綱吉に手を引かれて、獄寺は自分の部屋へと戻った。
片付けられた獄寺の部屋は過日の火事による焦げ臭さも抜け、すっかり以前と同じ状態に戻っている。
「あれは、何だったんでしょう」
獄寺の言葉に綱吉は、繋いだ手をぎゅっと握りしめた。
「何だっていいよ。あれが君に危害を加えないのなら、俺はそれで充分だ」
その言葉の意味を知りたいと、獄寺は不意に思った。
ぐい、と獄寺は綱吉の手を引っ張った。よろめいた綱吉が獄寺にぶつかり、二人はもつれるようにしてベッドに倒れ込んだ。
「そんなんでいいんですか、十代目」
すかさず綱吉の腹の上に乗り上げて、獄寺は尋ねる。
本当にそれでいいのだろうか。
「……いいよ。獄寺君が無事なら」
と、綱吉は悪戯っぽく笑みを浮かべた。
何故、怒らないのだろうかと獄寺は思う。自分のどす黒い感情のせいで、あの黒い獣は現実のものと化した。それだけではなく、ボンゴレの外部施設や獄寺の部屋、そして綱吉の部屋までも火事にならしめようとしたというのに、お咎めなしというのは居たたまれない。
それではボスとしての威厳を保つことができないではないか。他の守護者や部下たちに、示しがつかないのではないだろうか。
獄寺は唇を噛み締め、ベッドに押さえ込んだ綱吉を見おろした。
「それでは、俺の右腕としての立場があまりにも……」
言いかけた獄寺の背に手を回し、綱吉はぐい、と引き寄せる。
不安そうに獄寺は、綱吉の瞳を覗き込んだ。薄茶の瞳は真っ直ぐに獄寺を見つめている。本当にそんなことでいいのだろうか。獄寺がしでかした不始末を、なかったことにしてしまうのだろうか、綱吉は。
「そんなこと」
綱吉は何でもないことのように笑った。
この人にとって、獄寺がしでかしたことはどうでもいいことなのだろうか? 獄寺は剣呑そうに綱吉を見つめ返す。優しげな表情の下に、綱吉はいったいどんな表情を隠しているのだろう。
「あなたにとってはそんなことかもしれませんが、俺にとっては大切なことです」
ムッとした獄寺は、冷たくそう告げると綱吉のネクタイに手をかけた。
獄寺の白い指が、綱吉のネクタイを解き、シャツのボタンを順番に外していく。綱吉はベッドの上に仰向けに寝転がったまま、獄寺のしていることを楽しそうに眺めている。
「怒ると、ひとつのことしか見えなくなることがあるよね、獄寺君は」
と、からかうように綱吉が言った。
途端に、獄寺の手が綱吉のシャツをぐい、と左右に大きく開いた。
「いけませんか?」
どこか拗ねたような口調で獄寺が尋ねると、綱吉は「いいや」と返す。
「俺は、そういう獄寺君も好きだよ」
そう言って上体をわずかに起こした綱吉は、獄寺の唇をさっと奪った。素早く触れあった唇から、獄寺の体に熱が集まり始める。
「あ……」
唇を手で覆った獄寺は呆然としている。その隙に綱吉は、獄寺のパジャマのボタンへと手を伸ばした。
「ちゃんと聞いてくれてた、獄寺君?」
尋ねられ、獄寺は戸惑いながらも小さく頷いた。
従順な様子の獄寺は、顔だけでなく耳たぶまでも真っ赤にして、綱吉を見つめている。
「獄寺君は? 言って?」
綱吉はもう一度、唇を合わせた。今度はゆっくりと近づき、深く唇を合わせていく。唇の隙間に舌を差し込み、チロチロと舐めると獄寺の唇がうっすらと開く。誘い込むようなわずかな空間に綱吉は舌を差し込み、獄寺の歯列を割って口の中に潜り込ませる。
ジュッ、と音を立てて獄寺の舌ごと唾液を啜る。綱吉が薄目を開けると、獄寺は顔を真っ赤にしていた。必死になって舌を動かして、綱吉の誘いに応じようとしている。
わずかに綱吉が身を引くと、獄寺は追い縋るようにして舌をさらに深く絡めてきた。
「ん、ぅ……」
鼻にかかった獄寺の声が、しんとした部屋に響いた。
綱吉の上に乗り上げたまま、獄寺は何度もキスを交わした。
キスの合間に優しい手が、獄寺の体に触れてくる。焦げ跡の残るパジャマを脱がされ、肌をなぞる手に獄寺は鳥肌が立った。
「ぁ……」
ゾクリ、と体を震わせると、獄寺の下で綱吉がニヤニヤと笑っている。人の悪い笑みだと獄寺は思わずにはいられない。
拗ねたように唇を尖らせ、綱吉の裸の肩に手を這わす。
「ねえ、獄寺君。言わないんだ?」
からかわれているのだということは、何となく獄寺にもわかった。
言ってと告げられ、獄寺は黙りこんでしまう。恥ずかしすぎて、獄寺の心臓はバクバクと鳴っていた。言えませんとか細い声で返した途端、肌を這い回っていた手がきゅっと乳首を摘みあげた。
咄嗟に獄寺は唇を噛み締め、口の端から洩れかけた悲鳴を喉の奥へと飲み込んだ。
「言わなきゃ、ずっとこのままだよ?」
真顔で告げられ、獄寺はぎっと綱吉を睨み返す。
「ズルい…です、あなたは」
この人は、狡くて優しくて、冷たい。獄寺は思った。こんなふうにして誤魔化してしまう綱吉が憎たらしくてたまらない。その一方で、この人のことが好きで好きでたまらない自分がいる。
「ねえ、どうする?」
尋ねかけてくる綱吉は、きゅっ、と乳首を捻った。
「あっ!」
体を駆け上ってくる血液は、今にも沸騰しそうな勢いで獄寺の血管を巡っている。
「や…め……」
はあ、と息をついて獄寺は綱吉を見おろす。
悪戯な指が、獄寺の乳首を執拗にこねくり回している。指の腹で押し潰したり引っ張ったりされ、獄寺の乳首はぷっくらと腫れていた。きゅっと捻られると、痛みの奥のその向こうに、微かな快感が走ることに獄寺は気付いていた。
「言って、獄寺君」
綱吉の望む言葉を口にすれば、自分が負けてしまうような気がした。このままうやむやにして流されてしまってはならないと、獄寺は唇を噛み締めた。尻の下に敷き込んだ綱吉の性器が、硬く張り詰めているのが感じられる。
ぐい、と尻を押しつけると獄寺は、口元に淡い笑みを浮かべた。
「……嫌です」
これしきの抵抗をしたところで、綱吉にとってはたいしたことではないはずだ。
どうせ困ったことになるのは獄寺一人なのだから。
「あなたはズルい」
拗ねたように獄寺は繰り返した。
好きだと一言、言ってしまえばいいだけの話だ。しかしそうすることで獄寺は、自分の守護者としてのプライドを失ってしまうのではないかと怖れていた。相手が綱吉ならなおさらだ。自分は、綱吉に守ってもらわなければならないような柔な存在ではない。尻の下のペニスを煽るようにして、体を動かした。
「ズルくたって構わない。君を手に入れるためなら、俺は何でもするかもしれないよ」
薄茶の瞳に真っ直ぐ見据えられ、獄寺はドギマギする。
肌を這う綱吉の手がパジャマズボンのウエストにかかり、下着ごとずり下ろそうとした。 「やめてください」
パシッと綱吉の手を叩くと、振り払う。
「今回のことだって、普段、俺を言いくるめるのと同じようにするつもりなんでしょうが……そう簡単にはさせませんよ、十代目」
綱吉の言葉に弱い自分を自覚しているだけに、獄寺はせめて上っ面だけでもつっぱねておきたかった。
獄寺が軽く綱吉を睨み付けると、やんわりと笑って返された。
払いのけられた手は遠慮することもせずに獄寺の股間へと伸ばされる。パジャマズボンの上からぐい、と性器を鷲掴みにされ、獄寺は息を飲んだ。
「どうやって俺を止めるの?」
見せて欲しいなと綱吉は言った。布地の上を手が滑り、獄寺のペニスの形を確かめるかのようにスライドする。
緩慢な指先の動きに、獄寺の尻が浮き上がりかけた。
「だってほら、もうこんなに硬くなってるのに、どうやって俺を止めるって言うの?」
意地悪く綱吉が尋ねるのに、獄寺は唇を噛み締めた。
布の上から何度か扱かれただけで、獄寺の性器はすっかり硬くなっている。執拗に先端のあたりを指でなぞられ、そのうちに先走りが染み出してきた。下着だけでなくパジャマにまではっきりと、染みが浮き出ている。
「ん……」
眉間に皺を寄せて、獄寺は息を吐き出した。
綱吉はそんな獄寺の様子をじっと見つめている。
「中はもっとドロドロになってそうだよ」
そう言うと綱吉はウエストのゴムをぐい、と引っ張り、下着ごとわずかに下にずらした。下着からはみ出したペニスの先っちょがプルン、と震えた。綱吉の手は躊躇うことなく獄寺の性器へと伸ばされ、直接、竿の部分を握りしめる。
先ほどから先走りでヌルヌルになっている先端が熱くて、獄寺は首を左右に何度も振った。
「う、ぁ……」
足を閉じようとしたものの、跨った綱吉の体が邪魔で足を閉じることができない。後ろに逃げようとすると背後を立て膝にした綱吉の太股に遮られ、獄寺の逃げ場はどこにもなかった。
無意識にしているのだろうか、獄寺は尻をぐいぐいと綱吉の下腹部に押しつけながら甘い声をあげている。どれだけ唇を強く噛み締めようが、綱吉の手に翻弄され、勝手に声が洩れてしまうのだ。 綱吉の手に包まれた竿が、クチュクチュと湿った音を立てている。
溢れ出した先走りがぷくりと先端の割れ目に盛り上がるとは、綱吉の指がそれを掬い取っては尿道口に塗り込める。爪がぐい、と割れ目にねじ込まれ、獄寺は腰を大きく揺らした。
「痛っ……」
両膝で綱吉の腹のあたりを締め付けて、獄寺は口を開けた。
「あ……あ、あ……」
うつむいた獄寺は、綱吉の腹に手をついて体を支えた。だらしなく開いた口から涎がたらりと零れ落ちる。
綱吉の手が根本から上へと向かって獄寺の竿を扱くと、クチクチと音がした。恥ずかしくて見ていられなかった。それを知ってか知らずしてか、綱吉の手は獄寺を翻弄する。カリの部分を指の腹でヒリヒリするまで擦られた。気持ちよかったが、そのうちに触られることが辛くなってきた。
「も、やめてください」
啜り泣きながら獄寺が訴えると、綱吉の手が竿全体を扱き始めた。
「や……十代目、やめてください」
獄寺は唇を噛み締めた。
綱吉の手が上下するのに合わせて、湿った音が部屋に響いた。それと同時にドクン、ドクンと鼓動が獄寺の頭の中に響き渡り、それ以外の音は何も聞こえなくなった。
ぎゅっと目を閉じると、余計に鼓動の音が大きく聞こえるような感じがする。
体の中を流れる血流は、炎の中で踊り狂う黒い獣のように激しく血管を駆け巡っている。 「ん、あぁ……」
不意に、ドクン、と大きく鼓動が脈打った。
腹にかかった濡れた感触に、獄寺はノロノロと目を開けた。
綱吉の手だけでなく、獄寺の陰毛や下着、パジャマを濡らしているのは白濁したものだ。綱吉の衣服にまで飛んでいる。
「すっ……すみません、十代目」
言いかけた獄寺の唇を、綱吉の指が優しく押さえた。
「謝らない」
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