『月の香り 3』
「確かに……」
と、ゾロはちらと空を振り仰いだ。
雲一つない空の上で、青白い狂気の月が煌々と輝きを放っている。
「確かに、今夜の月は人を魅了する力があるのかもしれねぇな」
ゾロが肩を竦めると、耳を飾る三連のピアスが微かに揺らいだ。金属のぶつかる音が、まるで月の光が鳴っているように聞こえないでもない。
「そうだろ?」
ぱっと表情を輝かせてサンジが返すと、ゾロも頷いた。
「夢の中にいるみてぇだろ。目が覚めたら消えてしまう、儚い夢のようだ」
憂いを秘めたゾロの横顔が、ふたつの瞳が、すっと細められる。
サンジには、このままゾロが、月の光に吸い込まれてしまうのではないかと思えた。
「──…ゾロ」
口の中で低く呟くと、サンジは手を差し伸ばした。
無駄な肉ひとつついていないゾロの身体は筋肉質ではあったが、見た目より痩せている。
サンジはいきなりゾロの身体を抱きしめた。
優しく、そっと。
「おい、どうした?」
心配そうに声をかけてくるゾロの顎に一方の手を添えると、サンジは素早く唇を合わせた。
さっと掠めるようなサンジの口づけに、ゾロは呆然としている。
どうやら何があったのか、ゾロには今ひとつ把握し切れていないようだ。
「月に……酔ったみたいだ」
サンジが、言った。
彼のその言葉でゾロはようやく正気に返った。
何とかサンジの腕から抜け出そうとするのだが、強い力で抱きしめられていて逃げようにも逃げられない。本気で抵抗すればサンジの腕の中から抜け出すことぐらいどうということもないはずだったが、そこまでして逃げようとは考えていないようだ。
「おい。何を考えてる」
不満げにゾロが訊ねると、サンジはにやり、と口の端を歪めて笑った。
「だから言っただろう。月に酔ったみたいだ、って」
不意に、噛みつきそうな勢いで、サンジはゾロの唇を奪った。
何度も、何度も。
互いの息が上がって、口の端からどちらのものともわからない涎が糸を引いて垂れ落ちても、サンジはキスをやめなかった。
きっとこれは、月に酔ったせいだ。
サンジだけではない。ゾロもまた、今宵の月に酔っていたのだろう。自ら進んで唇を開くと、腔内にサンジの舌を招き入れた。舌が絡まり、吸い上げ、吸い上げられ、相手の歯の裏をなぞり合う。
息継ぎの合間にちらちらと相手の様子を窺いながら、二人は口づけを交わし合った。
いつの間にかゾロは見張り台の柱に背をもたせかけていた。
サンジの口づけを受けながら、互いに相手の身体をまさぐり合っている。
何故だろうと思うと同時に、抑止できない自分がそこにはいた。
どちらからともなく舌を絡め合い、相手のものと混ざり合った唾液を喉の奥へと流し込んでいく。
サンジの手がごく自然にシャツの裾から中へするりと侵入し、ゾロの引き締まった肌を撫で回している。
なだらかに隆起した筋肉質な腹から胸へと指でたどり、爪で軽く引っ掻く。マッサージをするように指の腹でなぞりあげ、胸の突起をきゅっと摘み上げた瞬間、ゾロの口から苦しそうな喘ぎ声が洩れてきた。
「なんだ、ムッツリだったのか……」
喉の奥で笑いながら、サンジは言った。
to be continued
(H15.8.1)
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