『愛は、キマグレ! 3』
体の芯がゾクゾクしている。
サンジは口の中がカラカラになっていくのを感じて、唇をペロリと舌で湿らせた。
「じゃあ、今すぐそれを証明してみせろよ」
どことなく拗ねたようにサンジが言い放つのに、ゾロは顔をしかめる。
ちゃぶ台ごしに繋いだ手をゾロがぐい、と引っ張ると、サンジは膝立ちになった。ぐるりとちゃぶ台を避けてサンジは、ゾロの前へとにじり寄ってくる。
「会わないなら、それはそれで平気だったんだけどな」
そう言ってサンジは、ゾロの頭を胸に抱き込んだ。
緑色の短髪へ愛しげに唇を落としては、サンジは甘い吐息を吹きかける。汗の臭いがして、ゾロの存在を改めてサンジは実感した。
「お前の顔を見た途端、触れたくなった……」
触れてどうしたいのかは、言葉にする必要もなかった。
察しのいい恋人は、服の上からサンジの体に手を這わせた。
「遠慮してねぇで、じかに触れよ」
上擦った声でサンジはそう言うと、着ていたシャツのボタンを片手で外しはじめる。ボタンを外し、シャツをパサリと畳の上に落とした。華奢な白い肌は、ゾロの前ではどことなく弱々しく見える。伏し目がちにサンジがベルトに手をかける。
「あ……?」
サンジの体を見て、ゾロが小さく声をあげた。
「あ?」
顔を上げてゾロを見遣ると、ゾロはいつになく難しい表情でサンジを睨み付けていた。
「こりゃ、なんだよ」
怒りを含んだ問いに、サンジはゾロの顔をまじまじと見つめ返した。
「いったいいつの間に、こんなモン……」
ゾロの言葉にサンジは、ああ、と小さく呟いた。
修行に出た先のレストランには、サンジと似たり寄ったりの境遇の先輩コックや見習いが何人かいた。
そのうちの一人は、サンジと同じようにニコ商会から派遣されてきたコック見習いだという。
エースという名のその男はサンジより一つ年上の、愛想のいい男だった。
同胞のよしみというのだろうか、右も左もわからぬ異国の地でサンジは、エースと急速的に親しくなっていった。
エースの大らかさが、ゾロを思い出させた。
ゾロがいない分の寂しさを、サンジはエースという仮の存在で埋めようとしていたのかもしれない。どちらにしても、気付いた時には店の仲間たちからからかわれるほど二人は親しくなっていた。ずっと昔からの親友のように。そして時には、恋人のように。
その仲の良さの裏には最初から恋愛感情が潜んでいたのかもしれない。
特にエースのほうには、そういった感情が含まれていた。サンジと親しくなり、ちょっとしたスキンシップを交わすようになった。次は、どうしよう。ふとした拍子に肩を抱いたり、腰に手を伸ばしたり。そんなさりげないアプローチを人目も憚らず、しかけてくるようになっていった。
一方のサンジには、浮ついた噂はひとつとしてなかった。もちろん、店に出入りする女性スタッフや女性客にデレデレしていることはあったが、私生活でのサンジが色恋沙汰でどうこうしたという話はこれっぽっちも出たことがない。ゾロという恋人がいるのだという話を仲間にしたこともなく、どちらかというと傍目には恋愛には奥手なタイプとして映っていたようだった。
そんな時、エースの住むアパートがサンジの部屋のすぐ近くだという噂を耳にした。
話の成り行きからエースの部屋に行くことを約束させられてしまったサンジは、これっぽっちも警戒心を抱くことなく、エースの部屋に上がり込んでしまった。
その時にエースからもらったものがある。ピアスだ。
青い小さな石のついたピアスを手渡され、酔った勢いも相まって、サンジはその場でピアスホールをあけてしまった。
翌朝、酔いが醒めてみると自分のしたことが馬鹿なことだったと後悔することになるのだが、あまり思い出したくないことが隠されているのか、以来、サンジはエースとは疎遠になっていった。
残されたのは、臍の脇に開けられたピアスホールと、青い小さな石のついたボディピアス。それから、得体の知れないほんのわずかな胸の痛みだった。
「──あけてもらったんだ、向こうで」
何でもないことのようにサンジは、さらりと返す。
「あけてもらっただぁ?」
目をすがめて、ゾロはギロリとサンジを睨み付けた。
「ああ。向こうで知り合った奴で、すごくいい奴がいてな……」
そう言っておいてサンジは、ゾロの頭をガシガシと両手で掻き乱す。エースにあけてもらったと正直に言うことは、できなかった。かわりに緑色の短髪に唇を何度も落としては、愛しそうに頬をすり寄せた。
「まさかお前、他のところも……」
不意に思い出したように言いかけたゾロの頭に軽く頭突きを食らわせると、サンジはニヤリと笑って恋人の鼻先に噛みついていく。
「何もなっかったよ、てめぇが思うようなコトは」
くぐもったゾロの声に、満足そうにサンジは喉を鳴らした。
ゾロは黙って、サンジの顔を見る。
「……俺に、会いたかったか?」
尋ねかけるサンジの唇が、ゾロの唇をさっと掠める。
「俺がいない間、どうしてた?」
と、サンジは膝でゾロの方へと這い寄っていった。膝頭でするり、するりとゾロの股間をなぞり上げ、その部分が張り詰めていく感触を楽しんでいる。
「自分で、ヌいたりしたのか?」
もう一度、今度はゾロの唇にしっかりとキスを落とす。
二度、三度と唇を合わせているうちに、ゾロの手が、サンジの脇腹のあたりを掴んだ。大きな手が、ゆっくりとサンジの体のラインをなぞりおりていく。臍の近くを、指の腹で触られ、サンジの体は小さく揺らいだ。
「んっ……は……」
自然と声が洩れ、サンジはゾロの首にぐい、としがみついた。
「──そっちこそ、どうしてたんだよ」
上擦ったゾロの声に、サンジは微かに笑った。
お互い、こんなにも相手を欲していたのだ。遠く離れていても、同じ想いをしていたのだと気付くことができた。悶々としながらも、相手に触れてもらうことだけを考えて日々を過ごしてきた。こんなにも嬉しいことはない。
「すっとアンタとヤルことだけを考えてたゼ、俺は」
そう言ってサンジは、畳の上にゾロを押し倒した。
畳の上で、二人はじゃれ合った。
まだ日が高いからと、欲情して掠れた声でサンジが言うと、ゾロは黙ってサンジの唇を吸った。
二人とも夜になるのを待って、畳の上で抱き合って過ごした。
日が暮れてくると、腹が減ってきた。くいなとたしぎの姉妹が二人を呼びに来る前にと、ゾロはサンジを連れて部屋を後にした。
「どこに行くんだよ」
運転席のサンジが、不機嫌そうな声を出す。
「ああ……どこに行く?」
助手席に乗り込んだゾロがそう返した途端、サンジは乱暴に車を発進させた。ガクン、と車体が大きく揺れ、ゾロはドアで肩をしたたかに打った。
しばらく車を走らせたところで、サンジがブレーキを踏んだ。
急ブレーキに、またもやゾロの体がつんのめりそうになる。
文句を言おうとサンジのほうを見たところで、勢いよく抱きつかれてしまった。
「ヤろうぜ、ここで」
唇を塞がれ、窒息しそうになるまで舌を激しく吸い上げられた。サンジの激しさは、これはいったいどこからくるのだろうか。会えなかった時間を埋めるための激しさとは異質なものを、ゾロは何とはなしに感じ取っていた。
狭い車内でサンジは、ゾロの股間へと手を走らせた。ボトムの上からゾロの性器に触れると、あっという間に硬くなっていく。
ゾロは黙ってサンジのいいようにさせていた。サンジの項のあたりを指で優しく撫でてやると、甘い吐息が赤い唇から零れ出た。
「ゾロ……欲しい……」
熱に浮かされるようにしてサンジは呟くと、ゾロのボトムの中から勃起しかかったものを取り出した。硬くなりかけたペニスに唇を寄せると、一気に喉の奥に届けとばかりに口に含んだ。
to be continued
(H19.11.30)
|