『やさしい手 3』
あかりとりの小窓から波の音が聞こえてくる。
潮の香りと、穏やかな空気。静かな昼下がりだ。
裸のままごろりと床に寝そべったサンジは、一服しながらゾロの寝顔を見つめている。
ついさっきまで甲板から賑やかな声が聞こえてきていた。今はもう聞こえてこないところを見ると、どうやらお子さま連中は遊び疲れて昼寝でもはじめたのではないだろうか。
小さく笑ってゾロの顔をのぞきこむ。眠っている時にもこの男は、眉間に皺を寄せている。何をそんなに力むことがあるのだろうかと、サンジは思わずにいられない。への字に引き結んだ唇の端を指で緩めてやると、唐突にゾロの目がぱっと見開いた。
「なぁにやってんだ、お前は」
ぎょろりと瞳が剣呑に細められ、サンジは慌てて指をひっこめた。
「いきなり目を開けるなよ、クソッ。驚くだろう」
胸の内を知られないよう、サンジはややきつい語調で言った。
「ああ?」
少し掠れたゾロの声が、愛しい。
ゾロの唇の端にちゅ、とキスを落とす。するとすぐにゾロの手がサンジの背に回され、身体をぐいと引き寄せられた。
「もう一遍、ヤるか?」
昼の日中からいったい自分たちは何をしているのだろう。こんなふうに唇を重ね、抱き合って。片時も離れたくない。男相手にそう思うこと自体が、まずもって妙なのだ。
筋肉質な男の腹の上に乗り上げると、サンジはゆっくりと自分から腰を落とした。つい先ほど身体の中に受け止めたものが潤滑油となって、すでに勃起していたゾロのペニスを飲み込んでいく。
「あっ……ぁ……」
下からゆるゆると突き上げられると、それだけでサンジは腰を揺らめかせた。
艶めかしい動きに、ゾロのペニスが一段と大きくなる。ガチガチに堅くなった竿で突き上げられると、それだけでサンジの口から悲鳴のような嬌声が洩れた。
「しょうがないやつだな」
独り言のようにぽつりと呟くとゾロは、フフン、と鼻先で笑い、それからサンジの腰に手を添える。
あやすようにやんわりと腰を揺さぶると、サンジの尻がきゅっ、とゾロを締め付ける。淫乱さをさらけ出しているようで、羞恥心からサンジはそっと目を閉じた。
それでもなお、ゾロはサンジの腰を揺すっている。優しい手つきがもどかしい。しかしいざ正直に伝えるとなると、サンジは何も口にすることができなくなってしまう。結局、ゾロのいいように喘がされ、翻弄されて終わってしまうのだ。
「顔を上げて、俺を見ろ」
ゾロが言った。
愛しい男の言葉に、サンジは顔をあげるとゾロの目を覗き込む。
「まだ足んねぇのか?」
少し掠れ気味の優しい声が、すっと細めた眼差しが、サンジの胸の鼓動をドキン、と波打たせる。
「──もっと」
小さく、サンジは囁いた。
「もっと、愛を……」
サンジの言葉にゾロは頷き返した。
「掴まってろ」
そう言われ、サンジはおずおずと腰にあてがわれたゾロの手に指を滑らせた。
「そんなんでいいのか?」
尋ねられた言葉の意味がわからないままにサンジは頷く。今、この瞬間にサンジは、手を繋ぎたいと思った。力強く、剣だこができてがっしりとした手と、料理を作る自分の手。手のひらと手のひら、指と指とを絡め合わせ、力いっぱい握りしめたい──
不意に勢いよく腰を前後に揺さぶられ、サンジは、嬌声を抑えることができなかった。
「あっ、ぅ……ああ……っ……」
ギリギリと尻の穴がゾロを締め付けているのが感じられる。
揺さぶられた瞬間にゾロの亀頭がサンジのいいところを何度も大きく擦り上げた。腹筋にきゅっ、と力を入れ、全身で目の前の男にしがみつく。
掴まった手にさらに力を込め、サンジは激しく揺さぶられながらも自分でいいところを突いてもらえるようにと腰を振った。
尻のあたりでぐちゅ、ぐちゅ、と水音がしている。格納庫に男の喘ぎ声が満ち、汗と精液のにおいがサンジの鼻をついた。
「はっ、ぁ……」
ゾロの腕に爪を立て、太股に力をこめる。膝がかくかくと笑っていたが、まだしばらくは持ちこたえられそうだ。口の端からたらりと零れる唾液もそのままに、ゾロの唇に噛みついていく。
「──……て……」
ゾロが上体を起こし、崩れ落ちそうなサンジの体を支えた。
「も……イキてぇ……」
目をぎゅっととじたまま、サンジが懇願する。こめかみを伝うサンジの汗をペロリと舐め取り、ゾロは笑った。
「こっちに……」
と、ゾロが言う。
「こっちに、掴まれ」
料理人の白い手を恭しく取ると、ゾロは自分の肩へとサンジの手を導いた。
「放すなよ」
ゾロが、優しく笑った。
膝の裏に差し込まれた手がほっそりとした足を持ち上げる。サンジの足がゾロの肩にかけられると、銜え込んだサンジの一点に全ての力がかかった。まだ外気に晒されていたゾロのペニスが、サンジの腹の中へずぶずぶと飲み込まれていく。
「ひっ……ぁ……」
細く甲高い悲鳴があがりかけ、サンジの喉の奥へと消えていった。
身体の中で、飲み込んだものがさらに体積を増し、堅く張り詰めていく。
「ぅぁっ……」
きゅうぅ、とサンジの尻の筋肉が窄まる。
サンジが腹筋に力をこめると、内部に穿たれたゾロの形がはっきりと感じ取れた。その刹那、サンジはゾロの腹へと白濁した精液を放っていた。濃厚な青臭いかおりが立ち上り、サンジは小さく身震いをした。
「気持ちいいか?」
尋ねられ、サンジはこくこくと頷いた。
狙い澄ましたように、ゾロはサンジの弱い一点を突き上げる。肉のぶつかる音がして、だらしなく開けた口の端から涎が零れ落ち、ゾロの向こう側に見えるあかりとりの窓から西日が差し込んでくる。ああ、もう夕飯の支度をしなければとサンジは思うが、それ以前に目の前の男が自分を解放してはくれないことに気付き、朦朧とした頭でサンジは酸素を求めて大きく息を吸った。
To be continued
(H18.9.21)
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