甘いイタズラ・2

  キッチンからカチャカチャと音が響いてくる。
  ──ああ、また今夜も獄寺君がケーキを作っているんだ。
  ぼんやりとした頭の中で綱吉は、そんなことを考える。
  獄寺と同じ屋根の下で暮らすようになってもう何年にもなるが、隣に温かさのない夜がこんなに寂しいものだとは思わなかった。
  眠いながらもはあぁ、と溜息をつくと綱吉は、ベッドの中で寝返りをうつ。
  獄寺のケーキ修行はまだ続いている。時々、夜遅くに帰宅してからキッチンでごそごそとしていることもある。どうやら、ケーキの土台となるスポンジがいつまで経っても上手に焼けないらしいのだ。朝になるとケーキの残骸らしきものがシンクに残っていたり、焼け焦げた残り香がキッチンに充満していたりすることがあるが、敢えて綱吉は知らんふりを通している。
  だが今日はいつもと少し違うようだ。
  カチャカチャという音が、いつもよりしつこい。
  ケーキを作るのに、こんなにしつこくカチャカチャ言わせる必要があるのだろうか。
「もう……うるさいな」
  眠い目を擦りながら綱吉は、ベッドから下りた。
  カチャカチャという音はまだ、キッチンから響いてきている。
  ドアを開け、廊下へ出た。
  キッチンの灯りが廊下の向こうに見えたが、暗がりに慣れた目には眩しくて、綱吉は目をすがめて廊下を進んだ。
「獄寺君……」
  キッチンのドアをそっと押し開け、綱吉は声をかけた。
  獄寺がいた。いつぞやの獄寺と同じ、パジャマ姿にエプロンをつけた格好で、一生懸命泡立て器でボールの中を掻き混ぜている。
「まだやってんの? もう遅いよ、明日にしたら?」
  もう随分と長いこと、獄寺には触れていないような気がする。
「でも、もう少し練習してから……」
  言いかけた獄寺の背後から綱吉は、華奢な体に腕を回した。
「オレも、構って欲しい……獄寺君と一緒のベッドに寝てるのに、ナニもできないなんて……」
  言いながら、ほっそりとした体に回した腕に、力を込める。
  獄寺がケーキ作りの練習を始めてからこっち、綱吉はずっと禁欲生活を送っている。少しぐらい触れてもいいだろうと思う日もあったが、無理強いする気にはなれなくて、じっと我慢を重ねてきた。
  だが、獄寺のほうはケーキ作りから一向に離れる気様子がない。ここまで待たされ、我慢させられた綱吉にしてみれば、腹立たしくもある。
「ねえ、獄寺君。ちょっとはオレのことも構ってよ」
  耳元に囁きかけると綱吉は、白い耳たぶにカプリと齧りついた。
「ひゃっ……んっ」
  首を竦め、獄寺は綱吉の腕から逃れようとする。その何気ない仕草に綱吉の中の理性が、一瞬にして吹き飛んでしまった。



  パジャマの裾から手を差し込むと綱吉は、獄寺の白い肌に手を這わせた。
  脇腹を指で辿り、ゆっくりと上へ、下へと滑らかな肌をてのひらでなぞってやる。
  獄寺が手にしたボールの中には、生クリームが入っていた。あれだけカチャカチャとうるさく掻き混ぜていたからだろうか、しっかりと角も立つほどになっている。
「生クリーム、獄寺君の指についてるよ」
  ボールを抱えた獄寺の指や手首のあたりに、生クリームが飛び散っている。おおかた、勢いよく掻き混ぜ過ぎたのだろう。その様子がなんとなくエロチックに見えて、綱吉は口の中に溜まった唾をゴクリと飲み込んだ。
  獄寺の手についた生クリームを指で掬うと、綱吉は自分の口へと運んだ。
  ペロリと指先を舐めると、生クリームのこってりとした甘い味が口の中に広がる。
「……甘い」
  低く呟き、獄寺の手からボールと泡立て器を取り上げ、テーブルへ置いた。
「ひっくり返しでもしたら大変だからね」
  この間の掃除は本当に大変だった。ドロドロになったホットケーキミックスがキッチンのあちこちに飛び散ってて、二人で片づけたものの、翌日もまだ、ところどころ汚れの拭き取れていない箇所があったのだから。
「十代目……」
  獄寺が着ているパジャマのボタンを綱吉は、素早く外していく。全部外してしまうと今度は袖を引っ張り、どうにかして脱がせてしまう。キッチンの床に獄寺のパジャマを放り投げると、綱吉は床に跪いた。
「じっとしてて」
  そう言って綱吉は、獄寺のエプロンの裾をわずかに持ち上げた。それから獄寺の手を取り、エプロンの裾を握らせる。
「ズボンも邪魔だから、脱がしてあげるよ」
  パジャマのズボンに手をかけると綱吉は、下着ごと一気に引きずり下ろした。獄寺の下肢が露わになり、持ち上げたエプロンの向こうに陰毛と、まだくたりとなった性器が見え隠れしている。
「足、あげて。片足ずつ」
  従順に獄寺は足をあげた。綱吉はパジャマのズボンと下着を獄寺の足から引き抜き、これもキッチンの床に投げ出した。
「ねえ、獄寺君。裸エプロンって知ってる?」
  小さく笑うと綱吉は、目の前のエプロンの中に頭を突っ込んだ。獄寺の股間が目の前にあった。
  いったい何日ぶりだろうかと綱吉は思う。
  獄寺と一緒のベッドで眠ってはいたが、こんなふうに性的な意味で触れることはここしばらくなかった。何もかもすべて、獄寺のケーキ作りに端を発する。
「っ……十代目」
  戸惑うような獄寺の声が、頭の上から聞こえてくる。
  困ればいいんだと綱吉は思った。ここ何日もの間、獄寺がそばにいるのに触れることもままならなかったのだから、その分をまずは取り返したい。たとえ獄寺が嫌がっても、今日は何としてでも……。
  色の淡い性器に指を絡めると、ピクン、と獄寺の腰が逃げかける。片手で竿をやわやわと揉みしだきながら、唇で先端に触れてみる。
「ぁ……」
  押し殺したような吐息が、獄寺の口から洩れた。エプロン越しに聞こえてくる獄寺の吐息や声はいつもより卑猥な感じがして、綱吉は自分の下腹部に熱が籠もってくるのを感じた。



  クチュ、と音を立てて獄寺の性器を吸い上げると、目の前の体が後ずさろうとする。
  獄寺の背後にはテーブルがあった。逃げ場を失えば、獄寺も少しは大人しくなるだろう。先端に舌を絡め、尿道口を舌先でつついたり唾液で濡らしたりした。玉袋を片手でもんでやると、獄寺が啜り泣くような声をあげた。
  獄寺だって、気持ちいいのだ。
  ここのところご無沙汰だったから、きっと綱吉と同じぐらい、興奮しているはずだ。
  尚も執拗に綱吉は、舌を這わせた。竿の側面を唇でやんわりと挟みながら上下すると、浮き上がった血管がピクピクとなるのが感じられた。
  じりじりと後ずさったもののそのうちに獄寺は、テーブルと綱吉との間に挟まれ、逃げることができなくなってしまった。
  ちょうどテーブルに尻を預けるような形で獄寺は綱吉の前に足を開いて立っている。時折、膝がカクカクと震えると、上半身が綱吉のほうへ覆い被さってきそうになったりする。
「ダメ……十代目、ダメ、です……も、立ってられな、ぃ……」
  声を震わせながら獄寺が訴えてくる。綱吉は獄寺の手を取ると、自分の肩に掴まらせた。
「もう少し我慢して、獄寺君」
  獄寺のペニスの先に滲む先走りを指の腹で掬うと、綱吉はそれを後ろの窄まった部分に塗り込めた。
「あ……やっ……」
  よろりと獄寺が足をふらつかせた途端、カタン、と音がした。生クリームのたっぷりとついた泡立て器がテーブルの上でバウンドしたかと思うと、そのまま床に落ちてくる。
「あーあ……」
  小さく呟いて綱吉は、泡立て器に手を伸ばした。床に飛び散った生クリームが、先日の夜のことを思い出させる。
「後で……後で、片づけます」
  掠れる声で獄寺は言った。こんな時でも、泡立て器が床に落ちたことに責任を感じているのだろうか、獄寺は。
「うん。後で、ね」
  言いながら綱吉は、生クリームを指で掬い上げた。それをそのまま、獄寺の後孔になすりつけると、ヌルリとした感触がする。潤滑油とも、先走りとも唾液とも違う感触だ。
「あっ……?」
  眉間に皺を寄せて、獄寺が声をあげた。
「じゅ、ぅ、だ……」
  ズプリと窄まった襞の中に指を潜り込ませると綱吉は、生クリームを内壁に塗りたくっていく。入り口のほうから奥へと順に、少しずつ。
「き…もち、悪ぃ……」
  奥歯を食い締めて、獄寺が喉の奥で低く唸る。
「気持ち悪い? その割に獄寺君の中、締めつけてくるんだけど」
  そう言って綱吉は、指を大きく動かした。その合間に前を口で扱いてやると、獄寺の足は面白いほどにカクカクと震えて、覚束なげになった。
  それからゆっくりと指を引きずり出すと、微かにクチュ、と音がした。
「……っ」
  綱吉の肩にしがみついていた獄寺は、腕にも膝にも力が入らないのか、体勢を崩し、ズルズルと床に座り込んでしまう。
  唇を震わせ、息を荒げている獄寺を見ていると、可愛らしくてたまらなくなってくる。
「もう、やめる?」
  尋ねると、恥ずかしそうにしながらも獄寺は首を横に振った。
「最後までしてください、十代目」
  目元に赤みがさして、それがやけに綺麗に見える。思わず綱吉は、唇を寄せていた。
  獄寺の目尻に唇を寄せ、チュ、チュ、と音を立てながらキスをする。まぶたや鼻の先、頬、唇。至る所にキスをして、その合間にも獄寺の後ろに手を回し、生クリームの残る窄まりを指でグニグニと掻き混ぜた。
「ん……ぁ」
  いつもと違う感触に、獄寺も気づいているのだろうか。
  時折、指を抜いては生クリームを掬い取り、後ろに足してやった。ヌルヌルとした部分が増えるに従って、獄寺の中は綱吉の指をきゅうきゅうと締めつけてくる。
「後ろばっかりじゃ寂しいから、前にもつけてあげるよ」
  もう一方の手で生クリームを掬い取った綱吉は、獄寺の乳首にそれを塗りつけた。
「あっ……ぁ……」
  クリームを塗り込めながら、指の腹でやんわりと乳首を押し潰してやる。獄寺の内壁が連動して、綱吉の指をきつく締めつける。
「やっ……」
「嫌? 最後までするんだろ? それとも、やめるの?」
  尋ねながら綱吉は、さらにもう一方の乳首に生クリームをなすりつける。今度は顔を寄せて、生クリームでトッピングされた乳首を舌でねぶった。
「い、や……」
  首を左右に振って獄寺が声をあげると、それにあわせて内壁が収縮する。綱吉の指を締めつけ、奥へ飲み込もうと蠕動しているようにも思えてくる。
  綱吉はかぷりと乳首に歯を立てると、生クリームごと突起を吸い上げる。恥ずかしいほど大きな音を立てて乳首に吸いついていると、躊躇いがちに獄寺の指が、綱吉の髪に差し込まれた。



(2013.9.10)
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