03.あと少し、このままで3

  ゆっくりと体を押し広げられる感覚は、不快なものではなかった。
  むしろ自分が目の前の男のものなのだという優越感に浸ることができる瞬間に思えて、綱吉には痛みすら心地よいものとしてインプットされている。
「獄寺君……」
  はあ、と息を吐き出し、綱吉は囁きかける。
  ゆっくりと時間をかけて、獄寺の性器が綱吉の中へ入ってくる。苦しい。圧迫感と、引き攣れるような痛みに、綱吉の目尻に涙が滲む。
「十代目?」
  心配そうな獄寺に声をかけられ、綱吉はいっそう強い力で恋人にしがみつく。
「獄寺君、獄寺君……」
  少し掠れた声でそう囁きながら、獄寺の臭いを鼻腔いっぱいに吸い込む。汗と体臭と煙草のにおい、コロンの香り、それにダイナマイトの火薬の微かなにおいがしている。
「痛いですか?」
  耳元で尋ねられ、綱吉はゾクリと背筋を震わせた。
「ん……痛、く…ない……」
  言いながら綱吉は、獄寺の頬に手を伸ばす。
  はあ、と息を吐き出すと獄寺の唇の端に自分からキスをする。
「もっと、奥まで……」
  上ずった声で綱吉がボソボソと言うと、獄寺の腰がそれに応えるように優しく中を掻き混ぜてくる。
「ん、ぁ……」
  途端に綱吉の体が中に潜り込んだ獄寺の性器をキュウ、と締め付ける。
  恥ずかしい。だけど、嬉しくもある。一つに溶け合って、何もかも奪い、奪われたいと思う瞬間があるとしたら、それはセックスの瞬間だけかもしれないと綱吉は思う。そう、心までも溶け合って、自分は全て獄寺のものになってしまいたいのだ。
「獄寺君……」
  また、キスをねだった。獄寺にやんわりと唇を吸い上げられ、綱吉の体がじわん、と熱くなる。
「……もっと」
  甘えるように囁くと、今度は深いキスが降りてきた。
  それから何度か優しく突き上げられ、二人は同時に達した。



  その夜は、抱き合ったまま眠った。
  獄寺を受け入れた部分はまだ少し痛みと恐怖で慣れないけれど、それでも、ある種の充足感のようなものが感じられた。
  彼のことが好きなのだと、綱吉は思う。
  少し怖くて、意地っ張りで、だけど綱吉には忠実で。
  本当は、もっともっと甘えてみたい。年相応に色んなことを話したり、遊んだり、二人でどこかへ出かけてみたりしてみたい。
  素直にそんなことを言える日は、いったいいつのことだろうと綱吉はこっそりと笑う。
  隣で眠る獄寺の体温は高くて、あたたかくて、心地いい。
  寝ぼけたふりをして横を向いてしがみついたら、獄寺はぎゅっと抱き返してくれた。もしかしてまだ、獄寺も眠っていないのだろうか?
「……獄寺君、もしかして起きてる?」
  獄寺の胸にぎゅう、と頭を押し付けて、綱吉は小さく問いかけた。
「はい、十代目」
  すぐに獄寺の声が返ってくる。
  今しがたの自分の行動が恥ずかしかった。やはり自分と同じように獄寺も、眠れなかったのだ。
「あの……た、誕生日プレゼントなんだけど……」
  何にしようかと、ずっと探していた。悩んで悩んで、悩みまくって。結局、何も用意することができなかったのだ、獄寺の誕生日プレゼントを。そのことを、はっきりと伝えなければと綱吉は思う。
「オレ……」
  ボソボソと言いかけた綱吉の唇に、獄寺の指先が暗がりの中、手探りで触れてくる。
「大丈夫っスよ、十代目。十代目からもらうものなら俺、なんでも嬉しいんです」
「でもっ……」
  なおも綱吉が何か言おうとすると、今度は髪にチュッ、と唇が降りてきた。
「それに、もうもらいましたよ、十代目からは」
  え? と綱吉が弾かれたように顔を上げる。暗がりの中、獄寺の輪郭がぼんやりと見えるだけだったが、何となく恋人が微笑んでいるように綱吉には思えた。
「オレ、獄寺君に何かあげたっけ?」
  尋ねると、獄寺は「はい」と嬉しそうに頷いた。
「十代目ご自身を、いただきましたから」
  獄寺の言葉が綱吉の耳に、くすぐったくもあたたかく響く。
「あ……」
  途端に綱吉の頬がカッと熱くなる。
「もうっ、そーゆーことは言わなくてもいいって!」
  慌てて言いながらも綱吉は、嬉しくてたまらなかった。



          3
(2011.10.9)


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