。ああ、と小さく安堵の吐息をついて綱吉は、口元に笑みを浮かべた。恥ずかしくてたまらないが、欲しいものは一つしかない。あてがわれた怒張を飲み込むために意識して体の力を抜くと、獄寺の背に腕を回していく。
肩胛骨の下のあたりに手をやると、筋肉が隆起するのが感じられた。
「……獄寺君」
促すように囁くと、獄寺の腰がぐい、と突き出される。綱吉の襞を押し広げ、獄寺のペニスが中へと分け入ってくる。
「あぁ……あっ!」
括れた部分に内壁を擦り上げられ、綱吉の体が大きく跳ねそうになる。グチ、と湿った音がして、獄寺の腹に当たっていた綱吉の性器が大量の先走りを溢れさせた。互いの腹に挟まれ、擦られるたびに湿った音を立てては、ポタリ、ポタリ、と綱吉の腹の上に自身の先走りをふりまいている。
「……十代目」
苦しそうに獄寺が囁く。きっと眉間には皺を寄せて、暗がりで見えないにも関わらず、獄寺は真摯な眼差しで綱吉を見つめているはずだ。
「獄寺君!」
腕だけでなく、足を獄寺の腰に絡めると、綱吉は全身で恋人にしがみついていく。
激しく揺さぶられ、腹の底に込み上げてきた熱が、性器の先端からタラタラと溢れ出す。 「ん……あ、あぁ……!」
太股の筋肉が痙攣したようにビクビクと震えている。思わず綱吉が腹筋を締めると、尻の筋肉までもがきゅぅ、と締まった。獄寺が喉の奥で低く呻く。
乱暴なまでに突き上げられ、綱吉はその激しさに翻弄された。
頭の中でいつくものハレーションが巻き起こり、意識が混濁としてくる。
暗がりの中の恋人にしがみいていることさえ、わからなくなりそうだ。
肩口に額を押し付けると綱吉は、獄寺の背中に爪を立てた。
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