緋色の月 2

  煌々と光を投げかける室内灯の下で、焦れったそうに白い裸体が身を捩る。
  強すぎる照明のせいで、白い肌が光を反射して目に眩しい。綱吉は目を細めると、改めて獄寺の身体をじっと見つめる。
「じゅ…だ、い…め……」
  はあ、と息を荒げながら獄寺が膝をにじり合わせる。太股の奥、尻の狭間に見えているのはピンク色の可愛らしいサイズのローターだ。
「獄寺君……山本とシャマルに、こんな格好にされたの?」
  尋ねながらも綱吉の中で、いい知れないざわざわとした気持ちが沸き起こる。自分ではなく、あの二人が獄寺をこんなあられもない格好にしたのだと思うと、悔しくてならない。恋人である自分を差し置いて、許せない。
「んっ……シャ……シャマルのヤツには、……薬を、盛られました」
「山本は? 山本はその間、なにを?」
  気持ちが高ぶって、綱吉の語調が強くなる。
「山本…は、……アイツは、俺の体が動かない間に刺身を……」
  その言葉に、綱吉は頷かざるを得なかった。獄寺の身体に刺身を見た目も彩りもよく盛りつけようと思えば、実家が寿司屋で手伝いをすることのある山本なら慣れているだろう。
「じゃあ……」
  と、綱吉は微かな振動音を響かせるローターをやんわりと獄寺の中に押し込む。
「ん、あ……ぁ……」
  途端に獄寺の体が大きく震え、立て膝にした膝がカクカクとなる。
「これを……獄寺君のココに入れたのは、山本? それともシャマル?」
  いくらなんでも酷すぎると綱吉は思った。
  曲がりなりにも綱吉の恋人なのだ、獄寺は。彼は、こんなふうに辱められていい人ではない。それに。こういうことをするは、恋人の自分だけに許されたある種の特権でもあるのではないだろうか。
「どっちがしたの?」
  こんな酷いことをするからには、それ相応の……あまり口にしたい言葉ではないが、報復を、覚悟しているということだろうか?
「ゃ……ま……がっ……」
  山本? と、綱吉は獄寺の顔を覗き込む。
  はあっ、と息を吐き出し、獄寺はテーブルの上で身悶えた。
  こくこくと頷く獄寺の瞳は濡れたエメラルドのようにしっとりと涙で潤んでいる。
「苦しいの?」
  尋ねながらも綱吉の手は、獄寺の後ろに埋め込まれたローターを掻き回している。グチュ、グチュッ、と湿った音がするのは、ローターを挿入する時に潤滑剤を使われたからだろうか。
「あっ……や、十代目っ……」
  獄寺の白い腹がビクビクと震えている。艶めかしくて、色っぽい。綱吉は手首に力を入れるとローターで獄寺の中を掻き回した。



「はっ、あ……ああ……!」
  カクカクと揺れる膝が焦れったそうにすりあわされ、震えている。
「も、やめ……じゅ…代、め……」
  息も切れ切れに獄寺が訴える姿を、綱吉はじっと見つめている。
「ねえ、さっきから気になってたんだけど……これ、なんでこんなところにあるのかな?」
  不意に思い出したように、綱吉が声をかける。
  獄寺の足の間に置かれた猪口を取り上げ、獄寺にもよく見えるようにと掲げてみせる。猪口のそばにある徳利を見れば一目瞭然だが、位置が気になって仕方がなかったのだ。
「あ……それ、は……」
  困ったように獄寺が目元の朱を深くする。
「なに? どうして獄寺君の足の間に置いてあるんだろう。こんなところよりテーブルの手前にでも置いておけばいいのにね」
  さらりと言って、綱吉は獄寺の様子をうかがう。
「じっ……十代目に、お酒を飲んでいただこうと……」
  説明をする獄寺の声が震えているのは、気のせいではないだろう。
「どうやって?」
  すかさず尋ねると、艶めかしくも獄寺が睨みつけてくる。まるで、そんなこと訊かないでくれと言いたげな表情に、綱吉は微かな笑みを浮かべる。
「さ……竿酒だと……」
  そう言うと獄寺は、眉間の皺をいっそう深くして綱吉を見つめてくる。睨んでいるわけではないのだ。山本とシャマルの二人にいいようにされてしまったことが悔しくてならないのだ。
「日本の伝統だから、じゅ…十代目が……きっと喜ん、で……」
  言いながらも恥ずかしくなってきたのだろう、獄寺の言葉が少しずつ小さくなっていく。
「伝統って……そんなわけないじゃん」
  呆れながらも綱吉はあっさり獄寺の言葉を遮った。確かに、一部の好事家たちには伝統かもしれないが、自分は違うと綱吉は思う。こんなことを恋人にして欲しいと思ったことは、たぶん、おそらく、一度もない……と、思う。
  山本とシャマルのどちらが考えたのかは問題ではない。それよりも、山本だ。中学以来の親友は、最近頓にオヤジ臭いことをするようになってきている。一度、きつく注意をしておいたほうがいいかもしれないと綱吉は胸の隅に書き留めておく。
「えっ……じゃあ……それでは、あの……」
  今にも泣きだしてしまいそうな表情で、獄寺は呆然と呟いた。
「たぶん、からかわれたんだと思う」
  色恋に関しては少しばかり奥手な感のする獄寺を心配して、きっと山本とシャマルの二人が企んだのだろう。ちょうど綱吉の誕生日だからと、それを理由に強引に獄寺に持ちかけたのかもしれない。
  素っ裸のままテーブルの上に横たわる獄寺の顔が、スーッと青ざめていく。



「そんな……」
  震える声で獄寺が呟く。
  可哀想だなと思いながら綱吉は、そんな獄寺のこめかみに唇を寄せる。
「……でも、いただこうかな。せっかく獄寺君が体を張って用意してくれたんだし」
  言いながら綱吉は、獄寺の胸の尖りに指を這わせた。てのひらの下で、獄寺の身体がピクン、と震えるのが愛しくてたまらない。
「どうするのか、知ってる?」
  綱吉の言葉に、獄寺はコクリと頷いた。
  獄寺がこの姿をさせられる時に、山本とシャマルの二人からしっかりと言い聞かされているだろうことは容易に想像することができた。
  まったく、と綱吉は口の中で呟くと、獄寺の肩口を片手で抱える。それから獄寺の背中とテーブルの間に腕を差し込んだ。
「体、起こせる?」
  耳元で尋ねると、くすぐったいのか、獄寺が「あっ」と掠れた声をあげる。
「掴まってて」
  そう言って獄寺の上体を起こしてやる。
  体を起こしたことで、尻に埋め込まれたローターの振動がよりはっきりと感じられるようになったのか、獄寺は綱吉にしがみついた手にぎゅっと力を入れた。
「ぁ……んっ」
  声が洩れるのは、感じているからだ。
  さっきから勃起したままで今夜はまだ一度も触れていない獄寺の性器が、たらりと先走りを溢れさせるのを目にして、綱吉は目眩を感じた。
「ね、どうするの?」
  ローターのことはなにも言わず忘れたふりをして、綱吉は尋ねかけた。
  獄寺はのろのろと体を動かしてテーブルの上で正座をする。後ろ手にテーブルに手をつくと、上体をやや後ろへと反らした。尻の中のローターの振動が気になるのか、太股から膝のあたりがもじもじとしているように見える。
「十、代目……」
  早く、と、獄寺は喘いだ。甘い声だった。少し掠れた低い声に、綱吉の吐息がはあ、と乱れる。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
  そう告げると綱吉は、徳利を手に、獄寺の腹のあたりから勢いよく酒を注いだ。



  注がれる酒が、獄寺の腹筋を伝い、零れ落ちていく。
  臍を濡らし、陰毛を濡らし、腹と太股の間にできた窪みに、酒が溜まっていく。
「んっ、ん……」
  不快な感触がするのだろうか、獄寺がもぞもぞと身じろぎをすると、注ぎ込んだ酒が股の間からテーブルの上へチョロチョロと伝い落ちていく。
「ほら、しっかり太股閉じて」
  綱吉の言葉に獄寺は、慌てて太股に力を入れた。きゅっと太股の肉が締まると、テーブルの上の水たまりもそれ以上の広がりを見せようとはせず、緩やかなスピードで世界地図を描いていく。
「なんだかお漏らししたみたいに見えるよ、獄寺君」
  苦笑しながら綱吉が獄寺の尻のあたりでゆっくりと広がっていく水たまりを示す。
「ぅ……言わないでください、十代目」
  今度こそ本当に泣き出すのではないかと思うほど顔をくしゃくしゃにして、獄寺が言った。
  少しからかいすぎたかもしれない。綱吉は小さく「ごめん」と呟いた。
  それから、刺身から出た汁で湿り気を帯びた獄寺の肌に手を這わせた。鎖骨のあたりから指先ですーっと辿り下りて、臍の脇をちょん、とつつく。
  ヒクッ、と獄寺の腹筋が震える。
  股の間に顔を寄せると、ローターの振動する音が微かに聞こえてくる。なみなみと注がれた液体の表面がふるふると波打っているのは、ローターに中を掻き回された獄寺がもぞもぞと身を揺らしているからだ。
「は……早くっ、十代目!」
  獄寺が言葉を発するたびに、腹筋がヒクヒクと蠢く。艶めかしくもあり、淫靡でもあるその光景に、綱吉はゴクリ口の中に溜まっていた唾を飲み込んだ。
  ヒクついているのは腹筋だけではなかった。雁首をもたげた獄寺のペニスもまた、ヒクヒクと震えていた。先端には先走りを滲ませており、太股の窪んだところに注がれた酒を飲もうと綱吉が頭を近づけただけで、竿の側面がピクン、と震えるのが目に映る。
「触ってほしい? それとも……舐めてほしい?」
  尋ねると獄寺は、焦れったそうに首を横に振った。
「飲んでください……も、この格好、無理……」
  半べそをかきながら獄寺が訴える。
  獄寺の竿の部分をそっと握ると、酒を飲むのに邪魔にならないように手で支えてやる。窪んだ部分に注がれた酒を、舌を出してピチャピチャと舐める。
  ポタ、ポタ、と音がするのは、獄寺の股の間から酒が零れていっているからだ。
  酒を舐めるついでに綱吉は、獄寺の太股を舐め、竿の根本や袋をやんわりと舌先でつついた。太股がふるふると震える。きっと、全身に力を入れて必死になって耐えてくれているのだろう、この恋人は。
「あっ、あ……んんっ」
  手の中に包み込んだ獄寺のペニスがヒクヒクと蠢いて、大きく震える。
  後ろのほうへと背を反らしながら獄寺がぐい、と腰を突き出すような格好をすると、ペニスの先端からたらりと新たな先走りが溢れ出す。トロリと竿を伝い、股の窪みの酒に混じりこんだ白濁したものを、綱吉はジュル、と音を立てて吸い上げた。



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夜の欠片へ

(2011.9.24)



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