刹那の想い〜SANDCASTLE〜1



  初めて体を繋げたいと思った。
  お互い、自然とそういう気分になって、相手に触れたいと思った。
  相手に何もかもを預けても構わないという気持ちになったのは、これが初めてではなかった。しかし自分が心の内に持っている何もかもを相手に与えても構わないと思ったのは、これが最初で最後かもしれない。
  蒸し暑く、静かなアラバスタの夜だった。



  どこかで虫の声がしている。
  砂漠の夜は寒いという話だったが、今夜はそう寒くはないようだ。細かい熱砂混じりの風が、ベランダから部屋の中へと忍び込んできては床を白くしてしまうので、王宮は常に砂っぽかった。油断しているとすぐに砂が口や鼻に入り込み、目がしかしかすることもあった。
  宴会を抜け出したゾロとサンジは、こっそりと部屋に戻った。
  廊下には宴会場の騒がしい声が微かに響いてきているが、部屋に入ると急にしんと静かになった。
  二人でいることが嬉しくて、それなのにどこか気恥ずかしい感じがするのは、きっとまだ唇しか許したことがないからだ。
  ゾロは俯き加減に部屋を横切っていく。耳たぶのあたりから頬にかけてが酷く熱い。
  ちらりとすぐ隣にいるサンジの様子を窺うと、暗がりの中で彼は、いつもとかわらぬ穏やかな表情でじっとゾロのほうを見ていた。
「……落ち着きのないやつだ」
  不意に、からかうかのようにサンジがぽそりと言った。
「普段の落ち着き払った様子からは想像できねぇ」
  くくっ、と喉を鳴らしてサンジが笑うのに、ゾロはむっとして顔をあげる。
「らしくねぇな」
  そう言うとサンジは、そっとゾロの頬に指先を滑らせた。親指の腹でそっと頬の柔らかいところをなぞると、左耳の三連ピアスを軽く揺らす。チリ、とピアスが無機質な音を立てた。
  サンジが顔を寄せてくると、ゾロは尻込みをして後方へ下がろうとした。それを遮るかのように、サンジは素早くゾロの腰を引き寄せる。唇と唇が合わさり、ゾロは咄嗟に口をきつく閉じていた。
  キスはまだ、恥ずかしかった。



  くちゅ、と音がした。
  サンジの唇だ。
  舌先で何度かゾロの唇をこじ開けようとするが、ゾロはなかなか唇を開こうとはしない。そのうちに焦れたサンジが唇をはなし、指先でゾロの唇に触れてきた。
「口、開けろよ。舌を出せ」
  言われるがままにゾロは唇をうっすらとひらくと、申し訳程度に舌をつき出した。
  舌先をちょん、とサンジの舌が掠めていく。
  キスは、もう何度もしている。このグランドラインに入ってから、仲間の目を盗んではこっそりと、それこそ飽きるぐらい回数を重ねてきた。とはいえ、いまだに奥手なゾロは、深く唇を合わせることが気恥ずかしいようだ。わざと音を立てて口づけを繰り返しながら、サンジはゆっくりとベッドのほうへと移動していく。
  簡易式のベッドが並ぶ大部屋は、こざっぱりとしておりどちらかというと殺風景に見えないでもない。大きく開いたバルコニーからは砂漠の景色が見えている。この部屋からは町の景色はほとんど見えない。傷ついた海賊たちがゆっくりと休養をとることができるようにとの計らいで、王宮の中心部より少し離れた人気の少ない部屋を宛われたためだ。
  サンジが器用にゾロの体をベッドのほうへと押しやった。
  とすん、とゾロがベッドに尻餅をついた。ギシ、とベッドが軋み、サンジが覆い被さっていく。
  両手でサンジの身体を押し返し、わずかに拒もうとしたゾロの唇をしっとりと塞ぐと、サンジは低く耳元で囁いた。
「──…逃げるなよ」



  ゾロは恥ずかしさからか、力一杯サンジの身体を引き寄せていた。そうすれば、サンジの顔を見ずともすむ。暗がりで表情まではっきりと見えるわけではなかったが、それでもどことなく気恥ずかしさが残ってしまう。何よりも、夜目の効くゾロには見えてしまうのだ、サンジの表情が。自分が見えるのだから、相手に見えないとも限らない。だからゾロはいつまでたっても、暗がりでキスをするだけでも恥ずかしく感じるのだ。
  そんなゾロに気がつかないのか、サンジは何度もキスを繰り返しながら、ゾロのチュニックをたぐり上げていく。
  しっとりと濡れた肌からは汗の臭いと雄のにおいが立ち上っていた。
  ゾロの体中の汗腺から汗がドッと噴き出してくる。体温がぐん、と上がったような気がして、ゾロは汗で滑る手に力を込め、サンジにしがみついた。
  女ではない男の自分が、同じ男のサンジに抱かれるという実感に目の前がくらくらする。これから自分は男に抱かれるのだと思うとそれだけで体中に震えが走った。どんな敵を前にしても恐怖を感じたことのないゾロは、今、明らかに怯えていた。
「んっ……っ……」
  サンジの手が器用に、ゾロの着ていたチュニックを脱がしにかかる。衣服が床に落ち、パサリと音がした。
「……は……はっ、ぁ……」
  サンジのキスは容赦がなかった。ゾロが逃げ出すことの出来ないようにしっかりと頭を抱え込み、息が上がるまで深く口づける。舌を絡め取り、吸い上げ、唾液を流し込まれると、ゾロの身体はそれだけでカッ、と熱くなる。
  決してそれが嫌なわけではない。
  ただ、慣れていないだけなのだ。
  ゾロはぎっ、と歯を食いしばり、声が洩れないように堪えている。サンジとしては、切迫した喘ぎのひとつやふたつも耳にしたいところなのだが、どうもそううまく事は運ばないようだ。
  キスをしながらゆっくりとサンジは、てのひらでゾロの腹をなでさすった。脇腹から盛り上がりのある胸の傷跡を辿り、乳首へと指を走らせる。つん、と乳首の先をつついてみると、ヒクン、とゾロの身体が蠢いた。
「ん……はっ……」
  筋肉質な肢体がしなやかな弧を描く。
  ふくらみのない胸に唇を押し当て、乳輪から乳首のあたりを執拗に舐め、吸い上げると、太腿にあたっていたゾロの股間が高ぶってくるのが感じられた。
「勃ってきたな」
  わざと声に出して呟いたサンジはゆっくりと、手を下腹部のほうへとずらしていく。慌ててゾロの手が、サンジの手を止めようとする。がしりと捕まれた手にサンジは苦笑しつつ、唇で肌を滑り降りると臍のあたりをチロチロと舐めはじめた。
「……っ……んぁ……」
  ゾロの手が、素早くサンジの頭を押さえ込む。
「や…め……」
  身体をずらそうとゾロが動いたのを利用して、サンジはゾロの身体をごろんとうつぶせに返した。
「こんなチャンス、二度とないかもしれないんだぞ? やめられるわけがねぇだろう」
  そう言ってサンジは、ゾロの腰に口づける。
  しっとりとした肌を吸うと、痛いのか、ゾロの腰が動いた。逃げようとするのをさらに押さえ込み、きつく吸い上げた。
  それから、ゆっくりと双丘をもみしだいた。



  尻の狭間を舌で愛撫すると、ゾロは声を堪えて腰をひこうとした。
「逃げるな」
  少しきつい口調でそうサンジが告げると、諦めたのか、ゾロはじっとおとなしくなった。サンジはゆっくりと時間をかけてゾロの尻を割り裂き、その奥の窄まりを探り当てた。いつの間にかベッドの上で四つん這いの格好を取らされていたゾロはカクカクとなる膝で必死に身体を支えている。サンジが奥の窄まりに指先で触れた途端、ゾロは猫のように背を丸めてサンジの指を拒もうとした。
「はっ……ぁ……」
  押し殺したゾロの吐息は、掠れた悲鳴のように聞こえないでもない。
「おいおい。俺に抱かれてもいいと思ったんじゃねぇのかよ」
  腹立たしげにサンジが言うのにも、ゾロは無言のまま何も返さない。
「今さら、嫌だとは言わさねぇぜ」
  そう言い捨てるとサンジは乱暴にゾロの尻を両手で掴み、後孔に舌を突き入れた。






to be continued
(H16.8.19)



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