『やさしい手 2』



  キスをすると、それだけでサンジの体温は上昇していく。
  抱きしめたはずの腕は、気がつくといつの間にかゾロの肩にしがみついていた。
  キスの合間に聞こえてくる湿った音に、身体が震えた。
「ん…ぅ……」
  立っているのが辛いぐらいに膝が笑っている。
  唇が解放されると、驚くぐらいにやさしい手つきがサンジを格納庫の床に横たえた。
「待ちきれねぇ、って顔だな」
  低く耳元で囁かれると、照れ隠しにぶっきらぼうな態度を取ることしかサンジにはできない。
「おう」
  短く返し、噛みつくようなキスをした。
  離れていた時間の隙間を埋めるため。触れることの叶わなかった空白を取り戻すため。とは言え、ほんの十二時間前にも抱き合っていたのだから、そんなに深刻にとらえるほどのものでもない。ただ、触れ合っていたいだけ。抱きしめて、キスをして、互いに奪い合いたいだけ。
  身体の奥がじんわりと疼きを訴えてくる。
「あ……皺になる……」
  シャツを着たまま犯されそうになり、サンジは慌ててそれだけを口にした。
「あぁ?」
  眉間に皺を寄せて、ゾロが身を起こす。
「しょうがねぇ奴だなぁ」
  そう言いながらもゾロは、サンジの腕から袖を引き抜き、シャツを脱がせた。鮮やかな青い色のシャツを無骨なゾロの手は丁寧に畳んだ。
「これでいいか?」
  シャツを傍らにそっとよけながら問いかけるゾロの声に、サンジは頷いた。甘やかされているなと思いながらも、穏やかなゾロの表情を見ていると、またもや口元が緩んでくる。
  目の前の男がどんなにいい男なのか、わかっているのは自分だけなのだと思うと嬉しくてたまらない。誰に対してだかわからないような優越感で、自然と口元が緩んできてしまうのだ。



  前戯も何もないままに、いきなり膝を割り開かれた。
  一人気持ちが盛り上がっていたサンジは慌てて膝を閉じようとしたが、強い力でぐい、と押し開かれた。
「あっ……」
  デリカシーのない奴──そんな風に思いながらもサンジは、一瞬の後には力を抜き、すべてを委ねきってしまっていた。男同士で今更、恥ずかしいもクソもないだろう。
「はっ……ぁ……」
  ざりざりとした舌が、サンジのペニスを舐め上げる。
  溜息にも似た喘ぎ声が洩れ、湿った音がサンジの耳の中いっぱいに広がった。
  男に犯されている。ペニスをしゃぶられ、尻の穴を指でほじられ、イかされて。それでも、男にされるのがキモチいいことを知ってしまったサンジの身体は、男の手を拒むことができない。それどころか、しがみついてヒィヒィよがり声をあげながら、もっともっととはしたなくその先を強請りもする。
  この男だからこそ。
  そんな強い想いを胸に、サンジは男の頭を愛しげに抱えこむ。
  荒れてかさついた男の手がゆっくりとサンジの太股を撫でさすり、尻の奥の窄まりをくすぐる。太い竿を銜え込んだその部分を指でなぞられると、背筋がゾクゾクとした。
「ぁ……あ……」
  だらしなく開いた口の端から、涎がたらりと伝い落ちる。
「いいか?」
  低い声で尋ねられ、こくこくとサンジは頷いた。
  気持ちを言葉にするだけの余裕も、今のサンジにはなかった。



  いつの間にそうなってしまったのか、気がついたらサンジとゾロは、互いの身体を貪り合う仲になっていた。
  初めは多分、好奇心から。そして今は、愛情なんてものが、二人の間には間違いなく存在していた。
  男同士なのに、愛し合うことができる。気持ちの上だけでなく、身体を繋げひとつになることもできる。
  あんなにもレディの甘い香りとふくよかな胸の谷間や腰のラインが好きだった自分が、こんな汗くさい男と抱き合うだなんて想像だにしなかった。本当に、いつの間にこんなことになってしまったのだろうか。不思議でならないと、サンジは心の中で首を傾げる。
  抱き合った後の気怠さの中で、ゾロは隣でうたた寝をしている。
  豪快に鼾をかいている姿を見ていると、この男のどこがそんなにいいのかすらわからず、自分の気持ちさえもが怪しくなってくる。
  それでもきっと、サンジはこの男がいいと言い張るのだ。
  この男の優しい手つきに惚れたのだと、何故だかふと、サンジは思った。
  節くれ立った傷だらけの、ごつい手。その手で優しく扱われたい。ぶっきらぼうで乱暴で、ムードもへったくれもないけれど、それでもその手つきだけは、ひどく優しい。
  「しょうがないな」と笑って、サンジの身体を愛撫してくれる優しい手つきが、恋しくて仕方がない。
  口の端で小さく笑うとサンジは、そっとゾロの額に唇を寄せた。






To be continued
(H18.6.12)



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