綱吉が仕事から帰ると部屋の中は静かだった。
リビングではテレビがついていて、淡々とニュースが流れている。
獄寺は、と部屋を見回すと、彼はソファに丸くなって眠っていた。体を丸めて眠る姿は年相応の子どもらしく微笑ましく思えたが、その寝顔は険のある表情だった。眉間に皺を寄せて、小難しい顔をして獄寺は眠っている。
「獄寺君……寝てる時ぐらい、気を抜こうよ」
低く呟いて、獄寺の眉間の皺を指でそっと撫でる。
眠っている時にもこんなふうに気を張り詰めているのは、おそらく綱吉のせいだろう。あの初夜の日に、自分を抑えきれずに獄寺に触れてしまったからだ。あれ以来、獄寺は綱吉には意識して近づかないようにしているように見える。どうやらすっかり警戒されてしまったようだ。自分で了承したものの、ことの重大さにようやく気づいたのだろう。
かといって、綱吉のことを嫌っているようでもない。警戒はしているが、興味はある。近づいてちょっかいをかけてみたいが、近づくに近づけず、悩んでいる。そんなところだろうか。
そのまま床に腰をおろした綱吉は、ソファで眠る獄寺の銀髪を指に絡めた。髪を洗ったもののちゃんと乾かさなかったのか、湿っている。
もう少し早めに帰ってくるべきだったと綱吉は思う。獄寺が起きている間に帰宅して、髪を乾かしてやるのだった。そうすれば、この間の……初夜の続きができたかもしれないのに。
静かに溜息をつくと綱吉は、獄寺のこめかみに唇を寄せた。
起きている時に触れることが叶わないのなら、せめて眠っている時ぐらは許してほしいと思う。
それからしばらくの間、綱吉は獄寺のそばに座り込んでいた。
時折、ほっそりとした銀髪を指で梳いてやる。
シャンプーの香りに混じって、甘ったるい菓子のようなにおいがしている。フゥ太やランボが幼かった頃も甘いにおいは時折していたが、ここまで甘いにおいではなかったような気がする。甘いのは子ども特有のにおいだろうが、それにしても獄寺のにおいにはもっと別の甘さが混じっているようだ。
このままベッドへ連れていけば、目が覚めた時に驚くだろうか。
今はなにもするつもりがなくても、確約はできない。
こんなふうに無防備な姿を目の前にして、なにもしないだなんて。そんなことは無理なことだと、綱吉はこっそりと溜息を吐き出したのだった。
獄寺の体はやはり男の子の体だった。
ソファから抱き上げた体はほっそりとして華奢だったが、女の子のような柔らかさはなかった。
獄寺のために用意した部屋へ連れて行こうと思いながらも綱吉の足は、自室へと向かっている。
できることならこの間の続き……いや、やり直しをしたかった。
結婚式の翌日から綱吉の帰宅時間は遅くて、二人の時間は夜はすれ違ってばかりだった。故意にそうしていたのだが、フゥ太にも山本にも咎められてしまった。帰宅した時に顔を合わしても、獄寺はさっさと自室へ引っ込んでしまうため、こんなふうに触れる機会すらなかったのだ。
「寝るなら部屋で寝てなきゃダメだよ、獄寺君」
ベッドにおろした獄寺へと、綱吉は囁きかける。
「ん……」
環境がかわって疲れているのか、獄寺は目を覚ます様子もない。
少しばかりの罪悪感を感じながらも綱吉は、獄寺のパジャマに手をかけた。ゆっくりとボタンを外していく。枕元の灯りが、パジャマの下の肌の白さを浮き立たせる。
「もうちょっと肉付きがよくなってもいいかな」
肋骨がうっすらと浮き出る体に手を這わし、中指の腹でついでとばかりに乳首に触れた。 獄寺が女の子ではないことは承知の上だったが、触れれば硬く凝ってくるのは最初の夜に確認済みだ。
本当は、あの日から毎晩でもこんなふうにして獄寺に触れたかった。
式を挙げるまでは男同士だからと難癖をつけて夜の生活はうやむやのままに誤魔化してしまうつもりだった綱吉だが、翌日にはあっさり気持ちを覆していた。自分の腕の中で乱れる獄寺の姿を見てしまった綱吉は、もっと乱れる様子を見たいと思っている。男だからとか、子どもだからとか、そんなことは関係ない。きっと獄寺は、淫靡に乱れてくれるだろう。
唇に触れるだけのキスをすると、舌で乳首に触れてみる。二度、三度と舌先でつついたり吸い上げたりしながら、もう片方の乳首を指で摘んだ。
「……んっ」
寝返りをうとうとした獄寺が違和感に気づいたのか、はっと目を覚ましたのはその瞬間のことだ。
「あ……十だ、ぃ……」
自分の置かれている状況に気づいていないのか、獄寺は不思議そうに綱吉の顔を見上げている。
「おかえり……なさい」
そう言った獄寺の声は、寝起きだからだろうか、少しばかり擦れている。
「ただいま、獄寺君。遅くまで待っててくれたお礼だよ」
綱吉は、怖がらさないようにそっと獄寺にくちづけた。
キスは、思っていたとおり甘かった。
獄寺が甘いのは子どもだからだと思っていたが、それだけではないらしい。舌の先で獄寺の唇をなぞると、咄嗟のことに歯を食いしばろうとしていた唇が綻んだ。すかさず口の中へと舌を差し込み、唾液を流し込んでやる。獄寺は従順にそれを飲み下していく。
クチュ、と音を立てて舌を吸い上げれば、同じように獄寺の舌も綱吉の舌に絡みついてくる。
「ん、んっ……」
この従順さを信じてもいいものだろうか。
ビアンキになにを言われたのか綱吉にはわからないが、獄寺が姉の言葉に従おうと一生懸命なのはよくわかっている。てきもないのに綱吉とセックスをしようとする、その心意気は認めてやらなければならないだろう。
「もっと大切にしようと思ってたんだけどな」
本当は、触れないでいようと思っていた。家のために手放すしかなかった父親のかわりに、獄寺を育てあげようと思っていた。なのにビアンキが焚きつけるようなことを言うからだ。あの時、おそらく綱吉の中で気持ちが崩れたのだ。
「大切、に……?」
眠たいのか、舌っ足らずな声で獄寺が聞き返す。
「オレは、君を大切にしているかな?」
どう思う? と尋ねると、獄寺はふわりと笑った。
「十代目は俺のこと、大切にしてくれてます」
本心からそう言ってもらえているのかどうか、怪しいものだ。式を挙げてそう日も経っていないのに、自分は獄寺をほったらかしにしている。そもそも、十四歳の子と一緒に暮らすことになったとは言うものの、自分は彼のためになにひとつまだ、していない。お義理程度に必要最低限のことだけをして、わざと忙しいふりをして帰宅時間を遅くしているのは、いったい誰だ。
「本当に、そう思う?」
顔を覗き込むと、獄寺は困ったように口ごもった。
「こんなことをされても、本当に大切にしてもらえてると、獄寺君はそう思えるんだ?」
言いながら綱吉は、獄寺の脇腹に手を当てた。臍のすぐそばに唇を落とし、何度か皮膚を吸い上げてから白い肌をピチャリと音を立てて舐め上げる。
「あ……っ」
ビクッと体が揺らいだが、綱吉は無視した。
「十、だ……」
寝起きで混乱している間にことを進めてしまおうと綱吉は思った。それがせめてもの優しさだ。
「しーっ。じっとしてて」
言いながら綱吉は、獄寺のパジャマのズボンを下着ごと引きずり下ろす。乱暴に剥ぎ取ると、ベッドの下へ投げ飛ばす。
「……やっ」
逃げようとして四つん這いになった獄寺の腰を掴むと、綱吉はそのまま無理矢理に足を開かせた。
こんなふうに乱暴なやり方で誰かを抱いたことはない。本当は自分だって、こんなことはしたくないのだ。だが、こうでもしなければ獄寺が可哀想な気がした。大切にしたいという思いとは別に、いつか獄寺が自分のところを去る時にはなににもとらわれることのない気持ちで去ってほしいという気持ちがあった。
こんなふうにすれば、獄寺はきっと綱吉のことを嫌いになるだろう。恨めばいい。憎めばいい。そうすれば、男に抱かれることに対する嫌悪感もなにもかも綱吉一人に向くだろう。家のためだとか、父や姉のためだとか、そんなことを思いながら男に抱かれるのは悲しすぎる。綱吉一人が悪者になることで、父や姉との関係がこれまで通り続いてくれるのならば、それでいい。
たった十四歳なのだ、獄寺は。
「十代目?」
白い体が逃げようとするのを押さえつけ、綱吉は獄寺の尻に手をかけた。
「すぐに気持ちよくなるよ」
尻の奥の部分を指でなぞると、きゅっと窄まる。襞の一本いっぽんを指で伸ばすようになぞりながら、顔を近づけていく。
「じゅ、ぅ……や、十代目……」
まず舌を押しつけ、襞の隙間を舌先でつついてみる。窄まりがヒクッと震えるのを舌で感じながら綱吉は、その部分を唾液で濡らしてやった。ローションでも用意しておけばよかった。こんなことをするつもりは本当になかったから、なんの用意もしていないのだ。
片手で胸のあたりをまさぐると、すでに獄寺の乳首は硬く凝っていた。それが気持ちいいからなのかどうかまではわからなかったが。
「ここ、硬くなってるね」
指の腹で乳首をにじり潰すと、獄寺の上体がカクン、とシーツに沈んだ。
「やっ……十代目、やめっ……!」
もぞもぞと綱吉の下から抜け出そうともがく体を、押さえ込む必要があった。空いているほうの腕で腰のあたりを抱えると、伸び上がって肩胛骨のあたりに唇で触れる。チュ、と音を立てて肌を吸い上げると、うっすらと朱色の跡が残る。明日はまだ学校があるから、今夜はもう跡をつけないようにしてやらなければ。唇をずらして背中にキスを落としていく。その合間に胸を弄ってやると獄寺は、啜り泣くような声を何度もあげた。
獄寺に触れているだけでも、自分はどうにかなってしまいそうだ。
綱吉は熱い吐息と共に獄寺の肌にもうひとつ、キスを落とした。
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