刹那の想い〜SANDCASTLE〜2



  くちゅり、くちゅり、と湿った音が響いている。
  恥ずかしさでゾロの頭はどうにかなってしまいそうだった。
  宴会がまだ続いているとはいえ、いつ何時、誰かがこの部屋に戻ってこないとも限らない。こんなところに踏み込んでこられたら、それこそ仲間に対してどんな顔をすればいいのだろうか。
  ぎり、と唇の端を噛み締めると、ゾロはベッドの上に這いつくばった自分の身体を起こそうとする。
「ん……く、ぁ……」
  内壁を抉るようにして差し込まれるサンジの舌が、うにうにと動き回っている。
「……はっ、はっ……」
  腰を高く突き出すような格好のまま胸をペタリとシーツに押しつけ、ゾロはサンジのほうを見遣った。
「ぁ……ふ……」
  口をパクパクさせてはいるが、なかなか声にならない。もどかしさのあまりゾロは、手をさしのべてサンジの目を引こうとした。
「ん? どうした?」
  ずるりとサンジの舌が引き抜かれ、ゾロの指にサンジの白い指が絡められた。
「は……」
  荒い息を宥めるようにサンジの手がゾロの頭をひきよせ、緑色の短髪に指を差し込み、ぐしゃぐしゃとなでる。そうしながらサンジは、ゾロの額や鼻先に軽く口づけていく。
  サンジの足の間に挟まれて、ゾロはキスを受けた。髪や頬にやさしく寄せられるサンジの唇はしっとりとして滑らかで、無骨なゾロのかさついた唇などとは比べることができないほどだ。こうやっていつまでも触れていて欲しいとゾロは、そんなふうに思った。



  股間にのばされたサンジの手がゾロのペニスを握りこんでいた。
  くちゅくちゅという湿った音が、やけに耳に大きく響いてくる。
  時折、思い出したようにサンジの舌や唇がゾロの胸の飾りに悪戯をしかけてくる。乳首をカプリと甘噛みされ、ついで鎖骨のあたりから首筋にかけてを舐め上げられた。
「んっっ……」
  サンジに触れられるたびに、ゾロの身体のそこここが反応する。
  向き合って互いの身体を抱きしめ合っていると、ゾロの目の端でサンジの指が踊るのが見えた。サンジの指は、ゾロのペニスの先端を擦り上げている。亀頭の外郭を親指の腹でぐるりとなぞりながら、中心へと向かって少しずつ輪郭のラインを縮めてくる。
「ぁ……あぅ……」
  焦らすようにサンジの指が、割れ目の縁をぐるりとなぞる。
  じんわりと滲み出てくるのは白濁した液で、サンジはそれを指に掬い取るとにちゃにちゃと音を立てながらゾロの口元へと持っていった。
「ほら、見ろよ。こんなに粘っこいのが出てるぜ」
  トロリと指の先で糸を引くものから、ゾロはさっと目を逸らした。頬が熱い。いくら暗がりとはいえ、見ていられなかった。月明かりに反射して微かに光るのは、間違いなく自分の先走りなのだ。
「見えるか?」
  確かめるように、サンジが問う。
「ぅ……」
  さらに顔を逸らそうとゾロが身体を動かした途端、サンジはゾロの口の中に指を突っ込んだ。唇を割って侵入した指は我が物顔でぐいぐいとゾロの口腔内を引っ掻き回す。青臭く、苦い味がゾロの口の中に広がった。
「ぐ……んっ……」
  いつの間にかサンジの手が、ゾロの頭を押さえつけていた。頭を動かすことが出来ないゾロは、サンジのなすがまま、自らの精液を喉の奥に飲み下さなければならなかった。



  時折、宴会場の笑い声が聞こえてくる。廊下を通り過ぎる兵士の気配や女官のボソボソと喋る声を感じると、ゾロは途端に唇を噛み締め、体中の筋肉を緊張させた。それが幾度となく続くと、さすがにサンジも苛々を募らせてくる。最後にゾロが人の声にビクンと身体を緊張させた瞬間に、とうとう苛々の波が最高潮に達してしまった。
「廊下が気になるか?」
  やや呆れたような声色でそう尋ねると、ゾロにベッドの柵を掴むように命じる。
「しっかり掴まってろよ」
  そう言うが早いか、サンジはゾロのペニスを口に含み、唇を窄めて扱きはじめた。
「あ…ぅ……はっ……」
  サンジの手がごそごそと動き、ゾロの膝裏を掴んで立て膝の姿勢を取らせる。大きく開かされた股の間で、サンジの頭が揺れているのがゾロの目に否応なく飛び込んできた。金髪の間から見えるうなじは闇の中で青白く浮き上がり、はっとするほど艶めかしい。
「んっ、ん……ぅ……」
  ベッドの柵を握る手に、力が入ってしまう。筋が浮き上がるほど強く柵を握りしめていると、下腹の奥からむずむずとした感覚がこみ上げてくる。立て膝にした足を動かすと、サンジの口がゾロのペニスをすっぽりと飲み込んでしまった。先端が生暖かくて圧迫されているような感じがする。気持ちいいのは、おそらく先端がサンジの喉の奥にあたっているからだろう。
「もういい……もういいから……」
  うわごとのように繰り返し、ゾロは足をさらに大きく開いた。
  サンジの肩に片足を乗っけると、後孔に指を突き立てられた。水仕事で脂分のなくなった乾いた指が、内壁を圧迫するように潜り込んでくる。
「は……ぁぅぅ……」
  ゾロが喉を鳴らした瞬間、サンジの手が太腿の裏側をするりと撫でる。ちゅぷ、と音を立てながらサンジは、ゾロのペニスを口で扱いている。先走りの液が溢れ出し、今にも爆ぜてしまいそうなゾロのペニスを、サンジは玉袋の裏側から根本の皺の隙間から、いたるところを愛しそうに舐め上げていく。
  人が来たらどうするのだという思いはゾロの気がかりだったが、すぐにどうでもよくなってしまった。サンジの舌がいっそう激しくゾロのペニスに絡みつき、吸い上げ、唇に力を込めて大きくしゃぶりだしたからだ。
「あっ、ああぁ……」
  ゾロが体中の筋肉という筋肉を緊張させた瞬間、サンジの指が内壁に食いちぎられそうな勢いで締め付けられた。
「おいおい、本番はまだこれからなんだぞ」
  そう言いながらサンジは、ゆっくりと指を抜き差しする。前立腺のあたりをやわやわと圧迫しながら指を出し入れすると、ゾロの身体が陸に上がった魚のように跳ねた。
  ゆっくりと、ゾロの口から甲高い声が洩れはじめる──



  サンジに抱かれながらゾロは、自分が本当にこうなることを望んでいたのか、胸の内に問いかけていた。
  自分もサンジも男だ。こうなることは、不自然なようにも思われた。同じ船にはナミがいる。ビビだって──もっとも彼女とはここでお別れだろうということが、何とはなしに雰囲気でわかっていたが。とにかく、海に出れば女の数は少ないが、それでもまったくいないというわけでもなかった。何故、男同士で惹かれ合ってしまうのか。ゾロには理解できない。理解できないが、同じ男であるサンジに惹かれる自分がいた。
  この感情が無邪気な子供の好きや嫌いとはまた別の意味合いを持つのだということも、ゾロは理解している。
  それでも。
  それでも、考えてしまうのだ。
  このまま先へ進んでしまってもいいのだろうか。大丈夫なのだろうか。男同士という特異な関係を続けてしまっても構わないのだろうか。何度も何度も自分自身に問いかけては、考え込んでしまう。
  自分たちは、間違ってはいないだろうか──と。






to be continued
(H16.8.27)



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