カリッと音がすると同時に、口の中に清涼系のミント菓子のきつい味が広がった。
強すぎて、舌がヒリヒリするほどだ。
「辛いよ、これ」
眉をしかめて文句を言うと、「そうですか?」と獄寺の顔が近付いてくる。
ほっそりとした長い指に顎をとられ、くい、と持ち上げられる。あっと思う間もなく唇が合わさり、口の中にするりと獄寺の舌が潜り込んできた。
探るように口の中を舌が蠢き、頬の肉や歯の裏、舌の裏側に触れていく。
ミントの菓子は舌の上だ。沸き出した唾液をごまかすかのように舌を引っ込めようとすると、ミント菓子ごと舌を絡められ、きつく吸い上げられた。
「ふ、ん、んっ……」
いつの間にか体に回されていた腕にしがみつき、痺れるような感覚に浸る。
クチュ、と音がして唾液をすすり上げられる音に、綱吉は目元をほんのりと赤らめる。
吸い上げ、ねぶられ、絡められ、さんざん蹂躙されて体から力が抜けていく。くたりとなったところでようやく唇が離れ、下唇に残る唾液が透明な糸を引き、つー、と途切れる。
「……ん」
陶酔したようにぼんやりとした目で綱吉が獄寺を見上げると、彼はいたずらっ子のように笑っていた。
「確かに、少し辛いっスね」
ペロリと唇の端を舐める仕草も色っぽく、綱吉はドキドキした。
獄寺の部屋でよかったと、頭の隅っこで索漠と綱吉は思った。
ミント菓子は、実は菓子ではない。
最初、ビタミン剤だと言って獄寺に渡されたものだ。
白くて小さな錠剤のようなもので、味はミント味でラムネ菓子のような形状をしている。眠気を覚ます時や口臭が気になる時などに口に入れる、あれだ。
確かに、口の中に入れるとスーッとする。が、すぐに舌がヒリヒリとなって痛みを感じた。痛くて、辛くて、半泣きになって辛いから嫌だと獄寺に正直に告げると、ビタミン剤だからそのまま噛み砕いて飲み込むように言われた。
どうして自分が言われるがままに嫌なことをしなければならないのだと内心では文句を零しながら、それでも綱吉は菓子(ビタミン剤?)を飲み込んだ。
それから炭酸系のジュースを渡された。
「喉、渇いてないからいらないって」
そう言うのに、無理に飲むように言われた。
仕方なくジュースを口にした綱吉の髪やこめかみに、獄寺の唇がおりてくる。チュ、と音を立ててキスをされるのは、悪くはない。綱吉にとっては恥ずかしいことだが、獄寺と付き合い、体の関係を持つようになってもう何年にもなる。
中学生の時に付き合い出して、二十四歳の今も続いている。
ダメダメでどうしようもない自分のことを好いてくれる獄寺が、不思議でならない。この人には、自分はどんなふうに見えているのだろうかと綱吉は思うことがある。
獄寺のように顔立ちが整っているわけでもなく、飛び抜けて頭がいいわけでもない。山本や了平のようにスポーツに秀でているわけでもなく、雲雀のように良家の子息というわけでもない平々凡々な自分のどこが、そんなにいいのだろうかと思わずにいられない。
それでも、獄寺のことが好きだから、できるだけ獄寺の意に添うよう振る舞っていた。
ボンゴレのボスとして、右腕である獄寺の側にずっといられるよう、ささやかな努力をしてもいる……つもりだ。
ずっと一緒にいるために。
ずっと、恋人でいてもらえるように。
そんなふうに綱吉は思っていた。
「ね、口の中が熱い……」
舌がヒリヒリとしている。
痺れたような感じがして、綱吉はゾクリと体を震わせた。
本当にビタミン剤なのだろうかと、疑問に思う。獄寺に限ってそんなことはないとは思うものの、一抹の不安を捨てきれない。
「さっきのあれ、いったい何だったの?」
尋ねた途端、ぎゅっと獄寺に体を抱きしめられる。
「──すんません、十代目」
首筋に獄寺の唇が押し当てられた。
「すんません」
そう言われて綱吉もようやく気が付いた。
さっきのあれは、ビタミン剤などではなかったのだ。やはり、何か妙な薬だったのだ。
「あの……獄寺君?」
おそるおそる綱吉が声をかけようとすると、獄寺の手が、口を押さえてくる。
「しーっ。黙ってください、十代目。すぐに気持ちよくしてあげますから」
言うが早いか、獄寺の唇が綱吉の喉元を這う。チュ、チュ、と音を立てながら首から鎖骨にかけてを責められ、その合間にシャツのボタンを全て外されてしまう。
「ちょ、獄寺君っ……」
慌てて体を捩ろうとすると、力任せに押し倒された。
ここが獄寺の部屋でよかったと、綱吉は心の底から思う。と、同時に、獄寺の部屋だからこそこの状況がまずいのではないかとも思うのだが、いかんせん体が動いてくれないのだからどうしようもない。
あのビタミン剤のせいだろうか?
口の中はヒリヒリとして熱いし、体は動かないし、いったい自分はどうしてしまったのだろうか。
「獄寺君……お、おかしいんだ、オレ……」
口の中の熱が、少しずつ全身へと回っていくような感じがする。
はあっ、と息を吐き出すと、背筋をゾクゾクとするものが駆け上がっていくような感じがした。
「助けて……」
囁いた声は、掠れて上擦っていた。
「今すぐに、十代目」
獄寺が耳元に息を吹き込むと、それだけで綱吉の体はビクビクと震える。
「……んっ」
獄寺の首に腕を絡め、綱吉は体の熱をどうにかして欲しいと訴えた。
肌に触れる獄寺の手が、気持ちよかった。
ひんやりとして、もっと触れていて欲しいと思わずにいられない。
「気持ち、い……」
ポソリと呟くと、獄寺の唇が唇におりてくる。
「ん、ぅ……」
チュ、と音を立ててキスをした。
唇はすぐに離れていき、綱吉の肌の上を這い回る。指先が辿った後を、唇が追いかける。喉元、鎖骨の窪み、それから乳首をきゅっ、と器用な指先が摘み上げ、少し遅れて唇が乳首をやんわりと甘噛みする。
「あっ、あ……」
ビリッ、と電流が流れたような感じがする。いつもならここまではっきりと快感を感じることはないというのに、今日は快感の度合いがいつもにも増して高いような気がする。
「んん、ん……」
やんわりと獄寺の頭を押し返そうとすると、乳首にキリ、と歯を立てられた。
「ゃっ……ああっ!」
ビクビクと体が震え、下腹部に熱が集まっていく。
「だ…だめっ、獄寺君!」
はあ、と息をついた綱吉は、獄寺の身体を押し返そうとした。自分よりも体格のある獄寺を押しのけるのは容易ではなかったが、このまま抱かれるわけにはいかない。腕に力を入れようとするが、胸の先をチュウ、と吸い上げられるとそれだけで全身の力が抜けていくような感じがした。
「や……離して……」
目をぎゅっと閉じて綱吉は、首を左右に振る。
獄寺はいったい、どんな表情をして自分を見ているのだろうか。
胸の尖りをザリザリと舐めあげられ、綱吉の腹筋がビクビクと震える。獄寺を押しのけようとして銀髪を掴んだはずの手が、いつの間にか髪をぐしゃぐしゃにしながら自分の胸に引き寄せるような仕草をしていた。
「獄寺君……!」
腹の奥底に集まった熱を吐き出そうとして、腰がジリジリと動いてしまう。
綱吉は困ったように「ああ」と微かに呻いた。
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