Mint Privacy4

  イッた後の倦怠感とでも言うのだろうか、放心したような状態の綱吉の中から、獄寺のものが引き抜かれた。
  ズルリと抜け出ていくものを寂しいと思う。
  埋められていたものがなくなったことで、綱吉の中がじゅわんとヒクついて、奥のほうから獄寺の放ったものが溢れ出てきそうな感じがする。
「ぁ……」
  獄寺君、と声をかけようとしたが、ちゃんと舌が回らず、名前を呼ぶことすらできなかった。
  仕方なく綱吉は、獄寺にしがみついた。手が震えて力が入らず、指先が何度も獄寺の肌の上を滑った。
「気持ちよかったっスか?」
  獄寺の唇が、綱吉の頬やまぶたに触れてくる。その感触を気持ちいいと思いながら、綱吉ははあっ、と息を吐き出す。
「ん……」
  すごくよかったと、そう正直に返すのも恥ずかしかったから、綱吉はぐいぐいと獄寺の肩口に額を押しつけるだけにとどめる。
  まだ、体の奥が燻っているような感じがするのはきっと気のせいではないだろう。
  おそらく獄寺に渡されたあのミント菓子は、綱吉が思いきもしないような……いわゆる、妙なクスリだったのではないだろうか。
「……オレ、怒ってんだけど」
  しがみついた獄寺の背中に手を這わせると、肩胛骨の下の筋肉がピクリと動いた。
  いったいどこから、あんな妙なものを仕入れてきたのかが気にかかるところだ。クスリの出所はシャマルだろうか。それとも骸……いや、ディーノあたりでもあり得ないことではないだろう。
  顔を上げると、困ったように眉間に皺を寄せた獄寺の顔がすぐ近くにあった。
「すんません、十代目。心の底から反省してます」
  耳元に熱い吐息と共に吹き込まれ、綱吉はゾクリと背筋を震わせた。



  結局、獄寺への追及はそれ以上はしないことにした。
  綱吉の体の奥の熱はまだ残っていたし、時間ならたっぷりとあった。
  しがみつく指の震えがおさまり、脱力したような感じがなくなったところで綱吉はぐい、と獄寺の身体を押し返す。
「みっ……水でもお持ちしましょうか、十代目」
  慌てて獄寺が体重を移しながら尋ねてくる。
「いいよ、別に」
  素っ気なく返すと綱吉は、力任せに獄寺をベッドに押し倒し、唇を奪った。
  怒っているのだぞと思わせるような激しいくちづけに、獄寺の喉が上下してコクリと鳴る。
  舌を突き出して獄寺の唇を舐める。ピチャ、と湿った音を立てると、獄寺も舌を突き出して、綱吉の舌に絡めていく。招き入れられた獄寺の口の中は熱くて、微かにミントの味が残っている。綱吉の舌の上にもきっと、残っているのだろう。
「ん……んっ」
  クチュクチュと音を立てながらくちづけを交わし、合間に互いの肌をまさぐり合う。獄寺の裸の肩口にぴたりとてのひらを押しつけ、そろりそろりと二の腕を這い降りる。程良く筋肉のついた腕に、綱吉はゾクゾクする。この腕に自分が抱きしめられているのだと思うと、体中がトロリと甘くとろけていきそうだ。
「獄寺君……」
  髪に、頬に降り注ぐ獄寺の唇が、気持ちいい。
  最後にまた唇に戻ってくると、今度はチュ、と音を立てて啄まれた。
「もう一回、いいっスか?」
  尋ねられ、綱吉は閉じていた目をうっすらと開ける。綱吉の下に横たわる獄寺の身体がほんのりと汗ばんで、下腹部が硬く張り詰めているのが感じられた。
「ん……シテ。獄寺君が、欲しい」
  伏し目がちに綱吉が告げると、獄寺は嬉しそうに頬を緩めた。
  それからそっと、まるで壊れ物を扱うかのように体勢を入れ替えられ、獄寺の手によって足を大きく開かされる。
  大きく広げた足の間に身を割り込ませた獄寺は、ほとんど前戯もないままに綱吉の中に自身を埋め込んだ。
  ズプッ、と淫猥な音がして、綱吉の肌にゾワリと鳥肌が立つ。産毛までも逆立てて、あられもない姿で感じているところを見られているのだと思うと、恥ずかしくてならない。
「あっ、あ……」
  抜き差しされる太い楔が、綱吉の内壁を擦り上げる。襞の内側、敏感になった部分をぐりゅっ、となぞり上げられ、太股の付け根が小刻みに揺れる。
「ダメ……」
  勃ち上がった自らの性器を隠すように綱吉が手を伸ばすと、獄寺の手が一瞬早く、竿を握りしめる。
「ああ……っ」
  綱吉の耳の奥で、ドクン、ドクン、と血が滾っているのがわかった。獄寺の手が竿を扱くと、その度に頭の中が真っ白になりそうになる。時折、意識が飛びそうになるのは、終焉が近いからだろうか。
「獄寺君……獄寺君……」
  譫言のように綱吉が呟く。
  その唇をチュ、と吸い上げる獄寺の唇がもっと欲しくて、綱吉は舌を突き出した。
「……もっと」
  潤んだ目で恋人を見上げると、獄寺が物欲しそうに綱吉を見下ろしている。
  腕を伸ばして獄寺の身体にしがみついた綱吉は、ノロノロと上体を起こした。片手で獄寺の首にしがみつき、もう片方の手を後ろ手について体重を支える。
「獄寺君、もっと……シテ!」
  甘えるように恋人の胸に鼻先を押しつけると、汗と煙草のにおいがしている。チュ、と肌にくちづけ、それから綱吉は自分から腰を揺らし、獄寺の高ぶりをきゅう、と締めつけた。



  全てが終わると、綱吉の体の奥に燻る熱はいつの間にか引いていた。
  全身が怠かったが、気分はスッキリとしていた。
  あのミントの菓子は、やはり妙なクスリだったのだろう。いったい誰が、どこで手に入れたのだろうかと思いながらも、二度とこんな姑息な手には引っかかるまいと決心する綱吉だった。



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(2012.1.29)



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