とっておきのプレゼント 3

  大きく足を開かされ、腰の下に枕を押し込められた。上体がわずかに起きあがり、コックベルトに締めつけられたペニスがフルッ、と震えるのが獄寺の目にもわかる。
  いやらしいと思った。色の薄い性器に革の戒めを取り着けられ、そのくせ締めつける感触に感じて、先端からは先走りをだらだらと溢れさせている。
「あ……、あぁ……」
  恥ずかしくて、いやらしい様子に、獄寺は咄嗟に目をぎゅっと瞑る。見ていられなかった。
「じっとしててね」
  そう言って綱吉は、コントローラーのコード線をベルトに差し込んだ。
  咄嗟に獄寺は固定された腕でシーツを握りしめていた。てのひらが、これからされるだろうことを予想してか、緊張でじっとりと汗ばんでくる。
「十代目……」
  怖いからやめてくださいと言いたかった。綱吉が手にしたコントローラーのスイッチを入れるだけで、コックベルトに電流が流れるのだ。微弱電流だとは聞いているが、どれほどのものか、獄寺は知らない。怖い。
  涙目で綱吉のほうへと視線を向けるが、恋人はコントローラーを獄寺の手の届かないところへとやってしまった。
「もうちょっと気分が乗ってきたら使ってあげるね」
  そう言って、獄寺の鼻先に、唇にと軽いタッチのキスを落としてくる。
  このまま抱かれるのは怖い。だが、ベルトに戒められた性器が辛くて、一刻も早く解放してほしくてたまらないのもまた事実だった。
  震えそうになる唇をぎり、と噛み締めていると、綱吉にくちづけられた。
  いつもとかわりない、優しいキスに獄寺はホッとして唇をうっすらと緩める。すぐに綱吉の舌先が口腔内へと侵入をしてきた。
  クチュ、と音を立てながら舌を吸われると、獄寺のペニスは痛いほど張りつめ、それがためにベルトによって締めつけられた。
「んんっ、く……ぅ……」
  ヒクン、ヒクン、とペニスが脈打ち、鈴口からドロリとした先走りが洩れ出す。
「あ、あ……」
  痛いのと、気持ちいいのと、苦しいのと。いったいどの感覚を自分は今、感じているのだろうか。獄寺は喉をひくつかせて握りしめたシーツを手繰り寄せようとする。
「少しだけ、期待してるだろ?」
  断定するように綱吉が言った。
「気持ちよくなれるんじゃないか、って。そう、思ってるだろう?」
  本当に気持ちよくなれるのなら、微弱電流を流されるくらい、どうということはないだろう。獄寺は綱吉のことを信じている。だから少しくらいの無茶は、笑って受け入れようと思っていた。だが、これは……今日のこれは、少し違うのではないだろうか。
  怖々と獄寺は、首を横に振った。
  信じられないのは、綱吉にこのコックベルトを勧めた白蘭だ。あの男はいったい、何を思って綱吉にコックベルトを恋人へのプレゼントとして勧めたのだろうか。
  なによりも、こんなものに翻弄されている自分が惨めでならない。
  こんなふうに抱かれるのは嫌だ。いつもとかわらない、普通でよかったのにと獄寺は思う。
「大丈夫だよ。ちゃんと気持ちよくなれるから」
  綱吉は、獄寺の太股の付け根に唇を寄せた。チュ、と音を立てて皮膚を吸い上げ、朱色の跡をひとつ、残す。
  大丈夫だと言われてこれほどまでに怖い思いをしたのは、初めてだ。綱吉を信じられないわけではないのだから我慢しようと思うのだが、どうしても体が震えてしまう。かかとに力を入れて体をずり上げてもすぐに元の位置に戻されてしまうのも、綱吉の執着がそれだけ強いように思えて怖くてならない。
  そして、怖くてたまらないのに綱吉にそれをはっきりと告げることのできない自分がいちばん嫌だと、獄寺は思った。



  コックベルトにコントローラーの線が繋がっていることが気になって、獄寺は仕方がない。
  股の間に体を割り込ませた綱吉は、今のところはまだ、コントローラーのスイッチを入れようという気にはならないように見えたが、いつ気紛れにスイッチを入れようとするかわかったものではない。
  白蘭のやつ、覚えてろよと思いながらも獄寺は、ちらちらと綱吉の様子をうかがっている。コントローラーは綱吉のジャケットの内ポケットの中だ。あれを取り上げようと思うと、まずはベルトで固定されてしまった自分の腕をなんとかしなければならない。腕を動かしてみるが、ベルトは固く結ばれていて、自力でベルトを外すことはできそうにない。
  それこそ綱吉の気分が乗ってきでもしたら、この腕のベルトは外してもらえるかもしれない。そうしたらコントローラーを奪い取って、それからコックベルトを外せばいい。我ながらいい考えだと獄寺が思っていると、それに気づいたのか綱吉が先手を打ってくる。
「今日は、腕は縛ったままでしようね」
  そう言われてしまえば、獄寺にはもうどうしようもない。
「やっ……」
  焦ったように急に暴れ出し、少しでも綱吉から離れようとして獄寺は身を捩る。
  綱吉のいいようにされるのは嫌ではなかったが、今日のこのプレイは嫌だと獄寺ははっきりと思った。普段の綱吉ならきっと、獄寺君が痛い思いをするようなことはしたくないからと言ってしないようなプレイだと思うと、やはりこのコックベルトを勧めてきた白蘭が綱吉に対してなにかしたのではないかと疑ってしまう。
「や、め……」
  うつぶせになると獄寺は、ひとつに纏められた腕と足の力でシーツの上を這って逃げようとした。
  綱吉に抱かれる時に身の危険を感じたことは一度としてなかったが、今日は違う。
  なにをされるかわからない、だがなんとなく予想ができて、怖くてたまらない。
  今ここで綱吉を拒んだとしても、獄寺一人を責めることはできないはずだ。恋人同士になってこの十年、獄寺が本気で嫌がるようなことを綱吉はしたことがなかったのだから。
「やめましょう、十代目」
  ベッドの上で小さくなって獄寺がボソボソと言う。ここで綱吉を納得させることができなかったら、きっとこのままコックベルトで遊ばれてしまうだろうことは予測できた。だが、それだけは絶対に嫌だ。綱吉は気持ちよくなるから大丈夫だと請け合ってくれたが、今ひとつ信用はできない。
「やめるの?」
  逆に尋ね返され、獄寺は困ってしまった。
  綱吉は本当に、このコックベルトで獄寺が気持ちよくなることができると信じているのだろうか?
「あ……」
  どうしようか。獄寺の内に一瞬、迷いが生じる。綱吉は気持ちよくなると言っている。だったら、怖がってばかりいないで綱吉の言うとおりにしてみたらどうだろうか。そんなふうに獄寺の理性が囁きかけてくる。
  だが、まだ怖く思っている部分もあるにはあるのだ。
「あの……手を……」
  獄寺は思いきって綱吉に正直に話すことにした。
  手を拘束しているベルトを外してほしいこと、それから、コックベルトは嫌だと言ったらその時点で速やかに外すということを約束させて、ようやく獄寺は綱吉の言うことを聞くことにした。
  いつも通りの恋人同士の時間というのが、戻ってくる。
  そう信じていた。



  綱吉のものを背後から受け入れた獄寺は、四つん這いになって腰を振っていた。
  気持ちいいのと、苦しいのとで、頭がおかしくなりそうだった。
  綱吉の性器が獄寺の中をかき混ぜ、突き上げてくる。容赦なく抜き差しされて、結合部がグチュグチュと湿った音を立てている。
  いつもならもうとっくにイッている。それなのにコックベルトのせいで獄寺は、達することができないでいる。
  いくら四肢を踏ん張っても、綱吉に突き上げられ、擦り上げられるとそれだけで獄寺の全身から力が抜けていきそうになる。
「あっ、あ……くっ、ふ……」
  尻の穴が収縮して、綱吉を締め上げる。内壁が蠢き、綱吉の竿を包み込み、奥へと飲み込むような動きを見せている。それなのに、まだイけない。
  ペニスを拘束するコックベルトが忌々しい。
  何度か手を伸ばして外そうとしたが、無理だった。
  そのたびに綱吉が気づいて、獄寺の手を払ってしまうのだ。一度などは、獄寺の手が竿に絡みつくベルトを掴んだまさにその瞬間に、綱吉の手が獄寺の手ごと竿を握りしめてしまった。
  ベルトを装着したまま竿を扱かれ、痛いやら苦しいやら気持ちいいやらで、息も絶え絶えの状態にされてしまった。
  それでも、もう獄寺には嫌と言うことはできない。
  綱吉の言葉に従うしかないのだということは、自分でも理解している。
  怖かろうが辛かろうが、そして痛かろうが、自分は綱吉のために体を開き、セックスをする。嫌々しているわけではない……と、思う。
  恋人同士のプレイとして、享受することを自ら決心したというだけだ。
「ぁ、う……」
  シーツにペニスの先端を押しつけると、少しばかりの快感を得られることはわかっている。コックベルトがなければそのまま達してしまうこともできるのに、歯がゆくて仕方がない。
  革の縁が竿に食い込むのが辛くてたまらない。
  腰を振りながら性器をシーツになすりつけていると、その動きに気づいた綱吉が、獄寺の体をぐい、と引き寄せた。
「……は、ぅぅっ!」
  綱吉の膝の上に座り込むような格好で体を引き起こされ、そのまま下から突き上げられてしまう。
「や…あぁぁ……!」
  背を反らしたのは、綱吉の手が、獄寺の性器をぎゅっと握りしめたからだ。
  ベルトの上から竿を扱かれ、先端を指の腹で擦り上げられた。強い快感が腹の底からこみ上げてきては、皮膚の下で燻っている。
  内壁を擦り上げるスピードが増し、何度も奥のほうを大きく突き上げられた。
  息が乱れ、頭の芯がボーっと痺れたようになって……獄寺がブルッと体を震わせた瞬間、体の中で綱吉の性器が大きく膨れるような感じがする。途端に、ドロリとしたもので中をいっぱいに満たされた。
  それでも獄寺の体の熱は収まらない。
  あと少しでイけそうなのに、コックベルトがペニスを締めつけているせいで、獄寺だけが達することができないでいる。
「じゅ、だ……俺も……」
  背後を振り返り、獄寺が訴える。
  綱吉は獄寺の体から離れると、獄寺の体を仰向けにさせた。



(2012.8.31)
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