とっておきのプレゼント 2

  タクシーが屋敷に到着すると、獄寺はなかば抱きかかえられるようにして綱吉の部屋に連れ込まれた。
  体は既に立っているのも辛いぐらいにそこかしこが熱っぽくて、グズグズと熟んだ状態になっていた。歩くたびに足の裏から太股にかけて痺れのようなものが広がり、体の奥がじんわりと収縮を繰り返す。そんな状態でも獄寺は、自分の足で歩くことに拘った。
  屋敷の中で……しかも綱吉に抱えられている無様な姿を、部下や仲間たちに見られたくはなかった。綱吉の手を拒むように、その一方で差し伸べられた腕に縋りつくようにして獄寺は、二階へと続く階段を上がっていく。
「大丈夫?」
  耳たぶにかかる綱吉の吐息に、獄寺の背筋がゾクゾクとする。
「……っ」
  震える手で獄寺は、綱吉の腕にしがみつく。
  腹の底からこみ上げてくるのは、焦れったいほどに甘くて苦しい、熱。
  歩くたびに、綱吉の手でつけられたベルトの縁が陰茎を擦る、その微かな感触に獄寺は翻弄されていた。常とは違う感触がするたびに体が震え、股間が固くなっていく。
  食事をしている最中から獄寺の股間は、熱く高ぶっていた。
  あの時、綱吉の手は獄寺の性器に直接触れ、器用にコックベルトを填めていった。その様子を頭の中で思い返すだけで、獄寺の体はますます熱っぽくなっていく。気にせずにおこうと思うのに、いつもと違うその感覚が余計に気になって……そうすると獄寺の性器は固く固く、張りつめていく。
  食事を終えて表に出る頃には、体の熱は既に収まらないところまできていた。
  はあぁ、となんども息を吐き出す。
  なんとか階段を上がりきり、部屋に辿り着く頃には、獄寺の膝はガクガクとして、自力では立っていられないほどになっている。
  シャワーを浴びたいと獄寺は思った。
  先走りが滲んだ下着は、今は湿ってベタベタになっている。
  気持ち悪い。とは言うものの、自力でバスルームへ行けるかどうかも怪しいような状態だ。
「十代目……も、歩けませ……」
  足を止め、獄寺は掠れる声で訴えた。
  もう、無理だ。ベッドへ行くにしろ、バスルームへ行くにしろ、この足はもう、動いてくれないだろう。今にも泣き出しそうな情けない気持ちで綱吉の顔を見ると、彼は微かに笑っているようだった。
「仕方ないな」
  そう言って綱吉は、獄寺の体に腕を回した。あっという間に獄寺を横抱きに抱き上げてしまうと、確かな足取りでベッドのほうへと近づいていく。
  獄寺は、微かに震える手で綱吉にしがみついているのが精一杯だった。



  ベッドに下ろされた獄寺は肩で息をついていた。
  体が熱くて、頭の中が真っ白になりそうだ。
「大丈夫……なわけ、ないよね」
  どこかしら困ったように綱吉は呟いた。
  獄寺のこめかみにそっと唇を寄せると、着ているものを脱がし始める。
「や……十代目、ダメです!」
  獄寺は力の入らない手で綱吉を押し返そうとするが、そううまくいくはずもなく、呆気なく綱吉に手首を掴まれ、頭の上で一纏めにされてしまった。
「じっとして、獄寺君。とりあえず服を脱いで、さっさのベルト、緩めてあげるから」
  そう言われると、獄寺はおとなしくするしか他はない。
  唇を噛み締め、綱吉からは顔を背けると、後は黙って綱吉に服を脱がされるに任せている。
  悪戯心を起こして綱吉がシャツの上から胸のあたりをなぞると、それだけで獄寺は体をビクン、と震わせる。
  声を上げてしまわないようにぎゅっと唇を噛み締める。それを知ってか知らずしてか、綱吉はわざと際どいところに触れながら、シャツのボタンを外していく。もう一方の手は、獄寺のベルトを引き抜くのに忙しい。カチャカチャとバックルの金属音を響かせながら、するりとベルトを引き抜いてしまう。
「ん、ん……」
  獄寺は弱々しく身を捩った。
  ボタンを外しただけのシャツの裾を、綱吉がカプリと噛む。歯と唇を使ってそっと獄寺の胸のあたりをはだけさせていく。
  焦れったいのは、どこだろう。綱吉にもらったベルトを着けている部分だろうか。尻のあたりをもぞもぞとさせながら足掻く獄寺の姿が綱吉の目には、どんなふうに映っているだろうか。
  獄寺が体をくねらせると、そのたびにはだけたシャツの影から乳首が覗く。シャツが擦れて、いつしか乳首がつん、と勃ち上がっていく。
  しばらくその様子をじっと上から見おろしていた綱吉だったが、鼻先で器用にシャツを押しやると、乳首にパクリと食らいついてきた。
「っ、んぁ……あ……」
  鼻にかかった甘えるような声を、咄嗟に獄寺は上げてしまった。
  ピリピリと痺れるような快感が、乳首の奥からこみ上げてくる。必死になって歯を食いしばっているというのに、あられもない声は次から次へと洩れ出してくる。何度も腰を揺らめかせ、獄寺ははっ、はっ、と息を乱した。
  クチュッ、クチュッ、と音を立てて綱吉が乳首を吸い上げると、そのたびに獄寺の体はずり上がろうとする。逃げられないことがわかっていても、綱吉から逃げようとしているのだ。逃げなければ、綱吉の気がすむまでずっと乳首を舐められるだろうことはわかっていた。
「……やっ」
  フルッと体を震わせて、獄寺は弱々しく全身で綱吉から逃れようとした。
  吸い上げていた綱吉の唇がクチュン、と音を立てて獄寺の胸から離れる。
  綱吉は引き抜いた獄寺のベルトを手に取ると、片手で器用に獄寺の手首に回して軽く固定してしまう。やめてくださいと言いながらも獄寺は、綱吉に抵抗することはできなかった。
  抵抗すれば、この先の快感を与えてもらうことはないだろう。
  ここまで体を高ぶらせておいて放り出されるのは勘弁してほしい。
  腕を縛られた姿のまま、獄寺は体を捩った。下着の中のもうひとつのベルトが獄寺の陰茎に擦れる。締めつけられるような感覚が、もどかしい。
「……十代目、外してください」
  はあ、と息をつくと、まるで啜り泣いているように聞こえないでもなかった。



  綱吉の手は器用だった。
  先走りでベタベタになった下着ごと獄寺のスラックスを引きずり下ろしてしまうと、コックベルトの上から竿をやわやわと握りしめる。もどかしい感じに獄寺は、体をのけぞらせてもっと確かな快感を得ようとする。
  竿を締めつけるベルトが、肉に食い込むのが辛い。睾丸のところから根本を固定されているから射精することもできず、触られても強い快感にはほど遠いもので、物足りない。
  そのうちに頭の中が真っ白になってきて、なにも考えられなくなくってしまった。
「あ、ぁ……」
  息をすると、ヒクッと喉がひきつれて、苦しい。
「じゅぅ……っ」
  腰が揺れて、先端にひっきりなしに新たな先走りが滲んでくる。固くなった竿がピクピクと震えているのは、根本に集まってきた熱を解放したくてたまらないからだ。
「すごいね」
  掠れた声で綱吉が囁いてくる。
「先っちょの皮がめくれて、中のピンク色の肉が見えてるよ」
  そう言って綱吉は、獄寺の鈴口に爪の先を押し込んだ。ぐりぐりと先端を爪で引っかかれると、それだけで獄寺の腰がビクビクと揺れる。
「やっ……ああっ!」
  引きつるような熱い痛みと快感が、入れ替わり立ち替わり、獄寺の性器を苛んだ。もう解放してほしい。気持ちよくさせてほしい。だが、もっと気持ちよくなろうとすると、この痛みも必要なのだと、頭のどこかでもう一人の獄寺が冷静に考えている。
「やめっ……十代目、も、外して……外して、くださ……」
  体をくねらせ、綱吉の手から逃れようとしながら獄寺は啜り泣いた。
  竿を締めつけるベルトが肉に食い込んで、痛くてたまらない。それなのに、その痛みを気持ちいいと思うだなんて、自分はどうかしている。
「外すの?」
  言いながら綱吉は、ベルトの隙間に指を差し込み、くい、と引っ張る。
「ひぁっ、あ……っ!」
  肉がひきつれて痛い。獄寺は足先でシーツを蹴って、綱吉の手から逃れようとした。
「逃げないで。もっと気持ちよくしてあげるから」
  不意にベルトを引っ張っていた綱吉の指が、離れていく。
  優しい手つきで竿をなぞられ、先端をペロリと舐め上げられた。
「ん……」
  焦れったくて獄寺が腰を揺すると、綱吉は微かに笑った。
「ほら、もっと足、開いて」
  綱吉の手が、獄寺の足を大きく開かせた。股間で勃ち上がったものが先走りを滴らせながら、フルフルと震えている。
「十、だ……」
  ベルトを外してもらえるのだろうかと期待をして綱吉を見遣る。
「外し…──」
  言いかけてしかし、獄寺は口を噤んでしまった。
  綱吉の手にコントローラーが握られているのが、はっきりと見えてしまったのだ。
  まだ、外してもらえないのだ。まだこのまま、解放を阻まれ、綱吉の思うように体を弄り回されなければならないのだ。
  固定された腕でかろうじてシーツを握りしめ、獄寺は身を捩った。
  逃げることが叶うのなら、綱吉の手から逃れたい。
  手と、足と。全身を使ってシーツの上をずり上がって逃げようとするが、綱吉の手は簡単に獄寺の足を引きずり、元の位置に戻してしまう。
「じっとして。コントローラーの線を繋ぐだけだから、動かないで」
  耳元に囁きかけられ、獄寺は諦めたように体の力を抜いた。
  嫌だろうがなんだろうが、このコックベルトは綱吉がプレゼントしてくれたものだ。こうして二人で使ってみせるのも恋人の務めだと獄寺は諦め半分、目を閉じたのだった。



(2012.8.29)
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