『冷たい炎』



  布地の上から性器に触れられた。
  布越しでも、エースの手の熱を感じることが出来た。熱い。吐息も、肌も、エースの体すべてが熱かった。
「ぁ……」
  身じろぎをしたサンジは、慌てて口元に手をあてた。
  下着ごとボトムをずりさげられ、下衣をはぎ取られた。無造作に床に落とされたバックルが床にあたって、ゴトンと音を立てる。
  躊躇うことなくエースは、サンジの三角の繁みに顔を埋めた。
  すでに固くなりつつあったサンジのペニスが、エースの口の中に飲み込まれていく。
「あ……あ……」
  ヒクン、とサンジの喉が大きく上下した。
  艶めかしい動きで舌が絡みついてきたかと思うと、口の端で竿を締め上げられる。エースの熱が、少しずつサンジの体に浸透していくかのようだった。
「恥ずかしい?」
  不意に顔を上げて、エースが問いかけた。
  勃起したサンジの性器の先端は、エースの唾液と溢れ出した先走りとでドロドロになっている。上体をわずかに起こしたサンジは、困ったようにエースの顔を見た。
「……気持ちイイ」
  躊躇いながらそう返すと、エースは嬉しそうににこりと笑う。
  そのまま、剥き出しにした歯をサンジの竿に押し当て、ゆるゆるとなぞる。時折、舌先で浮き上がった筋をつつくと、サンジの竿はピクピクと震えた。
「っ……」
  サンジの上体が揺らいだ。
  括れに近い部分をエースの手に握りこまれた。親指の腹で先端の割れ目をこじ開けるようにして強く擦られ、腰が逃げをうとうとする。
「あ……ぁふ……」
  にちゃにちゃと湿った音がして、サンジは思わずぎゅっと目を閉じた。
  玉袋を揉みしだかれ、口の中で転がされると、それだけでサンジの頭の中は真っ白になってしまった。



  体の中にこもった熱が、サンジの腹の底をむず痒い焦燥感でいっぱいにしていく。
  無意識のうちに声が洩れ、開け放した口の端からたらたらと涎が零れた。
「エー…ス……」
  囁いた声は微かに震えていた。嗄れて、欲情した自分の声はなんとみっともない声をしているのだろう。サンジは小さく首を横に振ると、エースの髪を掴んだ。
「エース、も、苦し……」
  そう告げた途端、体をひき起こされた。
  テーブルの上に座らされたサンジの体は、ともすればくにゃりと力が抜けてしまいそうだった。
「足を開いて」
  サンジの体を背後から支えながら、エースが耳元で囁く。
  言われるがままにサンジがのろのろと体を動かしていると、焦れたエースの手が、大きくサンジの股を開いた。誰が見ているというわけでもない。ここには、サンジとエース、二人だけしかいないのだから。それでも、気恥ずかしさからサンジは咄嗟に膝を合わせようとした。
  足に力を入れてぐっと膝を近づけようとすると、エースの大きな手がするりと太股をなで上げる。
「あ、あ……」
  言葉にならない啜り泣きのような声をサンジがあげると、エースに唇を塞がれてしまった。
  しばらくの間、くちゅくちゅという音だけがサンジの耳に響いていた。
  舌を差し込まれ、歯列をなぞり上げられると、それだけでサンジの口の中に唾液が溢れてくる。唾液を啜り取られ、舌を強く吸い上げられた。
  背後から回されたエースの手はいつまでたっても解放してくれる気配を見せず、今は根元をぎゅっと押さえ込まれていた。
「んっ……」
  大きく足を開かされた自分の格好を頭の中で思い浮かべるだけで、恥ずかしくてたまらない。目を閉じていても、サンジの頭の中に浮かんでくるのは自分のみっともない格好ばかりだ。
  慰めてやるという建前を振りかざして、この男を自分のものにしようと思っていたのに。
  抱かれるのではなく、抱かせてやるのだと思っていたのに、サンジの体は思っていたようには動かなかった。目の前の男の手にいいように翻弄され、喘がされている自分は、男ではない何か別の生き物になったような感じがする。
「ふ……ぁぁあ……」
  一際大きな声を放った瞬間、バタンとドアが開いた。
「驚いた。あなたたち、いったいいつからそんな関係になっていたの?」



  頭の隅のほうで、声の主にサンジは気付いていた。
  ロビンだ。
  何故、彼女がこんなところにいるのだろうか。
  絡みつくエースの腕を振り払おうとすると、さらに強い力で押さえ込まれてしまった。
「あら、気にしないで。ちょっと立ち寄っただけだから。お水をいただいたらすぐにでも退散するわ」
  うっすらと目を開けると、エースが今にも掴みかからんばかりの張り詰めた様子でロビンを睨み付けているのが見えた。
  何か言おうとしたが、エースの舌と唇に阻まれて、サンジの口は言葉を発することが出来ない。自分の股の間では湿った音が響いており、キスの合間には甘ったれた鼻にかかった声が洩れている。
  こんな姿をロビンに見られることになるだろうとは思いもしなかった。
  諦めて目を閉じたサンジは、エースの胸に背を預けた。放してもらえないのなら、抵抗するだけ無駄だろう。
  コツコツとロビンの靴音が響き、流しのほうから水音が聞こえてくる。すぐにコップを洗う気配がして、水音が止んだ。また、靴音が近付いてくる。
「口止め料をもらえるかしら?」
  エースに話しかけているのだろうか。そっとサンジが目を開けると、ロビンの繊細な指にするりと顎の先を撫でられた。
「みんなには黙っててあげる」
  そう、彼女は唇の動きだけで呟いた。
  柔らかな唇がさっとサンジの唇に押し当てられ、口の中に滑らかな動きの舌が潜り込んでくる。ほんのりと冷たい水を口移しに流し込まれて、サンジは貪るように与えられた水を飲み干していく。
  唇が離れていくと、サンジの目の前にはロビンの穏やかな笑みがあった。
「適当なところで戻ってこないと、別の誰かに見つかってしまうかもしれないわよ」
  悪戯っぽく彼女は告げると、二人に背を向けた。
  エースは始終黙ったままだった。



  二人きりに戻った部屋の中は、しんとして妙に気まずい空気が漂っていた。
  サンジが押し殺した浅い呼吸を繰り返していると、それに気付いたエースがゆっくりと手の動きを再開した。
  今度は、焦らされることはなかった。
  大きな手がサンジの性器を的確に扱き上げ、追い詰めていく。
  先端から溢れ出した先走りがたらたらと後ろのほうへと伝い流れていくと、エースの指はそれを追いかけ、奥の窪んだ部分に塗り込めるような動作を繰り返した。
「ゃ……め……」
  掠れた声でサンジが呟く。
  投げ出した足が、ひきつったようにピクピクと跳ね、動いている。
「わかってる」
  耳朶に齧り付きながら、エースが囁いた。
  ロビンに見つかった今となっては、興が冷めた状態でこのまま行為を続けるのも虚しいだけだろう。
「今日のところは、これでお開きにしておくよ」
  ペロリとうなじを舐められて、サンジははぁ、と大きな溜息を吐いた。
  エースの手が何度か握りこんだペニスを扱き上げると、サンジの腹筋がヒクヒクと痙攣しだす。強い手の動きに促され、サンジの意識は高みへと追い詰められていく。
「我慢しなくてもいいのに」
  目にかかる前髪をそのままに、エースは手の動きを早めた。
「ぁ……や、エース……」
  青臭い精液のにおいが立ちこめ、サンジは腰を大きく前へと突き出すような格好をして射精した。エースの手の中に放たれた精液が、受け止めきれずにテーブルにぽたぽたと零れ落ちた。



  宿に戻る前に、二人はシャワーを使った。
  身支度を整えると、何もなかったような顔をして宿に戻る。
  誰も、気付かない。
  出かけていた間に何があったかなど微塵も感じさせない二人の様子に、ロビンは冷ややかに眉をひそめただけだった。
  部屋に戻ったサンジは、煙草を忘れてきたことに気付いて舌打ちをした。
  本来の目的は、煙草だったはずだ。あんなことになってしまったせいで、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。今頃から煙草を取りに行くのも馬鹿馬鹿しいし、どうせ明日になれば船に戻ることになる。明日までの辛抱だと、サンジはもうひとつ、小さな舌打ちをする。
  宿に戻ってからロビンは、何も言わなかった。
  やはりあの口止め料が効いているのだろうか。
  本当のところはわからないが、向こうから何も言ってこないということは、心配する必要はないということだろう。
  ベッドの上にコロンと転がると、サンジは天井を仰ぎ見た。
  今夜のエースは、珍しく隣の部屋に入り浸っている。昼間のことがあるからサンジと顔を合わせ辛いのだろうか。宿に戻ってきてからのエースはずっと、ルフィから子どもの頃の話を 聞き出すのに夢中なふりをしている。
  このまま、どうなってしまうのだろう──サンジは息を殺して、溜息を吐く。
  コロコロとベッドの上で体の位置をずらし、目を閉じてみる。
  眠りたくないのは、昼間の興奮が残っているからだ。
  唇にも、指先にも、そしてエースに触れられた体のあちこちに、あの時の熱が残っているからだ。
  いったい自分は、どうしたいのだろう。
  エースとどうにかなりたいのだろうか?
  目をきつく閉じると、ぎゅっと手を握り締めた。頭から毛布を引っ被ると、サンジは唇を噛み締める。
  眠れない夜が、ゆっくりと過ぎていく──



To be continued
(H20.5.10)



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