純情な恋人 3

  勢いよく布団を剥ぎ取ると綱吉は、畳の上に放り出した。
  掛け布団があったりするから獄寺は恥ずかしがるのだ。だったら、手の届かないところへやってしまえばいい。
「わ、ちょ、十代目……!」
  慌てて獄寺は手を伸ばした。布団を引き寄せようと身を起こして四つん這いになった獄寺の腰を掴むと、尾てい骨のあたりに唇を寄せる。
  チュ、と音を立ててくちづけると、獄寺の腰がふるりと揺れた。
「このまま動かないで」
  舌先で尾てい骨のあたりからゆっくりと尻の狭間をチロチロと舐めていく。
「だっ……だめっスよ、十代目。汚いから……!」
  綱吉の腕から逃れようとする獄寺の腰にしっかりと腕を回すと綱吉は、顔を上げた。
「さっき温泉につかってきたから汚くなんてないだろ」
  言いながら、さっき取ってきたジェルを片手で引き寄せる。歯でキャップをくわえると器用に外し、獄寺の尻にたらりとジェルを垂らしてやる。
「ひゃっ!」
  驚いたように獄寺の体がわずかに跳ねた。
「ごめん。冷たかったね」
  白い肌に垂らされた透明なジェルが、なんとなくいやらしく見える。綱吉は、獄寺の尻に垂らしたジェルを指で掬って奥まったところへ塗りつけた。
「気持ち悪いことない?」
「……はい」
  気持ち悪いというよりも、冷たさが気になるのではないだろうか。それも、すぐにどうでもよくなってしまうだろうが。
  ニチャニチャと音を立ててジェルを獄寺の肌に塗り込めていく。窄まった部分にも塗りつけながら時折、襞の隙間へと指を押し込んでみる。
  固いのは、仕方がない。獄寺はこういった性的な行為は初めてで、何よりも自分たちは男同士なのだ。緊張するなと言うほうがどうかしている。
  獄寺の腰を抱え込んでいた腕を外すと綱吉は、前のほうへと手を回した。
「ぁ……」
  ビク、と獄寺の体が揺れる。
  獄寺の前は、ゆるやかに勃ち上がりだしていた。
「あ……気持ちいいんだ、獄寺君」
  思わず呟くと、獄寺は振り返って困ったような眼差しで綱吉を見つめる。
「あの、恥ずかしいんで……あんまりそういうことは言わないでください、十代目」
  獄寺の言葉に綱吉は頷いた。
  困った顔を可愛いと思ったのは、獄寺にも内緒のことだ。



  ジェルのぬめる感触に、次第に獄寺の体が熱くなっていく。白い肌がうっすらと色づいて、淡いピンク色になっているのを目にすると、綱吉は自分の体も同じように熱くなっていくのを感じた。
「獄寺君は色が白いから、こういう時、肌が綺麗に見えるね」
  言いながら指で窄まった部分を押し開く。そっと人差し指を押し込むと、獄寺が喉の奥で微かに呻いた。
「嫌だったら言うんだよ」
  おそらく獄寺は、言わないだろう。これまでは散々、綱吉を焦らしてきた。だが、今夜ばかりは話が違う。綱吉のものになると、はっきりと宣言したのだから、拒むようなことは決してないだろう。
「……嫌じゃありません」
  掠れた声で、獄寺が返してくる。
「じゃあ、こんなふうにしても?」
  綱吉は、獄寺の中に突き立てた指で内壁をぐるりと撫でた。緩やかに中を擦りながらもう一本、今度は中指を突き立て、押し込んでいく。
「あっ、あ……」
  グチュ、と湿った音がした。
「力、抜いて」
  前に回した手で性器を弄ると、固く張り詰めていた先端にいつの間にかつぷりと先走りが滲み出している。
「やっ……あ……」
  もどかしそうに獄寺は腰を揺らした。
  気持ちよくなってくれればいいと、綱吉は思う。初めてだから余計に、獄寺には痛い思いや辛い思いはさせたくない。
  尻を綱吉のほうへと突き出した格好のまま、獄寺は上体を布団に沈めた。シーツの上をまさぐりながら、ゆっくりと指に力を入れ、握りしめていく。
「も、挿れたい……獄寺君、挿れてもいい?」
  獄寺の中を指で掻き混ぜながら綱吉は、上擦った声で尋ねかけた。
  獄寺の様子を見ていると、それだけで体の熱がどんどん上昇していくようだ。これまでに聞いたことのないような声と、初めて目にする痴態につられて、綱吉自身の吐息も乱れていく。
「ココに……」
  と、獄寺の中を優しく擦り上げると、綱吉は尻の丸みにくちづける。
「オレのを、挿れるよ」
  そう宣言して綱吉は、指を引き抜いた。ズルズルと引きずり出そうとすると、獄寺の中が綱吉の指を逃がさないように締めつける。
「ん、ぁ……」
  クチュン、と音を立てて指を引き抜くと綱吉は、獄寺の尻に自分の性器をなすりつけた。
  これまで何度も、夢の中で獄寺を犯してきた。獄寺が自分からすすんで体を開いてくれるようになるまではと自制していたが、その苦行のような日々はもう過去のことになるのだ。
  獄寺の窄まった部分を、綱吉は自らの性器の先で軽くつついた。先走りが滲んで、ジェルを垂らした時よりも粘着質なニチャニチャという音が立つ。
「じゅ、代目……」
  振り返った獄寺が、唇の動きだけで「挿れてください」と懇願する。
  綱吉はゆっくりと腰を押し進め、獄寺の中を満たしていく。
「あぁ……」
  喉を震わせ、獄寺が声を上げた。



  四つん這いだった獄寺は、いつしか布団の上にへたり込んでいた。
  そのまま体を繋げると綱吉は、ゆっくりと腰を動かす。
「あ……熱い……十代目の、熱くて……」
  掠れる声で獄寺が告げる。
「うん。オレも……獄寺君の中が熱くて、狭くて、このままイッちゃいそう」
  うわごとのように呟くと、獄寺の締めつける力がいっそう強まる。
「だめ……です、十代目。もっと、ゆっくり……して、くださ……っ!」
  獄寺が最後まで言い終えるよりも先に綱吉はぐい、と腰を突き上げた。獄寺の中を大きく擦り上げると、締めつけはますます強くなる。
「深いところまで突いてあげるから、もっと声、出して」
  ほっそりとした腰を掴んで引き寄せると綱吉は、大きく竿を出し入れし始める。
  ガツガツと腰骨があたるほどきつく突き上げると、獄寺はあられもない声をあげてシーツの上で身を捩った。
  淡い緋色がかった肌の上に汗の粒が浮かぶと、それがよりエロチックに見えて、綱吉の突き上げはいっそう激しくなった。
「ああ……っ、や……」
  片方の肩を浮かして獄寺は、自分の性器へと手を伸ばしていく。
  それに気づいた綱吉は獄寺の体をぐるりと反転させると仰向けにして、足を大きく割り開いた。
「見ててあげるから、自分でして、獄寺君」
  ハッと息を飲んだものの獄寺は、躊躇いがちに自分の性器へと手を伸ばした。
  竿を片手で掴むとそのまま上下させ、扱いてみせる。先走りがたらりと零れ落ち、竿を伝い下りていく。
「……十代目も、動いてください」
  恥ずかしいのだろう、伏し目がちに獄寺が訴えてくる。
  綱吉は、今度はゆっくりと腰を動かした。獄寺が焦れて腰を揺らすぐらい丁寧に中を擦り上げ、奥を突き上げた。
  そのうちに二人の動きが同調して、少しずつスピードを増していく。
  結合部から湿った音が響いても、もう恥ずかしいとは思わなかった。
  獄寺の中が収縮して綱吉の性器を飲み込もうとする動きにあわせて大きく奥を突き上げると、獄寺は掠れた声を上げて果てた。白濁したものが先端から放たれ、獄寺自身の腹や胸のあたりまで飛び散ると、綱吉はさらに力強く奥を穿ち始めた。
「や、ぅ……」
  身を捩って逃げを打とうとする獄寺の体が布団からはみ出し、畳の上に転がり出る。それでも綱吉は突き上げるのをやめなかった。
「あっ、あ……十代目……十代目!」
  片足を綱吉の腰に絡めて獄寺が名前を呼ぶ。綱吉は身を屈めて獄寺の唇を奪った。
「んっ、ん……ふ……」
  クチュ、と唇の間で音がして、獄寺の口から唾液がたらりと零れる。
  ひときわ大きく綱吉は獄寺の中を突き上げると、中に性を放った。この男は自分のものだという誇らしい気持ちと、大切にしたいと思う気持ち、それから自分は獄寺のものになったのだという、ある種の達成感のようなものがこみ上げてきて、綱吉は獄寺の体をぎゅっと抱きしめた。
「獄寺君……」
  掠れた声で名前を呼ぶと、獄寺の手がのろのろと綱吉の髪を撫でた。
「十代目、愛してます」
「ん。オレも……」
  呟きながら綱吉は、強い眠気を感じていた。目を閉じると、そのまま眠ってしまいそうだ。
  髪を梳く獄寺の手が気持ちよくて、綱吉は満ち足りた笑みを浮かべたまま寝入ってしまった。



  明け方、二人して部屋についている露天風呂に二人でつかった。
  汗や精液でドロドロになった体を洗い流し、朝焼けの空を眺めた。
「今度は、皆で一緒に来ましょうね、十代目」
  ポソリと獄寺が言った。
「あー……二人きりでなくてもいいんだ?」
  ちらりと獄寺の顔を覗き込むと、彼は照れたように目元をほんのりと緋色に染めていた。
「二人きりだと、ちょっと、困る……んです」
  本当に困ったような表情をして獄寺が言うものだから、そしてその表情があまりにも可愛らしいものだったから、綱吉は獄寺の体を抱きしめて、唇に軽くキスをした。
「うん、わかった。今度は皆で来ようね」
  獄寺の体からたちのぼる石けんの微かなにおいに、綱吉はこれまでにないほどの幸せを感じていた。



(2013.9.23)
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