着衣のまま、スラックスの前だけを広げた綱吉の格好がいやらしく見える。
自分もたいがいいやらしい格好をしているのにと、獄寺は自嘲気味に思った。
素っ裸で男に抱かれている自分は、コックベルトに睾丸と竿を締めつけられたまま先端から先走りを溢れさせ、息も絶え絶えになっている。
みっともないと思うのに、綱吉から与えられる快感に浸りたくて必死になっている。
ベッドの上で腰を揺らしながら、綱吉の次の愛撫を待っている自分が少しだけ悲しい。みっともないとは思わない。自分はこの人の恋人だから、辱められているとも思わない。ただ、焦らされるのが辛いだけだ。
「十代目……っ」
名前を呼ぶと、綱吉の手が獄寺の太股を押さえつけてきた。
ジャケットの内ポケットに綱吉は手を入れると、コントローラーを取り出してくる。
「あ…ぁ……」
嫌だ、と獄寺は思った。怖い、とも。
目を見開いてじっと綱吉の手元を凝視する。
やめてくださいと言いたいのに、舌が動いてくれない。じっと綱吉の手元を見つめることしかできない。
「大丈夫だよ」
そう言って綱吉は、獄寺の唇の端にチュ、とキスをした。
獄寺の背筋を嫌な汗がつー、と伝い下りていく。
「じゅ……」
ドッ、ドッ、と獄寺の心臓が鳴り響く。怖い。震える指でシーツを握りしめるが、それすらもしっかり握ることができない。
綱吉は獄寺の気持ちを鎮めようとしてか、唇と言わず、頬や額、鼻先へと何度もくちづけてくる。
「痛くないから」
最後に耳元にそう囁きかけると、耳たぶをやんわりと甘噛みしてから綱吉は体を離した。 それからコントローラーを獄寺にもよく見えるように持ち直す。
「怖かったら目を閉じてていいよ」
そう言われたものの、怖いもの見たさの好奇心が勝って、獄寺は首を横に振る。だが、直視するのは怖い。うつむき加減に視線をあちこちにさまよわせ、最後に、コックベルトを装着した自分の性器を見おろした。
「いちばん弱いのから試してみようね」
そう言って綱吉は、コントローラーのスイッチをオンにした。ピリピリとした感覚が睾丸から竿へと駆け上がっていくような感じがする。気持ち悪くはないが、気持ちいいというわけでもない。低く微かなモーターの音を響かせながらコントローラーが電流を送り込んでくる。獄寺の性器に、針の先でつつかれるような微かな感触が走る。電流が流れているからだろう、触れてもいないのにピクッ、ピクッ、と睾丸から竿にかけてが微かに震えているような感じだ。
「気持ちいい?」
尋ねられても獄寺には、これが気持ちいいのかどうかすらわからない。変な感じがするということだけは、はっきりとわかるのだが。
「……わかりません」
正直に答えると、綱吉はニコリと笑って獄寺にくちづける。
「じゃあ、もう少し強くしてみるね?」
綱吉の手が、獄寺のほうへと差し出される。コントローラーのスイッチを押し、電流の強さを一段階上のものに変更する。
途端にビクン、と竿が大きく震えた。睾丸がきゅっと縮こまって、さっきよりも強い電流が流れていることを獄寺は知る。
「っ、……あ」
声が上がったが、それが快感からなのか、不快感からなのかはやはりわからない。
不安そうに綱吉を見ると、彼はじっと獄寺のペニスに見入っている。
「すごいね。ピクピク震えている」
綱吉の空いているほうの手が、獄寺の亀頭をぐるりと包み込んだ。
「ぁ……んんっ」
知らず知らずのうちに、獄寺の腰が揺れる。綱吉のてのひらに先端を押しつけるように腰を動かすと、綱吉のてのひらの中でクチクチと湿った音がする。
「あ、あ……」
恥ずかしいことをしているのだという意識はあった。自分が浅ましいぐらいに綱吉を求めているのだということも、わかっている。
だが、止まらない。
焦らすような綱吉の手の動きも、コックベルトを通してピリピリと刺激を与えてくる微弱電流も、今の獄寺にはもどかしくてたまらない。
体の熱はあっという間に高まっていく。
ペロリと唇を舐めると獄寺は、綱吉の腕を掴んだ。
「イきたいっス、十代目……」
驚くほど弱々しい声が出た。
掠れて、震えて、力のない声だった。
「十代目……」
縋るように声をかけると、綱吉の手がぬるりとした先走りを纏ったまま、コックベルトごと獄寺の竿を扱きだした。
「ぁ、あ……」
ベルトの縁が、肉に擦れて痛かった。それでも腰を揺らしてしまうのは、竿を扱かれて気持ちいいと思ってしまうからだ。
「や……ひっ、ああっ!」
不意に、竿全体にビリビリとした痛みを感じた。獄寺は咄嗟に足を閉じようとしたが、綱吉の腕に阻まれた。
「自分で足を広げて」
優しくも残酷な声に、獄寺はノロノロと従う。微かに震える手で自分の膝を押さえると、股を開いたまま、綱吉の様子をうかがう。電流が流れるのに合わせてビクッ、ビクッ、と竿が震える。縮まったままの睾丸が痛い。
「そのままで」
そう言うと綱吉は、獄寺のペニスの先端を口に含んだ。
唾液をたっぷりと尿道口に塗り込めて、先端を吸い上げる。チュウ、と音を立てて先を吸われると、獄寺の竿はいっそう固く張りつめて、コックベルトに締めつけられることになる。痛い。でも、気持ちいい。腰を揺らすと、綱吉の歯が獄寺の括れた部分にあたった。
「ん……っ、ふ……」
コックベルトから伝わる振動は、まだ強いままだ。なんとかしてほしいと思いながらも、綱吉には口淫をこのまま続けてほしいと思ってしまう。
膝を掴む手に力を入れると獄寺は、さらに大きく足を開く。
「も……もっと……」
掠れた声で囁くと、ジュウ、と音を立てて先端を吸い上げられた。
「あっ……ん、ん……」
腹の底は熱くて、体はこんなにも甘くもどかしい状態になっているというのに、綱吉はまだコックベルトを外してくれない。
「外、し……」
そうだ。外してしまえばいい。ちょっと手を動かせば、すぐに外せるだろう。そう思うのに獄寺の手は、しっかりと自身の膝を掴んだまま、これっぽっちも動いてはくれない。それどころか、ますます足を大きく左右に開き、股間でそそり立つ性器を綱吉にもっとよく見えるようにしようとしている。
はあっ、と息を吐き出すと、「苦しい?」と尋ねられた。
苦しいのは、気持ちがいいからだ。ピリピリとした痛みよりも、もどかしい快感のほうが今は強くて、足を広げたまま腰を突き出すような仕草を何度も繰り返してしまう。
「く…る、し……十代目、も、……っ」
は、は、と息を吐き出し、下腹部をヒクヒクと波打たせながら獄寺が訴える。
「お腹の下のほうがヒクヒクして、苦しそうだ」
「十……」
「でも、まだダメだよ。もっといい顔をしてくれたら、終わりにしてあげるから」
そろりと腹をてのひらで撫でると綱吉は、コントローラーをまた獄寺の目の前に差し出した。
「自分でスイッチを切り替えてごらん、獄寺君」
もう一段階、強いほうへと。綱吉の眼差しはそう告げている。
獄寺は、口の中に沸いてきた唾をゴクリと飲み込んだ。怖かった。綱吉に言われた通りにするのが、怖くてたまらない。だけど綱吉の言葉に従いたい気持ちもある。
むちゃくちゃだと獄寺は思った。
綱吉の言葉に従いたい自分と、逆らいたい自分。怖くもあるが、その一方で興味もある。綱吉の言う通り、気持ちいいかもしれないと思うと、コントローラーのスイッチを強いほうへと切り替えてみたい。だが、怖い。痛かったらどうしよう。苦しかったらどうしよう。そう思うと、全身が竦んでしまう。
「さあ、コントローラーを持って」
そう言って綱吉は、獄寺の手の中にコントローラーを握らせる。
今なら……と、獄寺は思う。今なら、コントローラーのスイッチをオフにすることもできる。コックベルトを外して、こんなのは嫌だとはっきりと綱吉に告げることもできるだろう。
だが、獄寺はそうはしなかった。震える指先をコントローラーに這わすと、スイッチを切り替えた。
カチ、と微かな音がすると同時に、ビリビリと竿に刺激が走る。睾丸がキリキリと締めつけられるような感覚がして、獄寺は慌ててコントローラーをシーツの上に投げ出していた。
「や、っあ、あ……っ……!」
悶えるように竿の上のほう、ベルトの締めつけのない部分を握りしめ、獄寺は手を動かした。
「あっ、あ……」
グチュッ、グチュッ、と湿った音がするのは、先走りのせいだ。
「じゅ……じゅ、ぅ……」
竿を扱きながら獄寺は、綱吉を見つめる。まっすぐに目を合わせると、淡い榛色の瞳が優しく頷き返したような気がする。
「あ…ぅ……」
獄寺の唇の端から、たらりと涎が零れ落ちる。
綱吉の指がそれを拭い取ったかと思うと、舌でペロリと指についた唾液を舐め取る。
「どんな感じがする?」
尋ねられ、獄寺はパクパクと口を動かした。声を出そうとするが、あ、とかう、とか、切羽詰まったような声しか出すことができない。
「気持ちよくって、声も出ない?」
気持ちよくなりたかった。綱吉の手で今すぐにでも、気持ちよくしてほしい。このコックベルトを外して、それから……。
はあっ、と息を乱して前屈みに獄寺が体を傾げると、綱吉の手がそれを抱き留めて元の姿勢に戻してしまう。
それから、コックベルトごと竿を握りしめられた。
「ビリビリしてるのが、オレの手にも伝わってくる」
小さく笑って綱吉が正直に感想を述べる。
「や……外、し……」
呂律の回らないたどたどしい口調で獄寺が懇願すると、綱吉はコックベルトとコントローラーとを繋げていた線を乱暴に外してしまう。ついで、竿と睾丸を締めつけていたベルトを順に外した。
「あ、……も、ぅ……嫌だ」
締めつけていたベルトが外れるが早いか、獄寺の性器が大きく震えた。先端の割れ目に滲む先走りが見る見るうちに盛り上がり、今にも窪みから零れ落ちそうだ。
綱吉の手が優しく獄寺の肩を抱き、自分のほうへと寄りかからせる。頬にかかる吐息がくすぐったくて、気持ちいい。
その間に綱吉のもう一方の手は獄寺の竿を握り、優しい手つきで扱きだしている。
気持ちいい。このまま射精してしまえたら、どんなに気持ちいいだろうか。そんなことを考えて獄寺は、綱吉の腕にしがみついた。
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