式の時にはひんやりとしていた獄寺の唇が、今はあたたかかった。
血の通った人間の唇だと思うとホッとする。
唇が離れると、獄寺は真っ赤な顔をしていた。恥ずかしそうに、しかししっかりと見開いた目で、綱吉を見上げている。
「キスの時には、目は閉じるんだよ」
綱吉はそう言うと獄寺の鼻先をちょん、と指の先で軽くつついた。
「は……はい」
純情そうなこの男の子が、可愛くてたまらない。綱吉はもう一度、獄寺の唇にキスをした。今度は深く唇を合わせると、執拗に下唇を吸い上げる。
「んっ、ん……」
苦しそうに獄寺がもがいている。綱吉の腕にしがみついて、一生懸命に首を傾け、唇を合わせようとしている。
あまりにも健気な様子が、綱吉の中の嗜虐性を呼び覚ましてもおかしくはなかった。
「気持ちいい?」
唇を離して尋ねると、獄寺はコクコクと頷いた。
「もっと……しても、いい?」
「……して、ください」
きっと獄寺は、あまりよく考えずに言葉を返しているのだろうと綱吉は思った。自分はキスのことを言ったわけではない。キスだけでなく、他のことを試してみたいと、そういう意味で言ったのだ。
「じゃあ、今夜は少しだけ」
そう言って綱吉は、パジャマの上から獄寺のほそっこい体に手を這わせた。
戸惑うように獄寺が身を竦めると、綱吉はさらさらの銀髪や頬や耳たぶにチュ、チュ、とキスを与えていく。
「嫌じゃない?」
綱吉の手が、パジャマ越しに獄寺の胸の突起を探し当てる。膨らみも何もない、真っ平らで痩せすぎた男の子の体だ。布地の上から爪の先で胸の先を何度も擦ると、突起が硬くなって勃ちあがってくるのが感じられる。
「嫌じゃ…ない、です」
もぞもぞと、綱吉の腕の中で落ち着きなく身を捩りながら獄寺は答えた。
「……ここ、ちょっとずつ硬くなってきてるね」
布地ごときゅっ、と乳首を摘むと、腕の中の獄寺の体にさっと緊張が走る。
「ぁ……っ」
微かな声が獄寺の口から洩れた。幼く、甘い声だ。
片手で乳首を摘んだり引っ掻いたりしながら、もう一方の手で綱吉は、パジャマのボタンを外し始めた。
獄寺はそれでも従順に、綱吉にされるままじっとしていた。
腕の中の華奢な体は微かに震えている。
快感に震えているのなら綱吉も安心しただろうが、そうではないことがはっきりとわかっていた。
性的な経験に乏しい十四歳の少年を、どうやって抱けばいいのか、綱吉にもわからない。 わかっているのは、適当なところでさっと身を引いておかなければ、獄寺がセックスを怖がるようになるかもしれないということだけだ。
声を堪える獄寺は健気で、いじらしく見えた。
腕の中で震えながら、それでも綱吉の愛撫に耐えている。目をぎゅっと閉じて、綱吉の腕に捕まり、全身で耐えている。
素肌に手を這わすと、細い体はひんやりとしていた。
乳首を指の腹で摘んで擦り合わせると、気持ちいいのか獄寺は立て膝にした足をもじもじさせた。
「ゃ……」
掠れる声を上げると同時に獄寺は、自分の手で口を覆った。そうすることで声が漏れないようにしているのだろう。
綱吉は腕の中の獄寺を抱え直すと、耳元に唇を寄せた。
「……恐い?」
尋ねると、躊躇いがちに獄寺は小さく頷いた。
当然だろう。これから自分よりも体格の大きな男に犯されるのだ。今日、最後までしなくても、一緒に暮らしていく限り、いつかは最後まですることになるだろう。恐くないほうがどうかしている。
「じゃあ、しっかりオレに捕まって、目を閉じてるんだよ。後は……何も考えなくていいから」
そう言うと綱吉は、胡座をかいた自分の膝の上に獄寺を横抱きに座らせた。
「手は、ここ」
獄寺の手を取り、自分の肩に掴まらせる。
「目、閉じてごらん」
優しく囁くと、獄寺は言われたとおり目を閉じた。力を入れすぎたのか、眉間にぎゅっと皺が寄っている。
「世間慣れしてなさそうなところが可愛いね」
フゥ太の調書によると、獄寺は幼い頃に母を亡くしている。母の死後、ようやく獄寺の居所を探し当てた父の屋敷へ連れて行かれたものの、なかなか新しい生活に馴染むことができなかったらしい。拗ねて大人たちを避けたり、ビアンキや父親との衝突が何度もあったと言うものの、獄寺はあまり世慣れていないような感じがする。
獄寺の唇を唇で押し開くと、食いしばっていた歯が躊躇いがちに緩んでいく。舌先で唇や、その奥の歯列をなぞってやると、驚いたように獄寺の体が逃げようとする。綱吉の肩を掴んだ手が、今はぐいぐいと押し返してきている。
「んっ……んー……!」
チュ、と音を立てて唇を吸い上げ、同時に胸の突起を少し強く引っ掻くと、獄寺の体がビクン、と震える。
反応の一つひとつが可愛らしく、初に思える。
もっと見たいと綱吉は思った。獄寺がどんな反応を示すのか、ひとつずつ確かめていきたい。
キスした時の反応、キスの後の表情、首筋に触れた時、乳首に触れた時、そこからもっと下の……まだ淡い陰毛や性器に触れた時に、獄寺がどんな反応を示し、どんな表情をするのか、見てみたい。
もっと……キス、したい。
膝の上に抱き上げた獄寺の体が、もぞもぞと動く。
居心地が悪いのか、それとも快感を堪えているのか、どちらだろう。
素知らぬ振りでキスを続ける。とうとう、うっすらと開いた歯列の隙間から舌を差し込み、口腔内への侵入を果たすことができた。獄寺の唾液は甘かった。子どものように甘い、バニラのようなにおいがしている。怯えさせないようにやんわりと舌先で獄寺の舌をつつき、様子を見る。おずおずと綱吉の舌に、獄寺の舌が触れてくる。
「ぅ……ぁ、ん」
舌を優しく吸い上げると、声が洩れた。鼻にかかった余るような声が、愛しい。綱吉は片方の手は乳首に残したまま、もう一方の手で脇腹をなぞりおりていく。
「んんっ!」
ビクン、と獄寺の体がわずかに跳ねる。
綱吉の手は、獄寺の股の間に触れていた。布越しに触れる性器は十四歳の少年らしいほっそりとした大きさで、パジャマの上からでも熱を帯びているのが感じられた。
「あ……」
唇を離すと獄寺は、恥ずかしいのか、綱吉の胸に縋りついてきた。綱吉のパジャマの肩のあたりをぎゅっと握りしめて、額をぐいぐいと胸に押しつけてくる。
「ここを触られるのは、嫌?」
尋ねると、獄寺ははっと息を飲み、体を硬直させた。
相変わらず眉間には皺を寄せたまま、困ったように綱吉の目を覗き込んでくる。
「嫌……じゃ、ない……です」
本心はどうだかわからない。
家のために自分が養子に出されたことを獄寺は知っている。綱吉の元で、女のように扱われるだろうことまで彼は知っていた。だが、本音はどうなのだろう。
男の下で女のように喘ぎ、犯されることを、彼は喜んで受け入れようと決心しているのだろうか。
それとも……。
「じゃあ、続けるよ」
布の上からやわやわと股間を揉みしだいていると、獄寺の前が次第に盛り上がってきた。 素直で可愛らしい体だと思うが、その間にも獄寺は唇をきゅっと噛みしめ、声をあげるのを堪えている。獄寺にとってはただ耐えるだけの行為でしかないのかと思うと、可哀想でならない。
なにより、獄寺の意に添わない行為を強いる自分に、酷く腹が立つ。
「……嫌なら」
ポソリと綱吉は、獄寺の耳元に囁きかける。
「嫌なら、嫌だって言うんだぞ」
そう言っておいて綱吉は、獄寺の乳首を指の腹でにじり潰す。途端に獄寺の唇からか細い声が洩れたが、すぐに唇はまた噛みしめられた。
布地の下の性器は今や完全に勃起していた。獄寺の形を確かめるように何度かてのひら全体で擦り上げると、それだけで先走りが溢れ出してきたのか、パジャマに染みが広がっていく。
もどかしそうに獄寺の足がもぞもぞと動き、シーツを蹴る。
「あ……あぁ……」
このまま抱き潰してみたいと綱吉は思った。
自分のものにして、一生、側に置いておきたい。手放したくない。
うっすらと開けた獄寺の唇の奥に見える舌は紅く、淫らに蠢いている。無意識なのだろうが、その舌の動きがなんともいやらしく見える。
「や……ダメ……ん、んくっ」
拒絶の言葉を獄寺が口にしようとするのを、綱吉は唇で塞ぎ止めた。獄寺の口の中に舌を差し込み、唾液ごと舌を吸い上げる。さっきは怖がらせないように加減をしていたが、今度はきつくきつく、根本から吸い上げてやる。鼻にかかった声は拒絶ではないだろうか。不安に思いながらも綱吉は唇をゆっくりと離し、そのかわりに獄寺の股間をなぞっていた手で、唇に触れた。
すぐに獄寺は、綱吉の手を掴んできた。
「舐めてごらん」
指先で唇をなぞりながら、促すように囁いてやる。
従順に獄寺は従った。
綱吉の手に自分の手を添えて、指を、口の中に招き入れる。
クチュ、と音を立てて綱吉の指が、獄寺の唾液に濡らされていく。
「ああ……上手だよ、獄寺君」
声をかけると、満足そうに獄寺が喉を鳴らしたような気がした。
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