『月の香り 4』



  サンジの唇が離れた瞬間、ゾロは物欲しそうに唇をうっすらと開き、舌を突き出していた。
  艶めかしく蠢くあたたかな舌を、サンジは指先で軽くつつく。
  思いがけず、ゾロの舌は滑らかだった。女の舌にも似たしっとりとした滑らかさでやんわりとサンジの指を口に含み、丁寧にしゃぶっている。
「こりゃ、月のせいかな」
  呟いた瞬間、ゾロが上目遣いにサンジを見上げた。
  女、女しているというわけでもなく、かといって男というにはあまりにも色めきたった扇情的な眼差しに、サンジの身体がカッと熱を持ち始める。
  ますますもって月のせいだと言わざるを得ないような状況だ。
  ゾロの耳を飾る三連のピアスを軽く指で揺らすと、頬に手をあてる。顎のラインは間違いなく男のものだ。喉仏だってあるし、胸だってまっ平らだ。どこをどうしても女には見えない。
  それなのに何故、この身体に惹かれていくのだろう。
  何故、こんなにも触れたいと思ってしまうのだろうか。
「……どうかしたか?」
  訊ねかけるゾロの瞳は、邪心のない澄み渡った瞳だ。
  いったい彼は、サンジのことをどう思っているのだろうか。
「いや、月が…──」
  言い訳がましくサンジが口を開いた途端、ゾロのほうから口付けを仕掛けてきた。





  湿った音が二人の唇から洩れては、消えていく。
  ゾロの舌をきつく吸い上げると、喉の奥で猫が背中の毛を逆立てた時のような声が洩れた。それが面白くて、サンジは何度もゾロの舌を絡め取っては強く吸った。
  そうしながらも空いているほうの手は、ゾロの下半身へと這い降りていく。
  月の放つ魔力が、もしかしたら二人の心を支配してしまったのかもしれない。熱に浮かされたようにサンジは、ゾロのズボンの前に触れていく。拒まれたらその時はその時だと自分に言い聞かせながらも、ボタンをはずし、ファスナーをおろしていく。下着越しにゾロに触れると体中の血が集まったかのように熱く、硬くなっていた。
「これも……月のせいか?」
  呟きながら、サンジは布越しの感触に没頭していく。指先でゾロの中心をなぞりあげ、やわやわとてのひら全体で握ってやるだけで腰が跳ねそうになるのがはっきりと伝わってくる。
「くぁっ……ふっ、ぅぁ……」
  かたく目をつぶったゾロは、額をサンジの肩に押し当ててきた。
  表情が見えなくなったのは残念だった。いったいゾロは、どんな表情をしているのだろうか。そのかわり、サンジはゾロの髪に、キスを繰り返し落とした。表情が見えない分を補おうと、優しく優しく、甘いキスを落とした。





  いつの間にかゾロの服は胸の上まで引き上げられていた。下衣もかろうじて片足に残っている程度で、ほとんど何も身につけていない状態だ。月明かりの下で、ゾロの鍛えられた筋肉が緩やかな身体のラインを描いている。男のサンジが見ても惚れ惚れとする体格だ。
「──…はっ……!」
  焦らすように胸の大傷を舌先で嘗め上げた瞬間、ゾロの身体がビク、と震えた。
「いい? 気持ちいいのか?」
  ゾロの耳元で、サンジが囁きかける。
「ぃ……んっ……」
  唇の端を噛み締めたゾロは、鋭い眼光でもってサンジを睨み付けた。
「…くっ……脱げよ、てめぇも!」
  そう言うとゾロは、サンジのズボンに手をかけ、カチャカチャとベルトを外し始める。が、何を焦っているのか、なかなかバックルの金具が外れない。息を荒げながらゾロは、ベルトを外そうと躍起になっていた。
「そう焦んなさんな、って」
  サンジは微かに鼻で笑うと、ゾロの手に自分の手を添えた。
「待っててくれ、すぐに仕度するから」
  山ほどの女にかけた言葉を、サンジは何気なく口にした。
  まさかこの言葉を男に、しかも仲間だと思っていた男に向かってかけることになろうとは思ってもいなかった。だいたい、同じ男同士で何故、自分はこんなことをしているのだろう。何もかもすべてを月のせいにしてしまうには、心が傷むような気もする。
  下着ごとズボンを脱いだサンジは衣類を床に置き、ゾロを見つめた。





  くちゅ、と股間で卑猥な音がする。
  膝立ちの姿勢でゾロは柱にもたれていた。サンジの両肩をがし、と掴み、必死になって身体を支えようとしている。
「ぁっ……あ、あ……」
  サンジの舌先が、ゾロを嘗め回していた。
  なだらかな隆起を舌先でちろちろとなぞると、ビクン、ビクン、と震え、甘酸っぱい香りの液をゾロは溢れさせる。
  欲情して掠れたゾロの声は、どんな女の喘ぎ声よりもサンジの下半身に響いてくる。
「やべ……テンション上がりすぎたかも……」
  股の間から顔を離したサンジは、苦笑してゾロの顔を覗きこんだ。
「バカか、てめぇは。ガキみたいにがっついてんじゃねぇよ」
  ゾロが、同じように苦笑しながら呟いた。






to be continued
(H15.8.4)



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