熱心に指をしゃぶっている獄寺の唇の端から、唾液が伝い落ちていく。
エロいなと綱吉は思う。
十四歳だというのにこの少年は、どうしてこんなにも淫靡に見えるのだろう。
綱吉の人差し指と中指とは、獄寺の唾液にまみれている。口の中を掻き混ぜるようにして舌をくい、と押してやると、すぐに獄寺の舌は指に絡みついてくる。ジュッ、と湿った音を立てて吸い上げたり、指の腹にチロチロと舌先を這わせたりと、忙しそうにしている。
最後までしてみたい。
だが、今夜は少しだけ、と先に宣言してしまっている。その言葉を破って最後までことを押し進めてしまうのは、綱吉には躊躇われた。
とは言うものの、少しだけとは、どこまでを指すのだろう。
「んっ、ぅ……」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、綱吉の指は唾液にまみれている。このまま、獄寺の舌で愛撫されていたい。そのうち、獄寺には綱吉のものを舐めてもらうことになる。今夜はそのための予行演習だと思えばいいだろう。
「このままイかしてあげるよ」
耳元に囁きかけると、獄寺のほっそりとした体がビクビクと震える。
健気で可愛らしいところがいい。このまま汚してしまいたくなる。
「ん、ふ……」
綱吉の言葉の意味を、獄寺は理解しただろうか? 熱心に綱吉の指をしゃぶるばかりで、いいとも悪いとも答えない。パジャマの前立てを窮屈そうに張りつめさせているくせに、膝を合わせてもじもじとするばかりの姿がいじらしくてたまらない。
パジャマの上は大きくはだけており、今にも肩からずり落ちてしまいそうだ。綱吉が執拗に弄った乳首は、赤くぷっくりと腫れている。
「肌が白くて綺麗だから、跡がつかないようにしないとな」
そうひとりごちると綱吉は、獄寺の首筋に唇を押しつけた。
白い肌に朱色の刻印を残すのは、きっと愉しいだろう。
だが、今日は駄目だ。
チロリと白い皮膚を舐め上げると、名残惜しそうに唇を離す。
それから再び獄寺の乳首に空いているほうの手を這わせる。手のひらで優しくなぞったり、指で摘んでこねくり回したりすると、獄寺の膝が可哀想なほどに揺れた。前立ての染みは少しずつ大きくなっていく。綱吉が触らずとも、このままイッてしまうのではないだろうか。
「声、出してもいいんだよ」
優しく、諭すように声をかけると、獄寺はふるふると首を横に振る。目尻に涙が滲んでいるのは、この行為が嫌だからだろうか。
首筋、耳たぶ、と唇を這わせ、最後に獄寺の耳の中に舌を差し込んだ。ぬる、と唾液を絡めて耳の中を舐め上げると、獄寺は足をピン、と伸ばしてつま先でシーツを蹴った。膝を合わせたり開いたりして、不安そうに前を張りつめさせている。
足の動きまでがいじらしく思えてきて、綱吉は口元に淡い笑みを浮かべた。
「可哀想だけど、今日はもう、前は触らないよ。あんまり一度にいろいろ経験しちゃうと恐いだろ?」 染みで色の濃くなったパジャマをちらりと見て、綱吉は言った。
目尻に涙を溜めた獄寺の膝は、苦しそうに揺れている。
できることなら自分の手でどうにかしてやりたかったが、これ以上は十四歳の獄寺には刺激が強すぎるだろう。
「イッてごらん。見ててあげるから」
そう言うと綱吉は、いっそう執拗に獄寺の耳と乳首への愛撫を繰り返した。
獄寺の口の中で唾液にまみれた指を動かすと、くぷ、と水音がくる。指を口の中から引き抜こうとすると、獄寺の舌が引き留めるかのようにして絡みついてくる。素直で従順な様子だけを見ていると、この行為をそう嫌がっているわけでもなさそうだが……本当のところは、綱吉にはわからない。
「獄寺君……」
熱っぽい声で囁くと、獄寺の体が大きく跳ねた。
「ん、んーっ!」
くぐもった声をあげると同時に足を突っぱねて、シーツを何度も蹴ったかと思うと胸を大きく突き出し、獄寺はビク、ビク、と体を震わせた。
ふと見ると、前立ての染みが大きく広がっていくところだった。
「上手にできたね」
労るように声をかけると、銀髪に何度も唇を落とす。
腕の中では獄寺が、ふーっ、ふーっ、と息を切らしている。
「じゅ……だ、ぃ……」
今にも泣き出しそうなか細い声で、獄寺が名前を呼ぶ。
「中、ベタベタだろ?」
そう行って、獄寺の前立ての染みを指でピン、と弾く。
「あっ!」
こんなふうに下着の中で爆ぜたのは、もしかしたら初めてだろうか?
そっと獄寺の横顔を窺いながら綱吉は、獄寺の体を解放してやった。
「もう一度シャワーを使って、さっぱりしておいで」
今日はもう、何もしないでおいてやろう。綱吉はそう思った。
獄寺はもたもたとベッドから下りると、へっぴり腰の不格好な歩き方でバスルームへと消えていく。あの様子では、ここへ戻ってくるまでにしばらくかかるかもしれない。次に綱吉に触らせてくれるのは、いつになるだろう。
気持ちの整理をする時間はやらないでもないが、そう長く待つ気はない。
頃合いを見て綱吉は、バスルームに隣接する脱衣スペースに入っていく。新しいバスタオルを見つけると、声をかけた。
「獄寺君、新しいバスタオルを用意したから、出ておいで。部屋に戻ろう」
バスルームの中はしんと静まり返っていた。だいぶん経ってから、湯船からあがる音が聞こえてくる。
ほそっこい素っ裸の少年が、のろのろとした動きで綱吉の前に姿をあらわした。
「あの……」
「今日はもう、なにもしないから大丈夫だよ」
不安そうな表情に、綱吉は優しく笑いかけた。
部屋に戻ると綱吉は、ベッドに潜り込んだ。
胸に獄寺を抱き込み、ほっそりとした体に腕を回して目を閉じる。
獄寺はどこかしら居心地悪そうにしている。いつまでももぞもぞしているのは、こんなふうにして誰かと一緒に眠ることに慣れていないからかもしれない。
あたたかな体温は、綱吉が子どもの頃に弟分にあたるフゥ太やランボに添い寝した記憶を思い起こさせた。
「もう何もしないから、安心しておやすみ」
声をかけ、獄寺の頭のへっぺんにキスを落とす。
一瞬、体を強張らせたものの、獄寺はすぐに体の力を抜いて綱吉の腕の中でおとなしくなった。
疲れているだろうになかなか寝つけない様子の獄寺は、きっと神経が高ぶっているのだろう。綱吉が寝たふりをしてじっとしていると、そのうち獄寺も眠ってしまったらしい。
夜中に綱吉が目を覚ました時には獄寺は、すでにぐっすり寝入っていた。
十四歳だというのに、可哀想に。自分の家の状況を知りながら、獄寺は綱吉の元へやってきたのだ。
「……可哀想に」
ぽつりと、本音が洩れた。
自分が十四歳の頃と言えば、のんびりとしていた。毎日、自分の思うように好き勝手して……山本と親友同士になる以前は引きこもりだった。それがいつしか綱吉のまわりには友人が集うようになり、山本の野球の試合を見に行ったり、皆で遊びに出かけたりするようになっていった。そうだ、あの頃、自分には気になる女の子もいた。今もいい友人としてのつき合いがあるが、彼女の言葉にあの頃の自分はどれだけ救われたことか。
「大切にするよ、獄寺君」
そう呟くと綱吉は、獄寺のつむじにそっとキスをした。
それからもう一度ベッドに入り直し、獄寺の体に腕を回す。
抱きしめていると、呼吸が感じられた。あたたかな体温と、トク、トク、という鼓動が耳に心地よく響いてくる。
こんなにも健気でいたいけな子に、これから自分はどう接していけばいいのだろう。どう守っていけばいいのだろう。
とりあえずは、実家の心配を取り除いてやるのが最優先かもしれない。
なにかもっともらしい理由をつけて、融資を……いや、それでは獄寺に気づかれてしまうかもしれない。ごく短時間しか獄寺とは一緒に過ごしていないが、綱吉は彼が聡明だということに気づいていた。
どうにかして、獄寺のプライドを刺激しないやり方で、実家に援助をしてやる必要がある。それも早急に。
明日、獄寺が新しい中学へ登校したら、その後でフゥ太に相談することにしよう。
うとうととしながら綱吉は、そんなことを思った。
これから獄寺が快適に過ごすことができるかどうかは、すべて自分の采配にかかっている。うまくやれるだろうか?
うまくやらなければ──と、綱吉は決意を新たにする。
人ひとり守ることもできないで、マフィアのボスだなんて大きな顔をしていられるものか。自分の持てる力を使ってでも綱吉は、獄寺をできる限り庇護してやるつもりでいる。
だけどそれは、明日、日が昇ってからじっくり考えればいいことだ。
獄寺の首筋に鼻を押しつけ、息を吸い込むと石鹸のにおいとほんのりと甘ったるい砂糖菓子のようなにおいがした。これが獄寺のにおいなのだろうか。
子どものような甘い匂いに心がほわん、と軽くなる。
いつまでもこうして寄り添っていたいような気になる、そんな優しい匂いだ。
「オレが、誰よりも大切にするからね」
もう一度、綱吉は呟いた。
部屋の中はしんと静まりかえっていたが、それは穏やかで満たされた静けさだった。
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