『愛は、キマグレ! 12』
のしかかってくる重さに、サンジは満足そうに喉を鳴らした。
緑色の短髪に指を差し込んで引き寄せると、ボディソープのにおいがしている。
「お前、シャンプーとボディソープは別だっていつも言ってっだろ」
言いながらサンジは、ゾロの髪をガシガシとかきむしった。まるで猪毛のようだな硬質の髪だ。
指の間に男の髪を感じながら、サンジはニヤリと笑った。
やはりこの男でなければとサンジは思う。この男の手の熱さだとか、重ねられた肌に感じる筋肉だとか、汗や体臭だとかが、愛しくてならない。
駄目なのだ、エースでは。
おそらくエースならば、ゾロ以上にサンジのことを大切にしてくれるだろう。修行先にいた時から、エースの気遣いははっきりと感じていた。しかし自分は駄目なのだ、目の前のこの男でなければ。
緑色の髪ごとゾロの頭をぎゅっと抱きしめると、苦しいと抗議の声があがる。
サンジは顔を寄せて、キスをした。
唇を掠めるようなキスを繰り返し、合間に下唇の肉をやんわりと噛みつける。舌を突き出しペロリと唇を舐めると、すぐにゾロの舌が絡み付いてくる。
「んんっ……」
ごつごつとして節くれだった指が、サンジの尻を撫で回していた。
「いいから挿れろ」
悪戯っぽく笑ってサンジがねだると、ゾロの指が襞の縁をくい、と引っ張る。
「大丈夫か?」
気遣わしげに尋ねるゾロに、サンジは大丈夫だと返した。
このところ、会えばセックスばかりしているように思う。こちらに帰ってきた日はさすがに体が辛かったが、それも二度、三度と回数を重ねるごとに体が馴染んできた。今なら、少しぐらい無茶をしても大丈夫だろう。
サンジの尻を抱えるとゾロは、慎重に腰を進めた。ゆっくりと体の中に穿たれていく楔は、熱くて硬い。
全部飲み込んだことを確かめるかのように、サンジは自分の尻へと手を回した。
「根元までぎっちり銜え込んでるな」
ニヤニヤと笑って告げると、どこか決まり悪そうにゾロは目を逸らす。
「煽ってんのか?」
尋ねる男の喉下に噛み付いて、サンジはケタケタと声を上げて笑った。
後孔に潜り込んだ竿の根元を指でなぞってやると、サンジの中でグン、と質感が増す。
「なあ。硬くなったぞ」
この間と状況は似ているが、今日はサンジのほうがリードしているようで、いい気分だ。 そのままゾロの体をぐい、と押し返すとサンジは、男の腹の上に馬乗りになった。
膝を立て膝にして股間を大きく開くと、自分で性器を扱き始める。
「お前、手ぇ出すなよ」
お前は見てるだけだとサンジが宣言すると、ゾロはフン、と鼻を鳴らした。
そのままサンジは、腰を大きく揺らした。勃起した自身の性器は、ゾロの唾液で既に湿っていた。竿を握り、何度か扱くとそれだけで先走りが溢れてくる。
触ってほしいとも、触ってほしくないともサンジは思った。
自分でするのもいい。しかし、ゾロのあの大きくて無骨な手に翻弄され、焦らされるのもいい。
「あ……ぁ……」
ブルッとサンジの体が震えた。
背筋を走る快感に、手の中がぬるりと湿る。まだ先走りだけだというのに、すっかりヌルヌルになってしまっている。
「ゾロ……」
先走りで濡れた手を差し伸べると、手首を掴まれた。
「ドロドロだな」
そう言うとゾロは、先走りでてらてらと濡れて光るサンジの指先をペロリと舐めた。
下からの突き上げは緩やかだったが、揺さぶられるだけでサンジの内壁はキリキリとゾロのペニスを締め付けた。
「ぁ、は……」
もっと焦らしてほしいとサンジは思った。
ゾロの眼差しは、真っ直ぐにサンジを見つめている。
「エロい口してんな、お前」
今、気が付いたとでも言うのか、ふとゾロが呟いた。
「バカ」
押し殺した声でサンジが囁く。口を開いたら、喘ぎ声が洩れてしまいそうだった。恥ずかしいのと、声を聞かせてやりたい気持ちとが葛藤となってサンジの中で渦巻いている。
ゾロの舌が、ざらりとサンジの指先を舐めあげる。指の第二関節のあたりまで口にくわえられ、先走りと一緒に吸い上げられる。クチュクチュという湿った音が卑猥で、サンジの体の先までじんわりと快感が走る。
「んっ、ぁ……」
片手をゾロの腹の上につくと、すぐに手を取られた。
「そのまま腰、振ってみろよ」
少し掠れた声に優しくねだられ、サンジは素直に腰を動かした。
突き上げてくる圧迫感は不快ではない。もう何度も体を重ねた相手だ。どこをどうすればよくなるか、お互いによく知っている。
ピチャ、ピチャ、とゾロはまだ、サンジの指を舐めている。そうしながらも時折、サンジの動きに逆らうように下からやんわりと突き上げてくる。
サンジのやり方を心得ていて、その動きに合わせてくれている。
だからコイツが好きなんだと、サンジは不意に思った。
焦れったくなって腰を大きく揺さぶると、下からもやや強めに突き上げられた。
息つく間もなく突き上げが強くなり、目を閉じるとまぶたの裏が真っ白に光って見えた。口を開けると、意味のない言葉が喘ぎとなって洩れだした。口の端を伝うのは、涎だ。ゾロの指が、口元を拭ってくれる。
唐突に腹の中にあたたかいものが満ちていくのが感じられ、サンジの頭の中が真っ白になった。
目が覚めると同時に、サンジは小さく呻いた。尻の中にまだ硬くて熱い塊が潜り込んでいるような感触が残っている。
枕元の時計に目を馳せると、夜明けより少し早い時間だった。
絡みつく男の腕の中から抜け出すとサンジは、シャワーを浴びる。夕べの情交の名残をきれいに洗い落とすと髭を当たった。
昨日まではまだ迷っていたが、今日の夕方には飛行場に向かうつもりだった。
修業先へ戻ることに決めたのだ。
エースと顔を会わせるのはまだ少し怖かったが、自分で決めたことだ。戻ればおそらく、エースとは今までのような付き合いをすることはできなくなるだろう。単なる同僚として、今度は付き合っていけばいい。それならゾロも、ヤキモキする必要はなくなるだろう。
脱衣所で黒のボクサーパンツ一枚を身につけるとサンジは、部屋へ戻った。
ゾロはまだ眠っている。
日本を発つ前に、もう一度この男に抱かれたいと思う自分がいた。
ベッドの端に腰をおろすとサンジは、男の唇に自分の唇を重ねた。ケットの中に手を差し込み、素っ裸の男の股間に触れてみる。くたりとなった性器をてのひらで包み込み、やわやわと扱いてみた。
「……おい」
咎めるような声が不意に耳に聞こえてきたが、気にもせずにサンジはケットを捲り上げた。途端に、汗と精液のにおいがもわんと鼻先を掠めていく。
「お、朝から元気だな」
呟いて、サンジは目の前の性器を口にした。パクリとくわえると、まだやんわりとした硬さのペニスに舌を絡めていく。
亀頭を口の中で舐め回し、吸い上げる。先端に滲み出る先走りの濃さに一瞬は顔をしかめたものの、サンジは躊躇うことなく喉の奥まで竿をくわえこんだ。
「んんっ」
ジュル、と音を立てて先端を吸い上げると、ゾロの呼吸が乱れる。
ザマアミロ。サンジは思った。
しかし残念なことに、もう一度、抱き合うだけの時間はなかった。
サンジの口の中にゾロが放つか放たないかのタイミングで、店の電話がけたたましく鳴り始めたのだ。
「あ……」
顔を上げたサンジの口の端に伝うのは、飲み込みきれなかった白濁したものだ。
ゾロのほうに視線を向けると、彼は渋い顔をしてサンジを見下ろしている。
「あー、ジジィかな」
気まずそうに呟いてサンジは、ゾロから体を離した。
「早く行け。年寄りをあんまり心配させてやるなよ」
そう言ってゾロは、笑った。優しい笑みだ。
サンジは手近なところにあったジーンズをはくと、そそくさと部屋を出ていった。上は裸のままだった。
店におりると、サンジは素早く受話器を取る。
「はい」
ぶっきらぼうに返答をすると、受話器の向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前ぇ、いるならいるで、なんでもっとさっさと出ねえんだ」
苛ついたゼフの声に、サンジは眉間に皺を寄せた。
「寝てたんだよ。悪りぃか、クソジジィ」
それしか言いようがない。まさか、正直にゾロとセックスしてましたとも言えないだろう。
「嘘吐いてんじゃねえだろうな」
サンジの胸の内を見透かしたように、ゼフは探りを入れてくる。
サンジはドキリとした。受話器の向こうにいる相手にちょっと言われたぐらいで、自分は何を焦っているのだろう。
「本当だって言ってんだろ!」
子どものようにムキになって言い返すと、受話器の向こうでゼフが微かな溜息をつくのが感じられた。
「遊ぶのもほどほどにしておけよ、チビナス」
珍しく保護者らしいことをゼフは口にした。昔から短気なところのある老人だったが、実のところサンジのことを随分と高く評価していた。また、ゼフはサンジのことを彼なりに随分と可愛がってくれてもいるのだ。
あんまりつっけんどんにしていると、そのうちゼフの血圧が上がって本当に倒れてしまうかもしれない。受話器のこちら側でこっそりと深呼吸をすると、サンジは口を開いた。
「わかってる」
そんなこと、言われなくてもわかっていると言い返したかった。しかしそれでは、あまりにも自分が子どもじみていてみっともない。
「いつもの時間になったら店を開けるからこっちは大丈夫だ」
そうサンジが告げると、受話器の向こうでふっと空気が和らぐのが感じられた。
「見送りには行けねえが、しっかり修行してこい」
受話器を握りしめたままサンジは、何度も頷いた。
To be continued
(H22.8.14)
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