理性のたがが外れる瞬間というのは、意外と冷静なものなのだなと綱吉は思っていた。
背中を反らした獄寺の中で、ローターが暴れている。ヴヴヴ、と響く微かな振動音と、大きく竿を震わせると同時に弾けて飛び散った精液と、それから股の間から零れてしまった酒と。
それらが入り交じった光景を目の前にして、綱吉は自分の体がカッと熱くなるのを感じた。
「じゅ……じゅ、う…代、目ぇ……」
啜り泣くような声で獄寺が呼んでいる。
テーブルの上が汚れるのも構わずに綱吉は獄寺の身体を引き起こした。テーブルの上で四つん這いにさせると、尻の奥に潜り込みかけていたローターをズルズルと引きずり出す。
「ひっ……ぁ、あ……」
仰け反った獄寺の白い背に浮かんだ汗の粒をペロリと舐め取る。
そうする一方で綱吉の手は忙しなく自分のズボンの前をくつろげていた。下着の中から既に硬くなっているものを取り出すと、二度、三度、と軽く扱いただけで獄寺の尻に先端を押し当てる。
「十だっ……ああっ!」
ズブリ、と獄寺の窄まった部分にペニスを押し込むと、今し方まで中に入っていたローターのおかげか、内壁は包み込むようにして綱吉のペニスに縋りついてきた。
根本まで突き入れ、ズルズルと引きずり出す。
獄寺の上体がくたりとしなり、テーブルの上に突っ伏せる。
「そのまま、じっとしてて」
そう言うと綱吉は、獄寺の尻を両手で掴んで固定し、ガシガシと体を揺さぶり始めた。
「あ、あ……ひっ、ぅ、あ……」
綱吉が獄寺の中を擦り上げるたびに、ズチュ、ズチュ、と湿った音がしている。
内部はすでにぬめっていた。いったい山本とシャマルのどちらが、獄寺にこんなことをしたのだろうか。そう思うとますます綱吉の胸の内はざわめいて、嫉妬心のようなものが込み上げてくる。山本とシャマルも、獄寺に対して性的な興味を示すことは絶対にないとわかっているのに。
「あぁ……」
腰を高く突き上げた姿勢のまま、獄寺が喘ぎ声を洩らしている。
もっと泣かせたいと、不意に綱吉は思った。
自分しか知らない獄寺の表情を、見てみたい、と。
「あ……ゃ、十だぃ目……」
太股をブルブルと震わせながら、獄寺が懇願する。
その声を無視して綱吉は、獄寺の中に潜り込んでいたものをズルズルと引きずり出した。抜け落ちるギリギリまで引いて、一気に突き上げる。
「ああ……っ!」
ガツン、と腰をぶつけて、また中に埋め込まれた性器を引きずり出す。
「やめっ……」
啜り泣くような獄寺のか細い声が聞こえた。やめてくださいと口走る獄寺の表情を、この目で確かめてみたい。
もう一度ペニスを引きずり出して、今度はそのままズルリと引き抜いた。
支えを失った獄寺の腰が、くたりとテーブルに崩れ落ちる。
はっ、はっ、と息を荒げて獄寺はテーブルに突っ伏している。
「十代目……」
啜り泣くような獄寺の声が色っぽくて、たまらない。
綱吉は目の前でくたりとなった獄寺の腰にチュ、とキスをした。それから力の入らない体をグルンと返して、今度は仰向けにした。
「じゅ…代目……」
涙に濡れた瞳が、まるで翡翠のように潤んで見える。
「もうちょっと我慢してくれる?」
耳元に、囁きかける。
「んっ……」
ふるっ、と獄寺の身体が震える。
大きく足を開かせると、ヒクヒクとなっている窄まりに腰を押しつけていく。
「ぁ……焦らさな……っ」
ズブリ、と窄まった部分に綱吉のペニスが突き立てられる。腹につきそうなほどに反り返った獄寺のペニスの先端からトロリと先走りが溢れ出す。イキたくてイキたくて、仕方がないのだろう。自分から腰を揺らして綱吉の熱を求めるような仕草が、なんともいじらしい。
「焦らしてなんかないよ」
宥めるように耳たぶにやんわりと噛みつくと、綱吉はゆっくりと腰を打ちつけ始める。
ズブズブと埋め込まれていく自分の竿を凝視していたら、獄寺の手が結合部を隠すかのようにかざされた。
「……見ないでください」
そう懇願する獄寺の手に隠れたところで、窄まった部分がヒクヒクと綱吉を締めつけてくる。
見ないでもわかるんだけどねと胸の内で一人ごちてから、綱吉は行為を再開する。獄寺の手は気にせずに、ゆるゆると腰を動かす。下肢を隠す獄寺の手は微かに震えている。緩急をつけて突き上げてやると、獄寺の手が大きく揺れた。勃起して、先走りでドロドロになった自身の竿に腕があたり、それだけで腰を揺らめかせている。
「あっ、あ……」
眉間に刻まれた獄寺の皺が、より深くなる。
「早く……」
甘えるように獄寺が口走った。
綱吉は伸び上がると獄寺の顎の先にちょん、とくちづける。
「もう、我慢できない?」
わかっていても、尋ねたくなる。焦れて困ったような表情の獄寺を見る瞬間がほんの少し、綱吉は好きだった。
「ダ、メ……も、我慢、できません」
はあ、と息を吐き出し獄寺が告げる。
その途端に綱吉は、大きく腰を突き上げた。獄寺の片足が大きく跳ねて、すぐに綱吉の腰にしがみついてくる。
「……ぁ…ああっ!」
きゅうぅ、と獄寺の内壁が蠢いて、綱吉を締めつけてくる。腰を動かすと、なにもかも絞り尽くそうとするかのように内壁に包まれ、締めつけられ、綱吉は小さく呻いた。
体の下では獄寺が必死になって、綱吉にしがみついてきている。足を綱吉の腰に絡ませて、舌を突き出してキスを強請ってくる。
「くださっ……十…だぃ目……キス、して……」
潤んだ眼差しの獄寺に唇を合わせると、クチュ、と湿った音がする。
ざり、と唇ごと舌を舐めあげ、パクリと食らいつくときつく吸い上げた。
「ん、んっ……ぅ……」
しがみつく獄寺の腕が、綱吉の背中をガリ、と引っ掻く。
さらに二度、三度と突き上げると、合わせていた唇が外れ、獄寺の嬌声が上がった。
「あぁぁ……」
腹に、生暖かいものがパタパタと飛び散る感触がするが、綱吉のほうはそれに構っているどころではない。
はっ、はっ、と息を荒げながらいっそう激しく獄寺を突き上げ、追いつめていく。
「じゅ…ぅ……」
掠れた甘い声に煽られ、綱吉は獄寺の身体を揺さぶり続けた。
ベッドの上で仰向きに寝転んで、二人はぼんやりと天井を見つめている。
結局あの後、体の汚れを落とすために入ったバスルームでも事に及んだ。いつもと違うシチュエーションに二人とも神経が高ぶっていたのか、ベッドに入ってからもなかなか寝つくことが出来ず、天井を見上げたまま、ポツリポツリと言葉を交わして今に至る。
リビングの惨状を考えると、今から気が重くなる。
窓の向こう、ベランダの隅に覗く月は、相変わらず濁った緋色だ。少し前からとうとう降り出したのか、ポツリポツリと微かな雨音が聞こえてくる。
「……あの、おめでとうございました、十代目」
遅くなってしまいましたが、と言い置いて、獄寺がポツリと言った。
「え……あ、ああ、誕生日か。そうか、ありがとう、獄寺君」
改めて言われると、照れ臭いような気がしてならない。獄寺のあんな姿を見てしまったら、余計に気まずいような気持ちになってしまう。
「それにしても災難だったね」
だからさっきのことは気にしなくてもいいのだと言外に含ませて、綱吉はちらりと獄寺を見る。窓から入り込む月明かりの中で、獄寺の輪郭がぼんやりと闇に浮いている。
「あの、そのことはもう……」
言わないでくださいと言いかけた獄寺の頬に唇を寄せて、綱吉は囁いた。
「オレの誕生日プレゼントどうしようって、山本に相談したんだ?」
のしかかっていくと、綱吉の体の下で獄寺の身体がピクン、と震える。
「……はい」
素直な獄寺は、可愛い。だけどちょっと強気で生意気なところも、最近は可愛いと思えるようになってきた。昔はただ恐いだけだった獄寺の全てが、今の綱吉には可愛らしく思えるのだ。
「獄寺君のエッチな姿が見れてすごく嬉しかったけど……君はオレの恋人なんだから。そこんとこ、ちゃんと理解してくれないと」
耳の中に息を吹き込むと、またしても獄寺の身体が震える。
「確かに山本はオレの一番の親友だけどさ。獄寺君のあんな姿を山本が見たのかと思うと、ちょっと悔しいな」
そう言うと綱吉は、やわらかな耳たぶをカプリと甘噛みする。
「ん……っ」
咄嗟にしがみついてくる獄寺の指先が、綱吉の肌の上をするりと這う。誘われているような感覚がして、綱吉はほう、と溜息を零した。
「あれは……油断、してたんス……」
恨めしそうに言い訳をするところも、可愛らしくてならない。
「じゃあ、次からはオレに訊いて? オレのことなんだから、他の人に訊くなんてしないでさ」
綱吉の言葉に獄寺は、「わかりました」と甘く囁き返す。
鼻と鼻とを擦り合わせ、ゆっくりと唇を寄せ合うと啄むようなキスを繰り返す。
唇を離してふと顔を上げた綱吉は、窓の向こうの月に気がついた。雨に滲んだ月はいっそうぼんやりとしていたが、濡れた緋色をしている。その幻想的な様子は、リビングで嬌態を見せた今夜の獄寺のようでもあった。
「──すごく嬉しい誕生日プレゼントだったよ、獄寺君」
そう言って綱吉は、深く深く、獄寺にくちづけたのだった。
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