LOVE IS 2−4

  そぼ降る雨の中を兵士たちの一隊が城へと戻ってきたらしいという話を聞いたのは、夕方、遅くなってからのことだった。
  ちょうどサンジが厨房の手伝いをしていた時のことだ。
  昼過ぎに伝令と一緒にウソップが戻ってきたことはサンジも知っていたが、シャンクスやベックマンと一緒に謁見室に入ったきりで、まだ誰も部屋から出てきていなかった。
  厨房の手伝いがおろそかにならないよう、サンジは自分を戒め戒め、厨房で立ち居働いている。
  ともすれば思考はウソップのほうへといきがちで、気付くとつい、エースの様態を気にしている自分がいる。
  ゾロからも大丈夫だと言われたものの、それでも心配で心配で仕方がないのはきっと、エースがサンジの幼馴染みだからだ。そうでなければ、こんなにも気を揉むことはないはずだ。
  ようやく厨房が一息ついたところで、サンジは休憩をもらった。ホットミルクに蜂蜜とブランデーを垂らしたものを飲みながら厨房脇の小さな休憩室に移動して、軽めの夕食をとった。
  食堂に行けば、エースの話を耳にすることがあるだろう。それを恐れてサンジは、あえて休憩室で食事をすることにしたのだ。
  エンドウ豆のスープを平らげたところで、足音が聞こえた。
  厨房からの足音ではなく、広間のほうからやってくる足音に、サンジの手がしばし止まる。
「なんだ、こんなところで食事をしているのか?」
  声をかけられた瞬間、サンジの胸の鼓動がトクン、と大きく鳴った。
「あ…あ、厨房が一区切りついたから、休憩するように言われたんだ」
  何でもないふうを装って、サンジは返す。
「へえ。そうなんだ?」
  そう言って、エースはひょい、とサンジの顔を覗き込んできた。
  久しぶりに見るエースの顔は少し青ざめているようだったが、そこそこ元気そうだった。
「無事、だったんだ……」
  言いながら、サンジの声が涙声に変わっていく。
  心配をする必要などないと言ったゾロの言葉が、不意にサンジの耳の中に蘇ってくる。
「ああ、まあ、な」
  そう言ってエースは、歯茎を剥き出しにして大きく笑った。



  厨房からエースの分の食事をもらってくると、休憩室で二人きりで夕食を食べた。
  椅子は一つしかなかったため、エースはテーブルの端に腰掛けて食事を取った。
「どうだ、フーシャは。これでもずいぶんとマシになったんだぜ」
  笑いながらエースが話す。
  領土のあちこちで紛争が続いているとはいえ、城下町は賑やかだと聞く。シャンクスを始め、実質的にはフーシャの跡取りになるエースとルフィがここで頑張っている限り、この国の混乱もそう遠くない未来には消えてなくなっているかもしれない。
「いいな、ここは」
  ぽそりと、サンジは告げた。
「だろ?」
  また、エースが笑った。
  怪我をしたと聞いたものの、エースの体には怪我らしい大きな怪我は見あたらなかった。かわりに、小さなかすり傷が体のあちこちについている。鼻の頭についたひっかき傷に、サンジはさっきから目を奪われている。
「鼻の頭、どうかしたのか?」
  他のひっかき傷と一緒についた傷なのだろうということは何とはなしに推測できたが、それにしても、こんなにも全身傷だらけになるような怪我というのは、いったい何をやらかせばできるものなのだろうか。
「ああ、これな」
  と、エースは顔をしかめて鼻の頭をかりかりと指で掻く。
  茶色くなったかさぶたが、実際の年齢よりもエースを幼く見せている。
「やめろよ、跡が残る」
  慌ててサンジはエースの手を掴んだ。
「せっかくの男前が台無しだ……」
  そう言うとサンジは、そっと鼻の頭を撫でてやる。
「あとで、ジジィにもらった軟膏を塗ってやるよ。よく効くんだぜ?」
  宥めるようなサンジの言葉に、エースは頬を緩めた。
「心配してくれる人がいるってのは、いいもんだな」
  嬉しそうなエースの表情に、サンジは手を引っ込めようとした。が、それよりも早く、エースの手がサンジの腕を掴んでいた。力強いエースの手は大きく、ゾロの手のようにごつごつとしている。
  気まずい空気が流れ、何か喋らなければとサンジは思った。気の利いた言葉のひとつとして浮かんでこない自分を恨めしく思いながらサンジは、あどけない輝きを放つエースの瞳を見つめていた。
  腕を掴まれたままその場でじっとしていると、唇に触れるだけの掠れるようなキスが降りてきた。



  どれぐらい時間が流れたのだろう。
  カタンと廊下で音がした。
「なんだ、こんなところにいたのか」
  声がかかったところでサンジははっと我に返った。
  休憩室の入り口に、ゾロが立ち尽くしていた。
  いつもと同じ、何を考えているのかよくわからない表情で、手には夕食のトレーを持っている。
「よ、久しぶりだな」
  あっけらかんとした様子でエースが声をかけるとゾロは、まあな、と、口の端をつりあげて笑った。
「シャンクスは、なんて言ってた?」
  パンを頬張りながらエースが尋ねると、ゾロは肩をすくめた。
「これからウソップを連れて夜警に出ることになった。北の砂漠で小競り合いが続いているらしい」
「今頃からか?」
  不安そうに眉を寄せて口を挟んだのは、サンジだ。
「このメシをかっ込んだら、出発だ」
  さらりとゾロが言ってのける。
「こんな時間から大手を振って外出とは、羨ましいこった」
  そう言ってエースは、豆スープをずずずと啜った。ついでにサンジの皿に残っていたベーコンを摘み上げると、一口で平らげてしまった。
「かわってやろうか?」
  ニヤリと笑ってゾロが尋ねると、エースは呆れたような表情でゾロの顔をまじまじと見つめ返した。
「……そんなことをしたら、シャンクスから大目玉を食らうだろうな」
  ぽつりと言うと、エースはがっくりと肩を落とした。
  ゾロは、面白そうにそんなエースを見つめている。
  サンジが知っているいつものゾロでもなく、いつものエースでもない二人がそこには、いた。サンジは呆然と二人のやりとりを眺めていた。
  食事を平らげてしまうとエースは、任務の報告をしなければならないからと、休憩室を出ていった。
  二人きりになった途端、サンジはどうにも居心地が悪く、もぞもぞと椅子に腰掛け直した。
  さっき、エースにキスをされたのを、見られてしまっただろうか? そんなことがふと脳裏を掠めたが、気にしないことにした。
「もう、出かけるのか?」
  不安そうにサンジが尋ねると、ゾロはフン、と鼻を鳴らした。
「エースが報告に行ったから、もう少し後になるだろうな」
  そう言ってゾロは、休憩室を後にしようとする。
「待って……ゾロ、待てって!」
  咄嗟にサンジの手が、ゾロの腕を掴んでいた。
  何故、こんなことをしてしまったのだろうと、戸惑いながらもサンジは、ゾロの腕から自分の手をそっと離した。
「なんだ、心配なのか?」
  笑いながらゾロが尋ねる。
  そうではないと言い切れない自分がいる。サンジは微かに頷いて、ゾロの体にそっと腕を回した。
「……外に出ていったヤツらは、誰かしら怪我をしてここに戻ってくる。エースだって、そうだ。怪我なんてするようなヤツじゃないと思っていたのに…そりゃ、怪我自体はたいしたことないのかもしれないけれど、心配しながら誰かが戻ってくるのをじっと待つのは嫌なんだ、俺は」
  そう言うとサンジは、すん、と鼻を啜った。
「お前が怪我をしないと絶対に言い切ることは、できないだろう?」
  その言葉に、ゾロは眉をピクリとつりあげた。眉間に皺を刻み、中空を睨みつけている。
「怪我は、して当然だ」
  喉の奥から絞り出すようにして、ゾロは告げた。



「俺は、傭兵だからな。怪我のない戦いなんて、したこともねえ」
  その場の空気がかわったのが、サンジにもわかった。
  肌にピリピリとくる怒気を発しながらもゾロは、サンジの体を抱きしめるだけにした。
「……わかってる」
  言葉足らずな自分を情けなく思いながらサンジは、ゾロにしがみついていく。もっとうまく言葉を伝えることができたらいいのにと、思わずにはいられない。
「どれぐらいで戻ってくるんだ?」
  掠れる声で尋ねると、髪に優しくくちづけられた。
「ウソップが一緒だからな、そう長くはかからないだろう」
  筋肉質な体から、汗のにおいがただよってきている。ゾロのにおいだ。微かにサンジは笑って、そっと手を伸ばした。バックルの金具を音を立てて外すと、ゾロの下衣の中に手を突っ込んだ。
「お前のにおいが、欲しい」
  そう言うとサンジは、床に跪いた。
  下衣の中からゾロの性器を取り出すと、くたりとなって力無く項垂れていた。先端に唇を押し当て、舌先でゆっくりと亀頭を舐め回す。小便と汗のにおいのするペニスを口に含むと、ドクン、と竿が大きく脈打つのが感じられた。
「ん…んんんっ……」
  唇を窄めて竿を締めつける。ゆっくりと顎を動かすと、萎れていた花が起きあがるように、ペニスが勃ちあがってきた。
「んっ、ぅぅぅ」
  先走りの液が唾液と入り交じり、口の中でいっぱいになった。溢れた分は、唇の端からだらだらと伝い落ちていく。
「サンジ……」
  ちゅぷ、と音を立てて舌を動かした。吸い上げ、舐め回し、喉の奥に当たりそうなぐらいまで深く竿をくわえこむと、ちらりと上目遣いにゾロの顔を見た。
「すぐに戻ってくるから、いい子にしてるんだぞ」
  ゾロが言うと、サンジは微かに笑った。
  そのまま、竿をむしゃぶり続けた。
  何度か途中でえずきかけたが、それでもサンジは必死でペニスを舐め回し続けた。



  口の中いっぱいにえぐみのある青臭いにおいが広がった。
  喉を鳴らして精液を飲み下しかけたところで、ゾロの手がサンジの頭をぐい、と押しやる。
  ぷるん、とサンジの口の中から抜け出したペニスから、残滓が飛び散った。
「ん、ふ……」
  サンジの顔にかかった精液を、ゾロは慌てて袖口でぬぐってやった。
「大丈夫か?」
  尋ねると、サンジは飲み干すことのできなかった精液を唇の端からたらりと零しながら笑った。
「ごめ……うまく、できね……」
  もどかしそうな眼差しのサンジが、ひどく色っぽい。うっすらとあけた唇はあどけないのに、いつの間にか、こんなにも艶っぽくなってしまった。
「気にするな」
  優しくゾロは、サンジの体を引き寄せた。
  色白の肌に唇を寄せ、肩口の柔らかい部分を吸い上げると鮮やかな朱色の印が残される。
「ここで抱いてもいいか?」
  尋ねながらもゾロは、サンジの体をテーブルに押しつけていた。尻を突き出させるような格好をさせると、白い双丘にペロリと舌を這わせた。
「んっ、ぁ……」
  カタン、と、テーブルが揺れる。
  足の長さの違うテーブルは、サンジが体を震わせると、それにあわせて音を立てた。
「お前が戻ってくるまで一人でも大丈夫なように、中に、いっぱい残していけ」
  掠れた声でサンジは口早に告げる。
  今、誰がここに来ても構わないと、サンジは思った。



To be continued
(2008.11.22)



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