『やさしい手 4』
ピクピクとまるで痙攣するかのようにサンジの腹筋が震えた。腹の中にゾロの精液が溢れかえり、結合部からたらたらと溢れ出す感触に、サンジはわずかに顔をしかめる。
「も、腹一杯だ……」
サンジが掠れた声で呟くと、ゾロは繋がったままのサンジの身体をさらに大きく揺さぶった。
「あ……ああぁ……!」
大きく体をのけ反らせた瞬間、たった今サンジの腹の中に放ったばかりのゾロの竿が、またしても硬度を増した。
「やっ、も……」
咄嗟に目の前の太い首筋にしがみ直したサンジの喉元を、汗の粒が転がり落ちていく。
「エ……ロ、オヤジっ……」
そう言うなり、サンジは噛みつくようなキスをした。
「クソしつけぇんだよ、てめっ…──」
軽くゾロの耳朶に噛みついてやると、ゾロはお返しとばかりに大きく揺さぶりをかけてくる。慌ててサンジは、ゾロの耳朶をペロリと舐めた。
「まだ、大丈夫だろ」
にやりとゾロが笑う。少し掠れたハスキーな声に、サンジが驚いたように顔を上げる。
「まだ、大丈夫だ」
もう一度そう言うとゾロは、今度こそ本気でサンジの腰をガシガシと揺さぶり始めた。
泣き叫ぶこともできず、ただ喉の奥から押し殺したような悲鳴のような声があがるばかりだったサンジは、最後には気を失っていた。
気を失う寸前に、ゾロの舌打ちが聞こえた。それから、暗転。不意に目の前が真っ暗になって、次いでキーン、と張り詰めたような耳鳴りの音がして。胃がムカムカするのをぐっとこらえた途端に意識が遠のいていった。
自分が気を失うのだということは、なんとなくだったがサンジには分かった。
苦しいと思えるほどの気持ちよさから逃れられるのだと思うと、サンジは楽になったような気がした──
「チッ……」
舌打ちをしてゾロは、サンジの腰を大きく揺さぶった。
意識のない身体を弄ぶのはいい気がしない。しかし今にも爆ぜてしまいそうな自身の高ぶりを、どうにかしないことには一息つくことができなかった。
必死になってゾロは、サンジの身体を突き上げ続けた。
汗と、精液のにおいと、それから自分自身の喘ぎ声とが格納庫には満ちている。
気を失ったコックの後頭部に手を添わすと、華奢な身体を膝の上に抱きかかえた。
「……ったく」
小さく呟くと、ぐったりとした身体を片手で支えてやる。
ようやく落ち着いた自身のものを引き抜くと、コプッ、と微かな音がして、青臭いにおいと一緒に精液が溢れ出した。つい今し方放った自分のものを目にした途端、ゾロは眉間に皺を寄せた。
そのままサンジの身体を床にそっと横たえると、汗で湿った髪を梳いてやる。
普段ならきっと、絶対にしないだろう。
それ以前に、コックが触らせないだろうと、ゾロは苦笑する。
なんだかんだと口うるさいコックは、滅多に自分の髪に触らせない。行為の最中に髪を触ろうものなら、気分を害して行為を中断することも珍しくはなかった。それほどまでにサンジは、人との接触に随分と気を遣っているようだった。
潔癖性というのともまた違うだろうが、ゾロは、サンジのそのアンバランスなところが気がかりだった。
頬のラインを指でなぞり、顎にたどり着く。親指でうっすらと開いた唇をなぞっていると、不意に瞼が開いた。
「気がついたか?」
尋ねかけると、サンジはギロリと目だけで返してくる。
怖ろしいほどの空白があり、それからようやくサンジはノソノソと身を起こした。
「キモチ悪りぃ……」
掠れた弱々しい声が、サンジの口から洩れた。
服を着て格納庫を出ていこうとしたものの、壁に手をついたまま床へズルズルと座り込んでしまう。
日頃、なかなか弱みを見せようとしないサンジを知っているだけに、ゾロはピクリと片方の眉を動かした。
「部屋に戻るか?」
尋ねた途端、鋭い眼差しで睨み付けられる。
「阿呆か、てめぇは。キッチンだ。それ以外のところには行かねぇからな」
上目遣いに告げる姿は、まるで子供が駄々をこねているかのようでゾロは笑いを堪えるのに必死だった。
弱っているサンジの背中をなでてやる。おとなしくじっとしているところを見ると、余程気分が悪いのだろう。自分のほうにもたれかかるように肩を抱いても、文句のひとつも口にすることなく、サンジはじっとされるがままになっていた。
「──…うえっ、キモチ悪りぃ」
時折、ボソボソと言いながらもサンジは、安心しきったようにゾロの胸にもたれかかっている。
「それで……キッチンへは、抱いて行けばいいのか?」
ゾロが耳元で尋ねかけた瞬間、我に返ったサンジの手は筋肉質なゾロの腹をまさぐり……脇腹の柔らかい肉を力いっぱい大きくつねりあげた。
その日の夕方は、いつもより少し遅い時間に食事が始まった。
どことなく機嫌の悪そうなサンジは、いつもより饒舌だった。それ以上に機嫌の悪そうなゾロは一言も口をきこうとせず、誰の目にも二人がブリザード吹き荒れる喧嘩の真っ最中だということがはっきりとわかった。
「なあ、サンジ。何かあったのか?」
恐る恐るチョッパーが尋ねると、にこりと満面の笑みを浮かべてサンジは返した。
「ああ? なんにもないさ」
その言葉の冷たさに気付いたウソップが、それ以上は誰にも何も言わさないようにと、すかさずおかわりを宣言する。それを見たルフィは、こちらは純粋に闘争心を燃やして負けじとおかわりをする。
忙しければ、気まずい空気も薄れるだろう。
そんな風に思った仲間たちは、二人の間に流れる緊迫した空気を一切無視することにしたようだった。
腹を空かせていた連中が満足して部屋に引き上げてしまうと、サンジはキッチンを片付けた。
いつも一人でしていることだから、不自由は感じない。
手慣れた様子でキッチンを片付けてしまうと、テーブルにノートを広げた。中には乱雑な字で、日々の献立が書き連ねてある。これがなければ困るというわけでもなかったが、なんとなく時間を持て余して書き始めたところ、今まで続いているというだけだ。
ぼんやりとノートを眺めていると、キッチンのドアが開いた。不機嫌丸出しのしかめっ面をした、ゾロだった。
「……なんだ、お前か」
咄嗟に知らん顔をしてサンジはノートに目を落とす。口をきく気はこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
とりつく島もないというのはまさにこのことを言うのだなと、そんなことを思いながらもゾロはシンク横の酒瓶を手にした。いつもなら優秀なコックにお伺いを立てるところだが、今日はそんな気になれない。黙って酒瓶を持ち出そうとした途端、冷たい眼差しがギロリとゾロを睨み付けた。
「ああ?」
負けじとゾロも睨み返す。
それから不意に、ゾロはふっと口元に淡い笑みを浮かべた。
「……しょうがねぇな」
そう呟くと、おもむろにサンジのほうへと近づいていく。のんびりとした足取りから、この男が怒っていないことがわかる。その程度には、サンジはゾロのことを理解しているつもりだ。
怪訝そうな眼差しでサンジは、じっと目の前の男を眺めている。
男は、真面目そうな瞳でじっとサンジを見下ろした。大きな手がすっと動き……サンジの金髪をわしゃわしゃと掻き乱した。
「喧嘩の続きは明日にしようぜ」
そう告げたゾロの手は、やはり節くれ立ってごつごつとしていたが、この上なく優しかった。その手に触れられただけで、刺々しくささくれだっていたサンジの気持ちは穏やかになっていく。
「そうだな」
一時休戦だからな、と言いかけたサンジの言葉は、ゾロのキスにかき消されていった。
END
(H19.5.27)
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