石像にしがみついたま達したジャーファルは、脱力した身体がズルズルと湯船に沈みそうになるのを感じていた。すぐさまシンドバッドの手がジャーファルの体を背後から支えた。ぐったりとなったジャーファルの身体に腕を回したシンドバッドは、繋がったままの部分を小刻みに動かした。奥のほうの内壁を擦る刺激はしかし、どこかもの足りなく感じられてジャーファルは小さく喘いだ。
「あ、あ……」
あられもな声をあげると、背後のシンドバッドは嬉しそうに腰を揺する。
「気持ちよかったみたいだな」
揶揄うような声が、ジャーファルの耳たぶをくすぐった。
「そんな、こと……」
完全に否定してしまうことはできなかった。シンドバッドの竿が体の中に押し込まれた瞬間、確かに気持ちよかったのだ。身体の中の血が一気に下腹部へと集まってきて、疼くような熱が放たれる、あの解放感と言ったら。
戸惑うように身じろいだジャーファルの中で、まだ張り詰めたままのシンドバッドの竿がまたもやゴリッ、と内壁を擦り上げてきた。
「ヒッ……ん、ん……」
思わずジャーファルの内壁がきゅう、とシンドバッドの竿を締め付ける。
もの欲しそうに蠢き、奥へ、奥へとシンドバッドの切っ先を飲み込もうと蠕動する。その動きを感じてか、シンドバッドは低く笑った。
ジャーファルの耳たぶにかかる男の微かな吐息は甘く、熱い。
男の動きに焦れたようにジャーファルがもぞっ、と腰を揺らすと、その動きに合わせてシンドバッドも同じように腰を抜き差ししてくる。大きく腰を回して竿を引きずり出したかと思うと、時折、勢いよく奥まで貫いてくる。繰り返される翻弄するような激しい動きに、ジャーファルは焦れて甘い声を次から次へとあげ続ける。
「も、やめっ……」
石像にしがみついたジャーファルの指先はすでに真っ白だ。捕まっているだけの力も抜け、何度も指が滑りかけるのを、シンドバッドの手がその上から縫い止めている。
「シン……シン、もう……」
やめてくださいと、そう言いかけるものの、最後にはジャーファルは口を閉ざしてしまう。
この行為を最後まで享受したい、果てにあるものを確かめてみたいと、そうジャーファルは今では思っている。
好いた相手との行為だ。これまで喉から手が出るほどジャーファルが欲っしていた相手との行為は気持ちよくて、少しだけ怖かった。ヤムライハの媚薬に頼らなければならないことは腹立たしかったが、この媚薬のおかげで痛みを感じずにすんでいるというのなら、ありがたいことだとも思う。
「シン……」
愛しい人の名を呼ぶと、限界まで身を捩って背後の男の唇を求める。すぐにシンドバッドはそれに応えてきた。
唇を合わせ、互いの舌を絡めると唾液を啜り合った。男の唾液は甘かった。ジュル、と音を立てて舌を吸うと、身体の奥深いところを優しく突き上げられた。思わず声が上がるのに、シンドバッドは低い笑いを溢すばかりだ。
「気持ちいいか?」
耳元で尋ねられ、ジャーファルはこくこくと頷いた。
「は、ぃ……」
舌足らずに返事をしたジャーファルは、自ら腰を揺らしてさらなる快感をねだる。
勃ち上がった前をシンドバッドのごつごつとした大きな手で扱かれると、ジャーファルはより激しい動きで腰を振った。
陰茎の先からトロトロと零れる先走りをシンドバッドの指先が掬い取り、塞き止めるかのように尿道口になすりつけてくる。小さな孔の部分を爪の先で痛いほどほじくられ、ジャーファルは甘い嬌声をあげた。
「やっ……ぁ、ああっ……」
石像に掴まったジャーファルは、背をしならせた。シンドバッドの腕がジャーファルの片足を掬い上げるようにして引っかけてくる。姿勢がかわったことでジャーファルの内部を擦っていたシンドバッドの亀頭の角度がかわった。思わずジャーファルは尻に力を入れ、シンドバッドの陰茎を締め付けた。
「ぁ……抜いて……抜いて、シン。も、抜いてくださっ……」
片足で体重を支えるようになったことで、結合がより深まったような気がした。最奥に触れてくるシンドバッドの先端がそのうち内壁を突き破るのではないかと不安な気持ちが込み上げてくる。太いものに貫かれ、内側を擦られ、ジャーファルは大きく喘いだ。唇の端から零れる唾液が、白い喉を伝い降りていく。
「まだだ」
シンドバッドはそう返した。
背後からジャーファルの首筋に唇を押し当て、これでもかというほど強く吸い上げる。
「んっ、ぁ……」
ぞわぞわとした感じがジャーファルの腹の中に込み上げてきては、波のようにひたひたと押し寄せてくる。
「も、無理……だか、らっ……」
唇の端から涎を垂らし、前はシンドバッドの手で追い詰められて先走りでドロドロになっている。後ろはというと、媚薬とシンドバッドの先走りとでぐっしょりと濡れそぼり、情けないやらみっともないやらの状態だというのに、それでもジャーファルの身体はシンドバッドの欲望を貪欲に受け止めようとしている。 「そうか?」
平然とした声で返されて、ジャーファルは苛立ちを感じた。
「早く……シン、早く……!」
恥ずかしげもなく腰を自ら大きく振りながら、ジャーファルは啜り泣いた。
充血した後孔の襞がヒクヒクと蠢き、シンドバットの竿をさらに奥へと誘おうとする。
「……泣くな」
ジャーファルの華奢な体を支えたまま、シンドバッドは囁いた。
「泣くな、ジャーファル。すぐ、俺もイく」
そう言うとシンドバッドは、ジャーファルの竿を追い上げるかのように激しく扱き出す。
「あ、あぁ……」
目を閉じると瞼の裏側がチカチカしてくる。石像にしがみついたままジャーファルは、二度目の絶頂を感じていた。
すぐにシンドバッドの陰茎もドクンと脈打ち、生暖かい白濁がジャーファルの腹の中に吐き出された。
耳元に感じる男の荒い息が、たまらなく愛しく感じられた。
※ ※ ※
気が付くとジャーファルは、シンドバッドの裸の胸にもたれかかっていた。
二人ともまだ湯に浸かったままのところを見ると、行為の後、ジャーファルは軽く意識を飛ばしてしまっていたらしい。
「シン……」
そっと声をかけるとシンドバッドは目を開き、ジャーファルを見つめてくる。
「わたし……」
言いかけたジャーファルの唇に、シンドバッドの指が軽く触れる。
「疲れただろう、ジャーファル。痛みはないか?」
気遣わしげなシンドバッドの様子がやけに可愛らしく見えて、ジャーファルは小さく微笑んだ。
「大丈夫です」
そう返しながらも疲労感とは別に、満たされたような気持ちがジャーファルの胸の内には宿っていた。まだ身体の中にシンドバッドのものが残っているような感じがしたし、少々無理な体勢をしたからか身体のそこここが痛いのも確かだったが、後悔はしていない。
どこかふっきれたような、ある意味では清々しいような気持ちがしているのも不思議中な感じがする。
ジャーファルは顔を上げると、シンドバッドの頬に手を添えた。
「痛くはありません」
静かにそう告げると、シンドバッドはほっとしたようだった。
「俺は……無茶をさせたか?」
ジャーファルを見つめるシンドバッドの眼差しは優しく、穏やかな色をしている。
「そうですね。少しだけ、怖いと思いました」
最初にいきなり器具を使われたのが怖かったのだということは、言わずもがなだ。だが、それ以上に気持ちよすぎて怖くもあった。男なのにシンドバッドの愛撫の全てを気持ちいいと思う自分がいた。指先で触れられると、それだけで身体のあちこちが熱を持ち、むず痒いようなピリピリとした快感に襲われた。キスをした時に啜った唾液は花の香りのする美酒のような味がした。甘くて、舌で触れているだけで酔ってしまいそうだった。
それから、ジャーファルの身体を貫いたシンドバッドの竿の熱さと硬さと言ったら。太いもので内壁の奥を拓かれ、何度も突き上げられたるとジンジンと痺れるような快感がジャーファルの身体を支配した。壊れそうなぐらい深いところを激しく擦り上げられると意識が何度も飛びそうになったが、そのたびごとにシンドバッドの手と声がジャーファルを呼び戻した。
なんてズルい男なのだろう、とジャーファルは思う。
ズルくて意地の悪い、そして愛しい男だ。
この男に征服されることを自分はまさに望んでいた。男の所有物として身も心も捧げてしまいたい。そんな想いが以前からジャーファルの中にはずっとあった。その願いが叶ったのだ、嬉しくないはずがない。
「何があっても貴方を放しませんよ」
悪戯っぽくジャーファルが告げると、シンドバッドは淡い笑みを向けてくる。
「それは光栄だな」
そう言ってシンドバッドは顔を傾けた。互いの顔がゆっくりと近付いていき、どちらからともなく唇が重なる。チュ、と音を立ててシンドバッドの下唇を吸い上げるとジャーファルは、舌先でちろちろと相手の唇を舐めてやる。シンドバッドは閉じていた唇を綻ばせ、拙い動きをするジャーファルの舌を口腔内に招き入れた。
丹念にシンドバッドの口の中をねぶっていくと、その間に痩せたジャーファルの背中から腰へと、ごつごつとした手が滑り降りていく。唇の端からは鼻にかかった甘い声が洩れ、ジャーファルは照れ臭そうに目を反らした。
とは言うものの、今しがた確かめ合ったものをもう一度、確かめたい。二人がそう思ったことについては、間違いなかった。
シンドバッドの指先がジャーファルの後孔に触れた。襞の縁に指をかけるとシンドバッドは指の腹でゆるゆると薄い皮膚を擦った。
まだ媚薬が抜けきらないのか、ジャーファルの後孔はぐずぐずに解けて柔らかいままだ。指先を襞の真ん中に突き立てると、ヒクヒクと蠢き、シンドバッドの指を内へ飲み込もうと貪欲な動きを見せている。
「すごいな。まだいけそうだ」
そうひとりごちるとシンドバッドは、そっと指をジャーファルの中へと押し込んだ。
「あっ……ぁ……」
声を上げながらジャーファルがシンドバッドの背中に手を回すと、互いの身体がぴたりと重なる。ジャーファルの硬くしこった乳首が胸に擦れるのを感じて、可愛いなとシンドバッドは呟いた。
広い浴槽の縁に腰かけたシンドバッドの膝の上でジャーファルは、ふるっと身を震わせる。
二戦目に突入するのはやぶさかではないが、なんとなくよろしくない気配がしている。そもそも最初に器具や媚薬を使ったシンドバッドが、普通にジャーファルを抱くとは到底考えられないことだ。
顔を上げてちらりとシンドバッドの表情を窺うと、意地悪く眇めた琥珀色の眼差しがじっとこちらを見下ろしている。
「なんだ、まだ足りないのか?」
真顔で尋ねられて、ジャーファルはふるふると首を横に振った。身体の奥は微かに疼いていたが、我慢できないというわけではない。このままシンドバッドが余計なことをしないでくれるならば、静かに眠ることができるだろう。
「そうか」
シンドバッドはわかったと大きく頷くと、ジャーファルの体を膝の上に抱え直した。
「まだするんですか?」
慌て制止をかけようとすると、シンドバッドはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「いいや」
だったら何故、この男の手は自分の尻を撫で回しているのだろう。怪訝そうにジャーファルはシンドバッドの顔を覗き込んだ。
「では、もう触らなくても……」
「今夜はもうしないけれど、後始末をしないと駄目だろう」
もっともらしいことをシンドバッドは告げてくる。確かに後始末は必要だ。だが、この男のこの目は、それだけですます気がないことを示唆していた。
(2016.6.23)
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