強がりの君 4

  ベッドの中で上になったり下になったりしながら、しばらくの間、互いを抱きしめていた。
  肌が触れ合った部分は熱くて、そこからまた別の熱が発生しそうな勢いだ。
  主導権は相変わらずサンジにあったが、ウソップはもう、そのことを気にしてはいなかった。
  サンジの体の隅々まで、ウソップは触れた。指先でそっと触れると、サンジの体はビクビクと震える。手のひら全体で肌をなぞり、唇で触れた。チュ、チュ、と音を立てて唇で白い肌に触れると、サンジの体が焦れったそうにもぞもぞと動く。
「早く……」
  掠れた声が愛しくて、ウソップはサンジの腕の付け根の肌をきつく吸い上げた。控え目な所有の印に、サンジはどことなく嬉しそうだ。
「ぃ……」
  小さく顔をしかめながらもサンジは、ウソップのしたいようにさせている。
  まるで自分は、サンジにいいように踊らされているようだとウソップは思う。もともとサンジのほうが年上だし、普段の言動からもこういうことには慣れているような感じがしていた。積極的なサンジに比べると、自分はいつもこういう色恋からは一歩退いてしまう。コンプレックスに思うことがあまりにも多すぎて、どうしたらいいのかわからなくなることがあったのだ。
  しかしそれでも構わないと、今なら思える。
  サンジは、こんな自分を好きだと言ってくれた。
  欲しいと言ってくれたのだ。
  その気持ちに応えるのが男だと、ウソップはようやく気付いたのだ。



  ゆっくりと、サンジの中に入っていく。
  白い肌の中で緋色に色付いた襞の中を、指と舌とでたっぷりと時間をかけて解した後で、ウソップはゆっくり腰を押し進めていった。
  時折、啜り泣くようなサンジの声があがった。そのたびにウソップは動きを止めて、この年上の恋人の顔を覗き込む。心配するなとサンジは言った。少し前まではこういったことに慣れているように見えていたサンジだったが、実のところ、慣れてなどいなかった。男同士のセックスは、さすがのサンジも初めてだったようだ。
「……苦しいか?」
  躊躇いがちにウソップが尋ねると、サンジはムッとした顔をする。
「いいから!」
  負けず嫌いな子どものようにそう言って、密着するウソップの腰を両手で抱えて自分の腰に押しつけようとする。
「おいおい。無理すんなよ、サンジ」
  心配してウソップが言うと、サンジはいっそう不機嫌そうな顔をした。意地になってウソップの腰に両足を回すと、ぎゅっとしがみついてくる。
「早く、全部挿れろ」
  そう言ってサンジが両足に力を入れると、ウソップの腰がさらにぐい、と奥深くへと侵入する。
「うわっ、ちょ……待て待て、サンジ」
  慌ててウソップは、サンジの体を抱きしめる。
「なんだ、やっぱりお前、嫌なのか?」
  眉間に皺を寄せてサンジが尋ねる。怒っているのと、不安なのとが入り交じったような表情だ。
  そうではないと、ウソップはかぶりを振った。
「俺にやらせてくれよ、なあ」
  ウソップはサンジの耳元に、そっと囁き返した。



  白い肌が震えている。
  浅黒い自分の体の下で、必死にしがみついてくる手はほっそりとしているが、それなのに驚くほど力強い。
  汗で、ウソップの手が滑った。
  ポタリ、ポタリと汗が落ちると、サンジは嬉しそうにウソップを見上げる。
「日焼けしてきれいだな」
  掠れた声でそう言ったサンジは、愛しげにウソップの肌に手を這わせる。肩口をなぞり、そのまま背中へと腕を回すと、ぎゅっと抱きしめる。
「もっと動けよ」
  口元にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて、サンジは言った。
  ウソップは困ったようにサンジを見おろして、ゆっくりと腰を揺らし始める。
  グチュグチュと音がするのは、混ざり合った二人の精液の音だ。結合部に塗り込めたサンジの精液と、ウソップの先走りとがひとつになって、いやらしく水音を立てている。
「あ、ぁ……」
  溜息をつくように、サンジが声をあげた。
  ほんの少しだけ開けた窓の隙間から、心地よい風が入り込んでくる。
「もっと……」
  濡れた声で、サンジがねだった。
「もっと、奥まで……」
  両足をウソップの腰に絡みつかせた状態で、サンジは腰を揺らしている。ウソップの先端が奥のほうのいいところに当たるように、息を荒げて全身でしがみついている。
「……痛くないのか?」
  小さくウソップが尋ねる。サンジはさらに強い力でウソップにしがみつき、耳元に口付けた。
「いいから……もっと、中を掻き混ぜろ」
  痛みを堪えているのか、それとも声を堪えているのか、サンジはきつく目閉じ、眉間に皺を寄せている。
  ウソップが強弱をつけて腰を突き上げると、切羽詰まったような声がサンジの口から洩れた。



  結局、サンジの中にウソップは二回、射精した。
  熱い迸りがあたたかな内壁に叩きつけられた瞬間、サンジの体は大きくしなった。汗で白く光る体は魚のようにも見えて、なんとも艶めかしかった。
  行為が終わってもサンジは、ウソップを離そうとしなかった。
  浅黒い肌に四肢を絡め、ニヤニヤと笑っている。
「なあ……その顔……」
  困ったようにウソップがポソリと言うのに、サンジはニヤニヤ笑いを大きくする。
「気にするな」
  嬉しいだけだと、サンジは告げた。
  ようやく体を繋ぐことができて、嬉しいのだとサンジは言う。今までずいぶんと待たされた、とも。
  悪気があってサンジを待たせたわけではない。ただ、ウソップの気持ちが固まるのに時間がかかっただけだ。
「お前、奥手だ奥手だと思ってたけど、なかなかウマいな」
  さらりとサンジに言われて、ウソップは顔をしかめた。
  せっかくいい雰囲気だったのに、サンジの一言でムードが台無しだ。
「あー……ええと……」
  サンジの言葉を誤魔化すかのようにウソップは、ぷいと横を向いた。
  カーテンを揺らして窓の隙間から入り込んでくる風には、潮の香りと爽やかな若葉の香りが混じっていた。



  セックスをすると、何かがかわるのではないかと怖れていた自分がいる。
  正直に言うと、心の奥底では、自分がかわってしまうのではないかとウソップは怖れていた。
  しかしそうはならなかった。
  何もかわらず、航海は続いている。サンジも自分も、何もかわっていない。恋人としての立ち位置も、二人の関係も、そして日常も。
  不思議な感じがした。
  大きな変化がやってくることはなかった。
  自分はいったい何を怖れていたのだろうかと、ウソップは思う。
  積極的すぎるサンジに対して苦手意識を持っていたのは、大人になるということに対して怯えていたからだとばかり思っていた。
  しかし恐いことなど何一つなかった。
  何も、恐がることなどなかったのだ。
  キッチンでは相変わらずサンジが料理をしている。
  天気のいい日には、甲板で魚を釣ったりチョッパーやルフィとふざけ合ったりすればいい。
  サンジのおやつに舌鼓を打ち、腹一杯の飯を平らげる。
  かわらない日常に、ウソップは幸せを感じた。
  そして、かわったこともある。仲間たちがそれぞれに好き勝手なことをしている隙を見計らって、最近のウソップはサンジに近づいていく。背後から抱きしめて、耳元やうなじに唇を素早く押しつけ、離れていく。
  そうすることでウソップはこの上なく幸せを感じる。
  サンジはきっと、喜んでいるはずだ。これまでずっと奥手だった恋人の変化を誰よりも望んでいたのは、サンジのほうなのだから。
  ラウンジから午後のおやつを手にして出てきたサンジへと眩しそうに視線を向けて、ウソップはこっそりと笑みを浮かべた。
  一瞬、年上の恋人と視線が絡み合う。
  二人だけにわかる眼差しを交わすとそれだけで、胸の奥からあたたかいものがこみあげてきて、幸せな気分になる。
  潮の香りをいっぱいに吸い込むとウソップは、おやつを食べるためにルフィに負けじとラウンジに駆け込んでいく。
  背後では、ナミにシフォンケーキを勧めるサンジの声が聞こえている。
  ご機嫌だと、ウソップは思った。



END
(2009.12.15)



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