「今日の宿題でわからないトコがあるから、教えてくれる?」
下校中の道で、綱吉は立ち止まるとポソリと声をかけた。
すぐ後ろを歩いていた獄寺が、何気ない様子で「喜んで、十代目!」といつものように返してくる。
それじゃあ、ということで、獄寺の家で宿題をして、泊まる約束を取り付ける。
幸い明日は学校が休みの日だ。
分かれ道のところで獄寺と別れた綱吉は、家までの道を駆け足でやり過ごす。
ドアを開けて家の中に飛び込むと、「ただいま!」と台所にいるはずの母に声をかけ、二階の自室へと駆けていく。
デイパックに宿題などの勉強道具を詰め込むと、お泊まりの荷物を揃えていく。と、言っても夏休みに泊まりに行った時に歯ブラシとパジャマがわりのシャツとハーフパンツを獄寺の部屋に置いてきたから、荷物はそんなにない。せいぜい替えの下着ぐらいだろうか。
用意が調ったところで綱吉は階下の母のところへ足を向ける。
「ねー、母さん」
台所からは、揚げ物のいいにおいがしてきている。
「獄寺君とこで一緒に宿題やる約束したから、オレ、今から泊まりに行ってくるよ」
母に何と言われるだろうかとドキドキしながら声をかけると、夕飯の支度をしていた奈々がふっと顔を上げ、「あら、そうなの」と返す。
「じゃあ、お弁当にしてあげるから、獄寺君と二人で食べなさい」
母の言葉にいささか拍子抜けしながらも綱吉は、「うん、ありがとう」と頷く。
小ぶりの重箱を出してきた奈々は手際よく夕飯のおかずを詰めてくれた。それからおにぎりを握り、デザートにと梨を剥いて重箱の隅に入れてくれる。
「さ、これでツっ君も宿題を頑張れるでしょう?」
そう言われて、綱吉は照れ臭そうに重箱を受け取った。
「ありがとう、母さん。明日の夕方には帰ってくると思うから」
そう言って綱吉は、お泊まりセットと重箱を抱えて家を後にする。
獄寺の家までは、自転車だ。
夕暮れの道を自転車で走りながら綱吉は、自然と口元が綻んでくるのを止めることが出来ないでいた。
獄寺の部屋に着くと早速、母に持たされた重箱の中身を二人で平らげにかかった。
宿題は明日の午前中に片付けることにして、今夜は獄寺のための誕生日を二人だけで祝うつもりだった。
母の手作り料理の後に、ここへくる途中にコンビニで買ってきたショートケーキを綱吉は出してきた。
「ショートケーキだけど、これに蝋燭立ててお祝いしようよ」
蝋燭は、ワンコインショップで売っていたアルファベットの蝋燭だ。京子とハルの二人に教えてもらったのだ。獄寺の『G』のを象った蝋燭をショートケーキに立てると、火を点す。
「獄寺君、一息で吹き消すんだよ」
綱吉がそう言うと、獄寺は張り切って蝋燭の火を一息で吹き消した。
それから二人で、ケーキを食べる。
少し灯りを落として、いかにもな雰囲気の中で言葉少なに時間を過ごす。
付き合いだしたばかりで日は浅いが、夏休みの間に二人はキスだけでなく、それ以上の行為にまで辿りついていた。
学校ではできるだけそんな素振りは見せないようにしていたが、こうして獄寺の部屋にいる時には、時折キスをしたり、相手の体に触れたりと、そこいらの恋人同士とかわらないようなことをしてもいる。
今夜は獄寺の誕生日だからだろうか、綱吉も自分がハメを外し気味になっている自覚があった。
「誕生日おめでとう、獄寺君」
そう言って獄寺の頬にキスをすると、お返しとばかりに唇にキスが降ってくる。
恥ずかしかったが、照明のおかげで顔が赤いのは誤魔化すことが出来るだろう。自分から深く唇を合わせていくと、獄寺の舌が唇の隙間をペロリと舐めてくる。
唇をうっすらと開く瞬間、綱吉の心臓はドキドキした。
恥ずかしいのと、少し恐いのとが入り交じったような感じだ。か細い溜息をつくかのようにそっと唇を開くと、獄寺の舌が慎重に綱吉の口の中に潜り込んでくる。
「ん……」
クチュ、と湿った音がして、綱吉の体温がぐん、と上がる。恥ずかしい。頬が熱くなっていることに、獄寺は気付いているだろうか?
「ぁ……」
散々口の中を蹂躙しておいて、獄寺の唇はあっさりと離れていった。中途半端に吸い上げられた舌がジン、と痺れたようになっていて、もっともっとと強請ってしまいそうだ。
ふう、と息をつくと、獄寺は淡く笑っていた。
男前だなと綱吉はボンヤリと思う。
薄暗い照明の下で、獄寺の銀髪が光を放っている。指を伸ばして触れてみると、サラサラとして心地よい手触りがした。
「十代目──」
耳に吹き込まれる獄寺の囁きまでもが、気持ちいい。
綱吉は獄寺の囁きに小さく頷き、痩せてはいるもののしっかりと筋肉のついた背に腕を回した。
挿入を伴うセックスをするのは、今夜で三回目だ。
それ以外は、手で触り合ったり、たまに獄寺が口でしてくれたり……それでも綱吉にとっては勇気の要る行為だった。
キスをするだけでもドキドキして、顔を見られるのが恥ずかしくてたまらなくなるというのに、そう簡単にセックスに慣れてたまるかと思う。
ヌルヌルとしたローションの感触に体を震わせながら綱吉は、獄寺の下で小さく喘いだ。 明日は休みだし、何と言っても今日は獄寺の誕生日だ。挿入されるのは間違いないだろう。別にそれが嫌だというわけではない。ただ、痛かったり苦しかったり、それから気持ちよすぎたりするのが少しばかり恐いだけだ。
「……十代目」
甘く掠れた声で呼ばれ、綱吉はビクンと体を大きく震わせた。
「挿れてもいいっスか?」
尋ねられた言葉の意味を綱吉は理解している。今夜は断ろう、挿れるのはナシにして欲しいと頼もうと思いながらも、獄寺の声を耳元で聞いていると、言葉が出てこなくなってしまうのは何故だろうか。
「ん……」
小さく頷いて綱吉は、獄寺にしがみつく。
獄寺の微かな汗のにおいが鼻先をくすぐり、綱吉はいっそうドキドキした。
チュ、チュ、とくちづけを交わしながら、獄寺の手が綱吉の体をまさぐり始める。獄寺の指先が触れると、そこから綱吉の肌がカッと熱を持ち始める。
体の芯まで熱くとろけてしまいそうになるまで、時間はそうかからない。
クチュ、と唾液ごと舌を絡め取られ、吸い上げられる。
「ん、あ……!」
獄寺の手が、綱吉の性器に触れてくる。キュッ、と性器を握りしめられて、反射的に綱吉の背がしなった。
「はっ……ふ…ぅ……」
獄寺が自分の中に入ってくる時のことを考えると恐くてたまらなかったが、こんな風に自分の性器に躊躇わずに触れてきてくれるのは、恋人である獄寺だけだろう。
「──…で、ら君……」
強く、抱きしめて欲しいと綱吉は思った。
恐くないように。痛くないように。それから、気持ちよすぎて困らないように。
勃ち上がりかけた綱吉の性器の先端をてのひらでグリグリと撫でながら、獄寺は「愛してます」と綱吉に囁きかける。
「オレ、も……」
はふ、と息を吐き出して、綱吉も返した。
途端に、背骨が軋みそうなほど強い力で獄寺に抱きしめられ、綱吉も同じように力いっぱい抱き返した。
|